あたしの最大の罪はあんたを愛して、あの子を産んだこと。

優しすぎて傷ついて、純粋すぎて狂っていくあんたに、あたしはどうしても何かを残したかったの。

だってあんたはあたしを愛してるわけじゃない。

死ねば忘れていく、涙の一滴すら流してはくれないでしょ?

だからせめて、あんたの心を慰めることの出来る何かを、残したかったの。

それでも、今は後悔してるよ。

あの子が産まれてあんたは正気を保って、同時にゆっくり狂っていった。

 

「あー、もうだめそう」

「そうみたいですね」

「あの子をお願いね」

「言われなくても」

「ねぇ、私が死んだらあたしのことを忘れる?」

「そうですね、でもあなたはあの子を産んでくれたから覚えてるかもしれません」

「そう、ならいいかな」

「忘れてほしいんですか?」

「そうだね・・・時々思い出してくれれば、それで十分だよ」

 

神様、もしいるならあいつを救ってあげて。

血に穢れたあたし達を見捨ててるのかもしれないけど、それでも。

 

「愛してたよ」

「そうですか」

 

あたしがこの世界でなによりも愛したあいつを、どうか救ってあげて。

そして、あの子の行く先を守ってあげて。

あたしの勝手で生まれたあの子に、あたしはあまりにも思い荷を背負わせてしまったから。

これはね、女として、母としての勘だけど、あの子はきっとあの人のために狂っていくから。

せめて、この先の道にあの子の慰めがあるように、守ってあげてよ。

 

「あーあ、悔しいな」

「母上」

「馬鹿な母親でごめんね、なにもできない馬鹿な女でごめんね」

「いいえ」

「幸せになれとは言わないよ、だけどせめて不幸にならないで」

「はい」

「愛してるよ、あんたはきっと私の自慢の娘になる」

「はい」

 

あたしの最大の罪はあの子を産んだこと。

そしてもう一つ・・・、あの子を連れて逃げることが出来なかったこと。

神様、どんな罰でも受けるから。

どうか どうか あたしの愛してる人たちを救ってあげてください。

優しく純粋なあの子達に、どうか救いの手を差し伸べてください。

 

 

 

紙屑のような小さな遺書

 

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