第十九話 歯車の小石

 





まるで葬式みたいだとミサキは思う
こんな気分をいつまでも引きずっていてもしょうがないと思いつつもどうにも気分が晴れないのだ
原因は二つ
ひとつはシンジとレイがミサキ達に黙って何かをはじめたこと
もうひとつは、あの女・・・アスカ
シンジもレイもあの女がかかわると最近口が固くなる
「・・・むかつくのよ」
「なにがですの?」
ミサキの目の前でルーアが本から視線を上げる
「あの女よ!どうして兄さんたちはあの女にかまうのかしら?」
「・・・仮にも、創世の一人ですもの兄様達もなにか考えが・・・」
「それが気にくわないの!!相談してくれてもいいじゃない!だって!だって私は!」
「ミサキ!!」
ミサキが言いかけたことをダントがさえぎる
ミサキははっとしたように唇をかむと冷えた紅茶を無理やり飲み込んだ










「・・・・・ところで、どうしてみんなここにいるのよ」
先ほどまでの雰囲気を消し去るようにミサキが口を開く
ここはミサキとルーアが居住している階であってほかのものはそれぞれ好きな階に住んでいるのである
シンジとレイの住んでいる最上階に集まるのならともかく納得のいかないミサキ
「改装するんだそうで・・・」
アリアがあっさりという
「・・・兄さんは?」
「研究室よ、リベラと、レリエル・・・ルンの検査だって」
「ふ〜ん」
全開の回収でおもわぬ事態になったことは聞いていた
ルンの回収はなんとかできたらしいがリベラはもう一度器を作りなおした
シンジの話ではコアが無事だったから平気ということだ




















シンジは水槽の中で眠るリベラを見つめている
「シンジ様」
「ルン、大丈夫だよ」
先に目覚めたルンは検査という形で研究室に寝泊りしているが本音はリベラが心配なのだろう
「そんなことより、ルンの検査の結果は良好問題なし」
「そうですか」
ルンはにっこり笑う
背後に花が咲いたように見えたのはシンジの錯覚ではないだろう
シンジが「かわいいな〜」と思っているとルンを羽交い締めしながらユイが現れた
「シ〜ンジvレイちゃんが呼んでるわよ」
シンジは「了解」と肩をすくめて水槽の前を離れる
ルンは置いていかれたショックと羽交い締めにされているせいで泣きそうになる
「やだ〜泣かないで〜?」
ユイも流石にやりすぎたか?と思いルンの身体を開放した
ルンは目にいっぱい涙をためている
「ユイ〜?なに泣かしてるのよ」
ナオコがからかうように声をかける
一部始終見ていたのだ
「もう!からかわないで!・・・ルンちゃんごめんね?泣かないで〜〜」
「・・・はい」
ルンはあふれてくる涙を必死にこらえる
(あ〜〜もう!なんてかわいいの!)
(・・・ユイのつぼよね、あの子)
目の前の二人がそんなことを考えているとは微塵の思わないルンはもう一度心配そうに水槽の中のリベラを見る
「ルンちゃん大丈夫よリベラくんは強いもの」
「そうそう、すぐに起きるわよ」
「はい・・・私、リベラを信じてますから」
顔をちょっと紅くしながらいうルン
「「・・・・・・」」
母親二人はあまりにもかわいいその反応に見ほれてしまった
あまりにも(言い意味で)手応えのある連中を相手にしてきているので、こう素直になられると逆にどうしていいかわからない二人であった










「そっちはどんな感じ?」
レイの表情から上々とは言えないとわかっていても一応聞いてみる
首を振るレイ
「手ごわいね・・・彼女の封印は」
「ええ」
レイはここ最近の行動を降りかえる



お昼をシンジと一緒に取りたいのを我慢して一緒にとる
(かなり無表情)
訓練の帰りに待ち伏せする
(やっぱり無表情)
家まで一緒に帰って(つきまとって)部屋に上がる
(無表情というよりもはや無気力)
必死に話しかけてみる
(話しかけるというよりも脅迫か喧嘩を売っているようだった)
会話が成立しない
(責任の半分以上はレイにあると思う)
仕方が無いので帰る
(うれしそう)



「・・・・・マナ?」
レイの後ろでボードに何か書きこんでシンジに見せているマナ
「あはv・・・・・・・・」
ボードをしまいその場からものすごい勢いで去っていく
「「・・・・・・」」
「・・・・といった感じよ」
レイが気を取りなおしたように口を開いた
シンジはちょっとだけ考える
レイにかませたのはやはり無謀だったようだ
なにか考え込んでしまったシンジにレイはなにも言わずに紅茶のおかわりをカップに注ぐ
「・・・・レイ?」
「なに?」
「バルディエル、早く回収しないとね」
「・・・・・そうね」
二人とも同時にため息をついた





















