第十八話 沈黙を破る音

 




レリエルが確認されたとシンジの耳に入ったのは一週間前のことだった
しかし、シンジはすぐに動くことができなかった
それはただ単にシンジが忙しかったことと多少(?)の意地悪でためである


「シンジ最近おとなしいね」
ネルフの食堂で久しぶりの休息をとっているところに来たマナがふとそんなことを言う
「そうかな?」
「うん、使徒の回収ってしてないんじゃない?最近」
シンジはその言葉に「ああ」と納得する
確かに最近動いてないな〜〜などと思い出す
シャルの一件以来仕事の量は減ったものの兄弟同士の喧嘩、というか言い争いが増えたおかげでシンジは外に出る気力をほとんど無くしていた
「なんかさ〜、兄弟が増えるってのも苦労するよね〜」
「・・・の、わりには顔が笑ってるよ、シンジ」
「そう?」
シンジは思わずほっぺたを抑える
マナはそんなシンジを見て笑うと
「いい傾向なんじゃない?そういう風に笑うのってさ」

2人はしばらくたわいもない会話を交わすとマナは放送で呼ばれて食堂を出て行った

「・・・いい傾向、か」
誰もいなくなった食堂でシンジは小さな声でつぶやいた







「と、いうわけでレリエルの回収に行こうと思うんだ」
研究室に戻ってくるなり突然そんなことを言ったシンジをダリアはあきれたように見る
「・・・何が、と言うわけなんですか?」
「気分の問題だよ」
「・・・・・・」
疲れたようにため息をつくダリア
彼女とてここ最近の忙しさにいいかげん疲れ始めているのだ
ダリアはモニターにレリエルの情報を呼び出す
「ここです。行くんならとっとといってください」







そんなこんなでレリエルの回収に来たシンジ今回は死んでもついていくといったリベラとカヲルである
「いいかげん体もなまってきたし」
なんていいつつ体を動かすシンジ
「レリエルは俺を待ってるんだ!!」
と、腕を上げてほえるように叫ぶリベラ
「いいかげんシャルと離れたくってね」
疲れたように言うカヲル
「まぁ、どうでもいいんじゃない?」
突然背後に聞こえた第四の声に三人が振り向く
「「「・・・・・・」」」
どう考えてもここにいるはずのない人物にもはや何も言う気力のないシンジ
気分が盛り上がっていただけにそのままのポーズで固まってしまうリベラ
しまったというように微笑みが凍りついたカヲル
「私も興味があるのよ、今日の回収方法にね」
声の主、シャルはそういうとシンジのひざの上に当然のように腰掛ける
「・・・ど〜しておまえがここにいる?」
シンジがため息混じりに言う
「ちょっとエラにたのんだのよ」
それが意味するところ、つまりはまたエラに進入して操作したという事実にシンジはもはや何も言えなくなってしまった
カヲルたちはいまだに固まったままである
シンジたちの疲れを気にせずにシャルは窓から見える空を見つめている







<ネルフ更衣室>

「え〜〜〜!!あいつまたでかけたの!?」
アスカの絶叫が響いた
マナとレイは耳を塞いでそれを聞き流す
アスカは信じられないというようになおも文句をいいつづける
「だいたいあいつってば生意気よ!訓練もしないでいっつも遊んでばっかりじゃない!」
「それは、遊んでるんじゃなくってシンジも仕事なのよ」
一応シンジを弁護するマナ
しかしアスカはそんなことに耳を傾けることもなく文句というか、悪口を言いつづける

「・・・いいかげんにして」
アスカが叫んでいるところにレイが冷たい声を投げかける
マナはそんなレイにどこかあきらめたようにため息をつく
「シンジ君の苦労も知らないあなたにそんなこと言われる覚えはないわ」
「なんですって!!!」
「今日こそ言わせてもらうわ、あなた邪魔・・・いいかげんネルフから出て行って」
「レイ!言い過ぎよ」
レイをマナがとめる
しかしすでに遅くアスカは顔を真っ赤にしてレイにつかみかかろうとしている
「アスカ!」
マナはアスカとレイの間に入ると二人を引き離す
アスカとマナは基本的に経験が違う、あっさりと動きを止められる
「離しなさいよ!マナ!!」
「だめよ、アスカじゃレイには勝てないわ」
マナの言葉にアスカの動きが止まった
顔が強張りはじめている
「・・もういいわ」
アスカはマナを振り切って更衣室から出て行く
「アスカ!!」
マナはアスカを追いかけるか迷ったが更衣室に残ることにした

