ゆっくりと狂っていくあの人を、あの子を、私はただ見ていた。

それだけが私に許された唯一の愛への復讐。

燃えていくあなたを私は見つめる。

共に燃え逝くことが許されないなら、せめてあなたを見送ることをお許しください。

 

 

 

 

 

「どうしてあの方を置いていくの?」

「あなたには関係のないことです。これは私とあの人の間のこと」

 

私には立ち入ることが出来ないのだとはっきりと言ったあなたを、あの時本当に殺してしまおうと思いました。

けれどそれはきっとあなたの望みを叶えることになる、そう思って寸前で考え直しました。

あの人の傍にいることが許されているのに、死を望むあなたがとても憎らしい。

私はずっとあの人を見てきたのに、あの人は私を見てくれない。

どうして?そんなに血のつながりが大事なのですか?

私はあなたのためなら何でも出来るのに、なんだってできるのに・・・。

 

「私がいればあの人は狂っていく、そして私の存在があの人を正気でいさせる」

「そこまでわかっててどうして」

「私が消えれば、死んでしまえばあの人は、この世界に別れを告げられる」

 

この世界はあの人にはつらすぎるとあなたはいった。

優しいあの人には残酷すぎると。

あの人が優しいと、純粋だと思っているのがたとえあなた一人でも、それはきっと真実。

 

「そしてあなたは世界を捨てるの?」

「それがあの人への慰めだから」

 

 

 

 

そしてあなたは
世界から逃亡するように静かに瞼を 閉じた

 

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