外伝   O hi shiubhlainn leat

 


悲しみに打ちひしがれて
朝早く目覚めたわたし
貴方とともに行きましょう、黒髪のアラン



アダムとひとつになった少年
傍らの少女はとうに生き絶えていた
「みんなどこにいっちゃったの?」
一人紅い海のほとりにいる
「誰かいないの?」
紅い海は何も答えない
「誰か〜〜〜〜〜」
声は果てしない海に飲まれ、天には届かない



貴方が砂を枕に
海藻を枕に眠るのなら
貴方とともに行きましょう



少年は今日も一人
ただただ、毎日毎日LCLをすすって生きる
「カヲル君、アスカ、ミサトさん、トウジ、ケンスケ、マナ、マユミ・・・・父さん・・・・・・母さん・・・・」
思いは「重い」となり少年に襲いかかる
「綾波、ぼく達はどうしてこんなことになってしまったの??」
紅い海にとらわれて、もう戻ってこない愛しい人
「綾波、ぼくは君を愛していたよ」



貴方が魚を麦の網車に
アザラシを番人にするのなら
貴方とともに行きましょう



この紅い海に囲まれてどれくらいの月日が流れたのだろう
「・・・そこにいるね、綾波」
少年は紅い海に問いかける
「出てきてよ、綾波」
紅い海から月の少女が現れる
それはリリスとなった少女
「もういいの?」
少女は少年に問いかける
「うん、もう良いんだ」
二人は見つめ合っていた
「でも、もしやり直せるのなら・・・・」
「時を戻すには何かのリスクが必要・・・」
「・・・なら、思い出を消して・・・。この知識だけをもっていくよ」
「わたしのことも忘れてしまうの?」
少女はつらそうに問いかける
「大丈夫、時を越えても、時空を越えても君を愛してる」



貴方が溺れたなら
その傍らで血を飲んで
貴方とともに行きましょう



「碇君、わたしも必ず行くから」
「待ってる」
触れ合う唇に言葉を乗せて少年は揺らぎの中に去っていった
「必ず・・・・」
「ここから一人で時空を越えることは出来ないよ」
少女の背後から別の少年が声をかけた
「・・・・・」
「それに、誰かが残ってこの世界を終わらせなければいけない」
「・・・・」
少女は唇をかむ
かんだ唇から流れた血は、紅い海に飲まれていく
「・・・それでも行きたいのなら、行っておいでリリス」
少女は少年を見つめる
「ここにはぼく達がいる。アダムとリリスがいなくても世界は終わらせられる」
「・・・・あ」
少女は少年の向こうにいる14人の兄弟に気付く
「「「「「「「「「「「「「「行っておいで、姉さん。兄さんの元に」」」」」」」」」」」」」」
「でも、君はその力も、記憶も想いもすべて失ってしまう」
少年がつらそうに言う
少女は涙を流していた。悲しくてではなくうれしくて
「問題ないわ。碇君が待っていてくれるから。それに向こうに行けばもう一度貴方達にも会える」
「「「「「「「「「「「「「「「もう一度死ぬの?」」」」」」」」」」」」」」」
みんなが尋ねる
「死なないわ、碇君は貴方達も守るといったから」
少女は微笑んだ、何よりも気高く
それは、愛するものを信じている微笑

「そろそろはじめようか」
少年が言うと15人は少女を囲む
「聞くが良い」「時空を司りし」「精霊達よ」「われらが愛しき」「このものを」「時空を超え」「かの地に届けよ」「代償は」「力」「記憶」「想いなり」「開け時空の扉」「出でよ精霊達よ」「天よ見届けよ」「時空転移」
15人が言い終わると少年が去ったものと同じ揺らぎが出来ていた
「また会おう、姉さん」
揺らぎの中に消えた少女に少年たちは願いを託す
『どうか幸せに』と・・・・・・・



「ところで」
と、ゼイエルが突然言い出したことにより、その場の固い雰囲気は壊れた。
「なに?」
まじめなイロウルはつい、聞き返してしまった。
「やっぱり、私たちも、戻れないのかな?」
絶句・・・・・・・・・・・
今しがた、やっとの思いでリリスを送り出したところだと言うのに・・・・・
「馬鹿なこと言ってないで、早くここを終わらせましょう」
「マトリエルはいつもそうだ」
ゼイエルを無視しようとしたマトリエルに、アラエルがからんだ。
「・・・・・なんですって?」
(・・・・・・・やばい)
サンダルホンが止めようとしたが、ときすでに遅し・・・・・・・・・・
「お高くとまってやがる」
「・・・・・・・・・・・・・(ごくり)」
全員が、息がつまるのを感じた。
「な〜ん〜で〜すって〜〜〜〜」
重くのしかかる圧迫感に全員が逃げ腰になる。
「あんたに言われたくないわよ〜」
マトリエルが思いっきりアラエルを蹴り飛ばした。
飛んでいった先には、不幸なことに、逃げ遅れたサキエルがいた。
「や〜〜〜〜〜、こないで〜〜」
サキエルがATフィールドを張り、見事なまでにアラエルはそれに衝突する。
「ちょっと、何すんのよアラエル!」
ラミエルが、サキエルをかばうようにしてアラエルをにらむ。
と同時に手から、加粒子砲が炸裂する。
「「「うげ!」」」
ラミエルの放った加粒子砲は、アラエルだけではなく、その後ろにいたダブリス、イロウルまで狙っている。

こうして、世にも恐ろしい兄弟喧嘩は始まったのである。

100年後

「な、なに?あれ」
死闘が続いている中、最初に異変に気がついたのはゼイエルであった。
ゼイエルの指している方向には、なんともいえない揺らぎがあった。
それは100年前に開いたものと同じ、と気がついたのはマトリエルだった。
どうやら長い間の兄弟喧嘩は、時空を越えるほどのエネルギーを生み出したらしい。
そして
「いっちば〜ん」
といって最初に、それの中に消えていったのはサキエルだった。
その後を次々と追っていって、最後にダブりスが揺らぎの中に消えていった。
「ふふ、シンジ君。待っていておくれ」
などという言葉を残していたが、誰も聞くものはいなかった。

ともあれ
これでこの世界から生き物は消えてしまった。
世界はやっと終わりを告げたのである。





戻る