「・・・どうしてあんなことを言ったの?」
「シンジ君が苦しんでる」
レイはつらそうに口を開く
「シンジ君は、あの人を見るのがつらいの・・・・昔のことを思い出すから」
「昔のことって?」
マナが聞き返すがレイは答えることなく更衣室から出て行く
マナはそんなレイを見送ると少し考えてレイの後をつけ始めた







「ここにレリエルがいるんだね!兄さん」
「そのはずだよ」
燃えるリベラにシンジがしびれた足をさすりながら答える
シンジたちの目の前には何もない真っ黒な空間が広がっている
レリエルの本体であるのだが・・・
「どうするの?」
「どうしようか?」
「方法はひとつ」
「どうするっぅわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
シンジはリベラの背中を押してリベラの中に落とした
「・・・なるほど」
「しばらくまとうか」
シンジたちは動いた影をよけながらのんきな会話を交わす


「ここは・・・・」
リベラは真っ暗な空間を見渡す
レリエルの中に落とされたと認識するまで多少の時間を要したものの
「兄さん、俺にこんな大役を預けてくれるなんて!ありがとう!!」
うらむどころか喜んで大声を上げる

さっそくレリエルのコアの場所を探すべくあてどなくさまよい始める






レイを追ってきたマナは以前アスカと和解(?)した公園にたどり着いた
(どうしてこんなところに?)
疑問を抱きつつもレイのあとをなおも追いつづけるとレイが突然足を止めた


「何よ」
レイの目線の先にはアスカがいる
レイは何も言わずにアスカの横に座る
「何よ!なんだって言うのよ!!」
アスカは立ち上がるとレイをにらむ
「・・・覚えてないのね」
レイがポツリと口を開く
「何をよ!」
「・・・昔のこと、未来のこと」
レイはどこかさびしそうに眉を寄せる
そんなレイの表情にアスカはどこか懐かしさを覚える
「私はいつだって怖かったわ」
レイはアスカを見つめる
「あなたにシンジ君を取られるんじゃないかって、いつも怖かった」
「はぁ?あたしがあんなやつ取るわけないじゃない!」
アスカのあきれた声にレイは少しだけ笑う

紅いイメージ
泣く子供の声
叫んでいる声
光が目の前を覆う

突然湧き上がったイメージにアスカは目を見開く
知っている・・・・レイのこの笑顔を昔も見たことがある
「・・・思い出したの?」
「な・・・にを?」
「そう、まだなのね」
レイはため息をつくと立ち上がる
「早く思い出すことね、でも、シンジ君の邪魔をするなら許さない」
混乱しているアスカはレイの言葉を理解できない
「でも、あなたを愛している子がいるのも忘れないで・・最期まであなたを守っていたあの子のことを」


レイがいなくなった公園でアスカはただ立ち尽くしている

うらやましかった
自分のほうが勝っているのに自分よりも多くのものを手に入れているあいつが
あいつ?
あいつってだれ?
さびしそうに笑う女
すべてを包み込むように笑うのに本当はたった一人しか見ていないあの女
知ってるはずなのに
思い出せない・・・・・・
違う!
思い出してはいけない
これは思い出してはいけないことだ


「アスカ!」
頭を抱えるようにうずくまったアスカにマナが駆け寄る
「大丈夫?」
「・・・・マ、ナ?」
アスカは現れたマナにすがりつく
震えるアスカを抱きしめてマナはレイのいなくなった方向を見つめる
(何を言ったの?)
マナに会話は聞こえなかった
震えるアスカから何か重大な話だったのだろうとは考えついた
「アスカ・・・」
何もできない自分に歯がゆい思いを抱きながらアスカを連れて家に帰った




「あの女に何を言ったの姉さん」
研究室の前でミサキがレイを待っていた
「何も、ただ・・・昔を覚えていないのかって・・・」
レイの言葉にミサキが驚いたように声を上げる
「覚えてるわけないじゃない!あの女は!あの女は・・・・」
泣きそうな顔をしながら体を震わせるミサキの体をレイはやさしく抱きしめる
ミサキはレイにしがみつくと声を押し殺したように泣き始める
「私は、許さないわ・・・・たとえあの女が思い出しても・・・・あの女も被害者だったとしても・・」
レイはミサキの頭をなでつづける
ミサキの思いがわかるだけに何もいえない
でも、レイはシンジの半身としてやらなければいけない役割があるのだ
ミサキとは違った大切な役割が・・・

「ごめんなさい」








「どこにいるんだ〜〜〜〜」
リベラはまだコアを探してさまよっている
いいかげんエネルギーが尽きてきたリベラの動きは遅い
「レリエル・・・どうしてでてきてくれないんだ」
リベラはため息をつくとそのまま動かなくなった