改装し終わったシンジの家
そこには兄弟14人がそろっている
はっきりいってここはどこのレストラン?と聞きたくなるようなテーブルに全員が腰をかけ楽しげに食事中
シンジの住んでいる階をぶち抜いて作られたこの食堂はみんなにも人気のようだ
しかし、その豪華な雰囲気を一番楽しんでいる約2名に全員(シンジ・レイを除く)が青筋を立てている
「リベラ、おいしい?」
「もちろん!!」
「よかった」
バックに花とハートマークの飛び交っている一番端の席
「「「「「「「「「「「「・・・・・・・(‐‐メ)」」」」」」」」」」」」
シンジとレイ以外の唯一の恋人同士であるリベラとルンはそれはそれは楽しそうに食事中
はっきりいって面白くない
シンジとレイは(一応)兄弟の前では(出来るだけ)いちゃつかない
しかし
「・・・・・・(‐‐メ)」
リベラとルンにはそんなことはなく(というか、気にしていない)
見ている周囲の反感・・・・というか、怒りを買うばかりである

シュッ!・・ドス!ブスブス!!カキンッ・・・・

思いっきり前のほうからフォークやナイフがリベラ目指して飛んでいく
しかしリベラにあたる直前でなぜかみな方向を変えてしまう
「「「「「「「「「「「「「「ちっ!」」」」」」」」」」」」
ものすごく悔しそうな12人
「こらこら、投げたらだめじゃないか」
久しぶりに見たその光景にシンジが懐かしむように言う
レイもどこか微笑むようにその光景を眺めている
シンジに言われて、仕方なく全員がリベラ達のことは無視することに決めて食事を続けることにした










「で?どうしてバルディエルの回収を急ぐの?」
ミサキが不思議そうに言う
バルディエルに関していってしまえばこちらから動かなくても向こうのほうからやってくるのだ、一週間後には
「・・・レイだけじゃやっぱり無理みたいだし」
「なにがですの?」
ルーアの言葉にシンジは一瞬ミサキを見る
「・・・?・・・・・なんかいやな予感がするわ」
「あ〜〜〜そのね・・・アスカの記憶を戻そうかと思って」
「なんですって〜〜〜〜!!!!」(←出来ればフォント大きめでお願いします)
ミサキの大声にシンジが耳をふさぐ
「どうしてあの女の記憶なんか呼び覚まそうとすんのよ!」
「いや、あの御方に利用されないように・・・」
「私は反対!!ぜ〜〜〜〜〜〜〜ったいに反対!!」
ミサキはそう言いきると肩で息をしながらシンジをにらみつける
「・・・僕は賛成だよ」
ミサキの後ろから(シンジにとって)すくいの声が聞こえてきた
「カヲル」
「だって、このままでいけばあのときの二の舞になるよ、彼女・・・・神がきっとそう言う風に仕向けるさ」
「でも!!」
「私も賛成」
「シャル!」
手を上げてカヲルの横でシャルが立ちあがる
「ミサキが何をそんなに憎んでいるのかわからないけど、私は賛成よ・・・だって、もしこのまま記憶の無い状態であの御方と接触したらあの女はいいように操られるだけ、ならいちかばちか記憶を戻して試してみたほうがいいわ」
シャルの見事な論法にミサキはなにも言えなくなる
悔しそうに唇を噛みうつむく
食堂に沈黙が流れる(一部を除いて)
「・・・・・好きにして」
ミサキはそう言うと食堂から出ていった
追いかけようとするルーアをさえぎってシンジが追いかける



「・・・・・ふぅ」
クレイがその場の雰囲気を壊すようにわざと大きめのため息をつく
「・・・ご説明は、いただけるのですよね?レイ様」
アリアがレイを見据えて言う
「ええ、あなた達も知っておいたほうがいいのかもしれないわね・・・彼女のこの世界での役割を」







「ミサキ」
自分のうちに逃げ込んだミサキだが、マスターキーを持っているシンジにはなんの意味もないことである
声をかけられても返事を返してこないミサキに苦笑してシンジはミサキの横に座る
「・・・僕とレイがアスカの記憶と呼び戻そうとしてるのは、彼女の役割がそれほど重要だからだよ」
シンジは淡々と話し始める
「神は、エヴァを作ったときにアダムとリリスを呼んでこういったんだ・・・・・・」





















