雲の切れ間に

 





空の色が変わっていく

一瞬前まで明るかった空は、もうすっかりと暗く、重くなっている

ナルトはそんな空を静かな目で見つめている

小さいころからここで見上げる空が好きだった

空はナルトを否定しないから

ナルトを静かに見ているだけだから




























昔々、選択を迫られた男がいた

里をこのまま見捨てるか

子供を犠牲に里を助けるか

そして男は選んだ

子供の犠牲を・・・・・・・・・・・・・・・

その選択は子供の未来に暗い影を落とした

死んだ男はそこまで分かっていたのだろうか?

本当にこの里にはすくう価値などあったのだろうか?

ナルトを見つめている男は考える

何度も、何度も考える

あの時こんな里など滅びてしまえばよかったのではないかと

本当に里をすくったものをさげすみ、いわれのない憎しみをぶつけて傷つける

こんな里など本当に護る価値などあったのだろうか?

「ばかねぇ、四代目・・・・・」

本当に護らなければいけなかったのは子供の未来だというのに












「・・・・・・・・いつまでそんな風にしているの?」

ナルトに話しかける

ナルトは首だけで振り返るとその男の姿を確かめる

「・・・・とうちゃん」

ナルトの口がそっと動く

親代わりにいままで自分を育てていてくれた男

ナルトはいつのまにか男のことを「とうちゃん」と呼んでいた

「・・・・・・・・早く帰りましょう?」

そういって手を差し出す

ナルトはそっと手を握ると男に抱きついた

「ナルト・・・・早く帰りましょうね」

そういって男はナルトを抱えたまま歩き出す

「とうちゃん」

「なに?」

「おれってば、とうちゃんのホントの子供になりたいってばよ」

ナルトのセリフに男は悲しそう笑う

「・・・・・・・・それはね、ナルト無理なのよ、私は今日この里を出るから」

「なら俺も行くってばよ!」

ナルトはそういって男にすがるように抱きついた

「駄目よ。今のあなたでは足手まといだもの」

「・・・・・・・・とうちゃん」

ナルトは突き放されたその言葉に涙が流れるのを止めることはできなかった

「ナルト、もう私のことを「とうちゃん」ってよんじゃ駄目よ、ちゃんと名前で呼びなさい」

「・・・・・・大蛇丸」

「そうよ」

少しだけ寂しいのを笑みの裏側に隠して大蛇丸は頷く

「・・・・・・」

ナルトは大蛇丸を離したくないのか必死にしがみついている

そんなナルトが愛しくてたまらない

大蛇丸は力をこめてナルトを抱きしめる

「いつかかならず帰ってくるから」

「・・・いつ?」

「さぁ・・・・・・準備が整って私が力を蓄えたらかしらね」

「ふ〜〜ん」

ナルトはそう言って首をかしげた



























「いくのかのう?」

「!!」

突然声をかけられて大蛇丸は驚きを隠せずにいた

「まったく、ナルトは連れていかんのか?」

「・・・・足手まといよ」

大蛇丸はそういって声をかけてきた男、自来也に向き直った

「あなたみたいのがいつくるか分からないもの」

そっと印を結ぶ

「やめておけ」

自来也がそれを制した

「べつにわしはおぬしとことをかまえる気はないがのう」

「・・・・・?」

「旧知の友の旅立ちを見送りにきただけだ」

「そう・・・・・ならもういいでしょ?いくわ」

大蛇丸はそういっていなくなってしまった

「やれやれ」

自来也は深いため息をつくと後ろを振り返った

「いかせてよかったのかのう?」

「・・・・・・・・・」

自来也に離しかけられた影は何も答えずにそのまま消えた



























空の色が変わっていく

黒から紫に、白に、青に・・・・・・・・オレンジに

一瞬前の幸福は支えをなくした器のようにくずれていく

こぼれてしまった中身を拾い集めても同じものは手に入らない

2度と手に入ることのないものは変わっていく空のよう

どんなに求めても、とりかえすことのできないものがあった

手にしたはずなのにそれは指の間からすり抜けていく

毎日、刻々と変わっていく空の色

今日もそんな空を見上げる

遠くにいってしまった人を忘れるために

いないのなら、なくしてしまったのならばそれのことを忘れてしまえば悲しむことはない

なかったことにしてしまえば、この苦しみは終わる

楽しかった日々は夢だったのだと思いこんでさえしまえば・・・・

ナルトはずっとそうやって空を見上げている

そうしてナルトは過去のことを忘れていくのだ

楽しかったことも悲しかったこともつらいことも苦しいことも

全部忘れてしまうのだ

そうすれば、また明日も笑えるから

何もなかったように笑えるから

アノ人が好きだといった笑顔をまた・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・?」

ナルトは不思議そうに首をかしげる

空を見ていたら不意に誰かを忘れてしまったような、そんな喪失感に襲われた

でも、それは気のせいだとおもいナルトはまた空を見上げる

空の色がまた変わっていた

一体、どのくらい自分はここにいたのだろうか?

刻々と変わる空は、いつものようにナルトを静かに見つめていた






END









あとがき

大蛇丸の出番があまりないですね・・・・・・・・・
しかも「とうちゃん」ですよ!?「かあちゃん」の方がよかったですかね?(そういう問題じゃないきもしますが)

変わるけど変わらないもの・・・・・・・
空はそんなものの象徴だと思います
同じ空は一度としてないけれど、「空」というのはいつまでも変わらずに私達の上にありますから
この作品では大蛇丸はどんなに変わっても、変わらずにいるということを書きたかったんですよ・・・・・・・たぶん