『探してね』

ふと、懐かしい声を聞いた気がした

『私をきっと見つけてね』

『どこにいても私に会いにきて』

「レリエル」

『愛してるわシャムシェル』

『どこにいようと、どんなに時を隔てようと』

「レリエル」

『私はあなたを愛しているわ』

声に導かれるようにリベラは闇の中を漂う

『きっと、また合えるわ・・・だから必ず迎えにきて』

「そうだよな・・・今、迎えに行くよレリエル」
リベラはもう一度力をこめると声の方向に走り出す






「どうしてシンジ君は行かなかったんだい?」
空中に浮かびながらカヲルはシンジにたずねる
「どうせなら、恋人に迎えにきてほしいものだろ?」
シンジはにっこり笑って答える
カヲルとシャルはそんなシンジに苦笑するといまだに動きを見せないレリエルを見つめる
「きっと、連れてくるよ」
シンジがそういうとレリエルに動きがあった
だんだんと小さくなっていく
カヲルたちはシンジを見る
「大丈夫」
シンジが2人を安心させるように笑う
その言葉に2人はもう一度視線をレリエルに向ける
闇に亀裂が入る
次第に広がっていく亀裂にシンジは眉をしかめる
(亀裂が、広がりすぎている?)
シンジはカヲルたちにそこにとどまるように言うと自分は下に降りる
闇に手をかざして中にいるリベラとレリエルの気配を確かめる
(・・・自力で出てこれない、のか)
シンジは亀裂の入った闇の中に身を投じる

「シンジ君!」
「アダム様!!」
カヲルたちが下に降りたときレリエルはすでにその動きを停止していた
信じられないようにレリエルを見つめる二人
「ま、さか・・・・」
「アダム様!」
何も通さないレリエルの表面を叩きつける
「出しなさい!レリエル!」
珍しく取り乱したシャルをカヲルが呆然と見つめる
カヲルの記憶の中にこんな風に取り乱したシャルを見た記憶はない
常に冷静で笑いながら人をからかうイメージしかない
「シャル・・・そんなことをしても・・・」
「わかってるわ!あんたに言われなくても!」
無駄なことだとわかっているのだ
それでも、せずに入られなかったのだ
「あんたは、あんまり実感ないだろうけど、私たちにとってアダム様は絶対の存在
リリス様とアダム様は私たちがどんなことをしても守らないといけない方なのよ」
泣きそうになりながら叫ぶ

「そんなことしてもらわなくても大丈夫だよ」

上から聞こえた声にシャルとカヲルが首を上げる
「ただいま、二人とも」
「アダム様!」
「シンジ君!」
シンジは二人の前に下りるとシャルを抱き上げた
「そんな顔をするなんてシャルらしくないよ」
「これは・・・・みんなアダム様のせいで!」
とたんに文句をいい始めたシャルに苦笑しつつシンジはカヲルを見る
カヲルも苦笑するとシンジから二つのコアを受け取る
「レリエルと、リベラ?」
シンジはうなずく
リベラの体は救いだすことができなかったのだ
それでも、完全に活動をとめたレリエルの体内から二人を連れてくるのはシンジでなければできなかっただろう
「回収も終わったし、帰ろうか」
シンジはそういうとシャルを抱えたまま歩き出した
カヲルもその後を追う
シャルはまだ文句をいっているがシンジはそれに時々相づちを打ちながら聞き流している






「そうか、まだおもいだしてないんだ・・・」
「ええ」
コアをカヲルに預け研究室に戻ることなく自宅に帰ったシンジはレイからアスカの事を聞いた
疲れたようにため息をつくシンジにレイは抱きつく
「レイ?」
「シンジ君、無理してる」
「・・・・そう、かな?」
レイはうなずくとシンジに口付ける
「・・・・・・・・」
「・・・・もう大丈夫だよ」
レイからエネルギーを分けてもらったシンジは幾分顔色がよくなった
レイはそんなシンジに強く抱きつく
「アスカ、は・・・・私が何とかするから・・」
「うん」
「無理、しないで・・・」
「うん」
シンジはレイに口付けるとそのまま倒れこんだ
「・・・・今度こそ」
「きっと、すべてがうまくいくわ」
二人のつぶやきを聞くものはいなかったが、いたとしてもその意味を正確に理解することはできなかっただろう








あとがき

長いことかけてできたのがこれ・・・・(;;)
ごめんなさい×1000
SINJI編に続いてターニングポイントとなる話のつもりなんですが・・・
どうなるんでしょうかねぇ?
神がどう絡んでくるか微妙にきまってません(おい!!)

 

 

 

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