「この赤子は不完全体だ子を孕むことはおそらく無いだろう」
神の横に座り込む赤子にリリスは視線を向ける
茶色の髪のかわいらしい赤子
成長するまでには相当の時間がかかるだろう
それほどまでに赤子のATフィールドは不安定だった
「しかし、この赤子はわれの望む形に一番近い赤子だ・・・アダム、そなたとリリスの創りし赤子はみなわれの意に反しておる」
アダムは無表情に頭を下げたまま言葉を聞く
「我はこの子にすべての母になってもらおうと思う」
「「!!」」
「この子は、地上の大いなる母になる」
「・・・それは・・・・・・」
6人の子を成しているリリスを差し置いてこの赤子を地母神にするというのか
下手をすれば天空の神を同じ権限を持ってしまうかもしれない地母神
「神よ!リリスは!リリスはどうなります!」
アダムは声をあげて神に問いただす
最も愛する半身を侮辱されたのと同じなのだ
「リリスはこれからも多くの子を成すとよい・・・しかしアダムよこの赤子・・・そうだな、エヴァが成長した暁にはこれをそなたの妻にしようと思う」
「・・・・・そんな」
神の言葉にもはや愕然としてなにも言えなくなる
リリスはただ黙って神の言葉に耳を傾けているのみ
しかし、その唇がわずかに震えている
「これは決定事項だアダムよ・・・リリス、そなたもよいな」
「・・・神のよきように」
リリスは声を絞り出す
「よかろう、エヴァは我が育てよう、アダムよ、美しく成長したエヴァを楽しみにしておくがよい」
「「・・・・失礼します」」
アダムは震えるリリスを支えながら謁見の間を後にする





















「そんな!じゃぁカノンとダントがうまれたあとにあの女は作られたというの?」
「ああ」
シンジの説明を聞いてミサキが驚愕に震える
ミサキの記憶では、エヴァが現れたのはレリエルの生まれる少し前
そのとき、はじめてエヴァを見たときミサキはエヴァはまだ生まれて間も無いのだと思っていた
しかし
「神が、自ら育てていたなんて」
それほどまでに神のエヴァに対する執着が大きいことが伺える
「彼女は、エヴァは地母神であると同時に処女神でもある」
「・・・・」
「他人との交わりではなく、神の意思による妊娠、出産」
「それで、イスラフェルの双子のあとの兄弟は私たちと違ったのね」
アダムとリリスを絶対と崇めながらもどこか対等な考えを持つ七番目までの兄弟
それにひきかえ、ダブリスをのぞくそれ以降の兄弟は二人を絶対の存在とし、彼らの命令ならば命を落とすことにためらいも無いほどだった
彼らにとってアダムの言葉は絶対、逆らうことはそのまま自らの死を意味していた
「姉さんがそう望んだの?」
シンジは静かに首を振る
リリスの心にあったのはあせりだった
それが絶対の服従という形で生まれた子供に現れたのかもしれない
「ミサキ、もしエヴァが、アスカが神の手に落ちれば僕達に勝機は全く無い」
アスカを敵に回すことは地上のすべてを敵に回すこと
「でも、エヴァは最後、神よりも赤子をリリンを選んだ・・・なら、まだ希望があるかもしれない」
「・・・・・・・わかった」
ミサキは静かにそう言うとシンジを見つめる
「兄さんの好きにして・・・でも、忘れないで私は兄さんを止める役割がある兄さんの望まなくてもしなければいけないことをするのが私の役割よ、また文句を言うわ、反対するわ・・・でも、私は兄さんをずっと愛してる」
「僕も愛してるよ、ありがとう」
シンジはそう言うとミサキの頭をなでる
(でも、兄さんの「愛してる」はきっと私の「愛してる」とは違うのよ)
シンジに見えない位置で悲しそうに笑う











レイは一通り話し終えてみんなをみわたす
「・・・だから?」
アーツが不思議そうに聞く
「??」
レイはなにが「だから」なのかわからなくて首をかしげる
「レイ様は私達を愛しているんでしょ?シンジ様も・・・エヴァ・・・アスカがどうあろうと関係ありません私達はあなた方を信じるだけです」
「そうですわ、私もそうおもいますわ」
ルーアも微笑みながら言う
「抱え込まないでよ、私達は好きで信じてるの!二人のことを」
「ピオンは〜二人ともだ〜〜いすき」
「「はい」」
「そうですね」
「レイ様・・・私達は生まれたことを後悔なんてしていません・・・自信をもってください」
エヴァが特別な存在であることを聞いても全員の心は変わらない
彼らにとって母親はリリスであり、父親はアダム以外いないのだ
地母神がエヴァであってもなくても
神がアダムとリリスを創り出したのだとしても
「僕達は二人を愛してるよ」
「・・・・・・」
カヲルの言葉にレイが思いっきりいやそうな顔をする
「??」
「あなた、その笑顔でシンジくんをたぶらかしたのよね」
「!!?」
かなり古いことを言われて混乱する
「私のシンジくんを追い詰めたのよね!」
「いや・・・・・そんなことは・・・・・」
「あるわよね!!!」
「・・・・・はい」
レイに詰め寄られてカヲルは小さくうなずく
「・・・そう、よかったわね」
「!!(なにが?!)」
レイはカヲルに向かって思いっきり足を水平に回す

ぐぎょっ!

「「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」」
なにかが折れた・・・というか、変にまがったような音に全員が固まる




「リベラはいvあ〜ん」
「あ〜ん・・・・・・おいしいよ!ルン!」
食堂の端のほうではそんな空気もまったく気にしていない(気づいていない)二人の姿があった











 

戻る