第十七話 

 


「今日も一日さわやかだったね」
寝しなに言ってくるカヲルに一同がげっそりとする
心の中で「どこがやねん!」と叫んでいるものもいる
その中でシンジの疲労は一番酷かった


朝の六時にミサキに起こされたかと思うとすぐに朝ご飯を作らされてしまい
そのままなし崩し的に外に連れ出された
午前中いっぱい土砂降りの中買い物に付き合わされたシンジ
そりゃ体力もなくなるはずである
ニコニコ笑うミサキをはじめとするかわいい妹達のお誘いを断ることも出来ず
そのままずるずると引きずられるように午後はネルフに連れて行かれた

「研究室に何のようがあるの?」
休みの日にまで研究をしたいとは思わないシンジが当然のように抗議の声を上げる
「イロウル・・・・・今はシャルですね、回収されたって昨日遅くに連絡が入りましたから」
言いにくそうにサハクィエルことアーツが言う
シンジその一言で全てを悟った
兄弟の中でシンジ、レイを除いて一番頭のよい彼女のこと
またろくでもない何かしでかしたのであろう
(体力ないところにあんまり無茶なことしたくないな〜)
げっそりしつつも研究室のドアを開けようとする
「・・・・・」
パスワードを入力しても開かない
「・・・・・」
ドアを叩いてみる
「・・・・・」
シンジはとっさにいやな予感が当たったと直感した
深いため息をつきと腕にATフィールドを集中させる
「ぃっせーーーーの!!」

べキョ!

シンジ特製の扉はシンジの強力なATフィールドの前に敗れた
中に入ったシンジたちが見たもの、それは・・・
幼女が嬉々として端末をいじっている姿だった
その横ではどこかに意識を飛ばしている研究員と活動を止めているダリア
「あ〜あ、はいってきちゃった」
すごく残念そうな声が聞こえる
シンジは何も言わずに横にある端末を取り出す
「ミサキ、ダリアの回復おねがいね」
「わかった」
シンジと同じく状況を悟ったミサキがダリアに近づいて背中を開く
しばらくしてダリアの目の焦点が合う
「・・・・っは!マスター!」
「もうそこで対戦してる・・」
ミサキが指差す方向ではシンジは必死にキーボードを叩いている
そしてその斜め向で幼女が楽しそうに同じようにキーを打ち込んでいる
両方ともものすごいスピードだ
そのスピードに思わず見ほれてしまう
「・・・・・っは!マスターお手伝いします」
我に返ったダリアがシンジの隣でサポートに回る
ミサキは幼女の横で幼女を端末から引き離そうと必死である
「シャ〜ル〜!いいかげんどきなさい!!」
無視
「兄さんが困ってるじゃない!!」
これも無視
「手を止めなさい!」
またもや無視・・・・
「・・・どけ!ガキ!!」
ミサキなにやら切れたようである
無理やり端末からイロウルを引き離す
「「ああ!!」」
シャルの最期の悪あがきのせいでエラが完全に沈黙する
「ふ、エラが敵にまわるとはな」
思わずどこぞのオヤジ化するシンジ
「仕事が、仕事が〜〜〜〜〜」
完全パニックに陥っているダリア

「どうしてあんたはいつもそうやって面倒を起こすの!!」
ミサキに怒鳴られてもシャルは素知らぬ顔
むしろ満面の笑みでミサキを見る
「(う、かわいい)大体!いつもそうよ!昔からあんたは!!」
一瞬笑顔に押されたミサキであったがそんなことを微塵も感じさせずに説教を続ける
「黙れ、小姑」
にっこり、笑顔でかわいらしい口が言葉を紡いだ
「こっ!!・・・・」
あまりのいいように何も言えないミサキ
「ひどいです!ミサキは小姑なんかじゃありません!ただ口うるさいだけです!」
あまりのいいように思わず口を出したのはマトリエルことクレイ
フォローになってないぞ
「口うるさいですって〜〜〜〜!!」
ミサキの怒りの矛先がクレイに向く
「っは!(しまった、つい本音が!!)そんなことないですよ、ミサキはいつだってみんなを思ってるって分かってますよ」
とっさに言い直すがときすでに遅し
「そんなことを言うのはこの口?この口なの?」
「ふぃはいふぇう(痛いです)」
おもいっきりほっぺたを引っ張られる
「ミサキ、これ以上引っ張ったら頬が伸びきってしまいますよ」
そういってやんわりとミサキを止めるアーツもどこか疲れ始めている
「あらあら、これは困りましたね」
のほほんとアリアがシャルに笑いかける
「こんな子供じみた真似は見苦しいと思いません?」
(きつ!!)
会話に参加していない全員が思った
「子供じみた真似すら出来ない人に言われたくないわ」
これまた笑顔でシャルが答える
「あら、私は恥ずかしくてしたいとも思いませんね」
「おばさん。無理しないでいいのよ?」
びしっと何かに亀裂が入る音がした
「色気も出ない子供がなにを言ってるのかしら?」
「色気は後から出てくるのよおばさん」
びきっと再び何かに亀裂が走る音がする
「私はこれからまだまだピチピチだけど・・・・」
ちらりとアリア、ルーア、カノンを見る
「おばさんたちはこれから急降下よね〜」
ぶちぶちぶち!
「「「なんですって〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」
今まで観戦していただけのルーア、カノンがアリアと同時に切れた

「うるさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!」

まさにアリア達がシャルに掴みかかろうとしたときシンジが切れた
「静かにしてくれ!!」
どうやらマジ切れらしい
「シャル!遊ぶのはいいけどほどほどにしろ!後、後始末をちゃんとしてから次の遊びに手をつけろ!ピオンだってそのくらいできるぞ!」
「・・・はい」
「アリア、ルーア、カノン!シャルの口の悪さなんか気にしてるんじゃない!いつものことだろう!!」
「「「すみません」」」
「ミサキも止めるんだったらちゃんと止めること!騒ぎをでかくしてるんじゃない!」
「ごめんなさい」
切れたせいか、いつもよりかなり厳しいシンジ
怒られた全員がおとなしくする
「みんなも見てないでこっち手伝うとかアリエス達を起こすかしてくれ!」
「はい・・・・」
シンジは言いたいことを言い切って少しすっきりした顔でエラの復活作業に再び没頭する










シンジが切れてから数時間後
何とか復活したエラが猛スピードで各部の処理をはじめる
ちなみにエラが沈黙している間ネルフはちょっとした騒ぎが起こっていた

「先輩!MAGIが沈黙しました!」
「なんですって!!」
泣きそうなマヤを押しのけてリツコがモニターに向かってなにやら操作をはじめる
しかし
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・母さん」
どこか悔しそうにナオコに席を譲る
「ハイハイ・・・おかしいわねー、特に異常は・・・・・あら?」
ナオコは何かに気がつくとユイを手招きする
「な〜に?」
ユイがナオコの横からモニターを覗く
「・・・あら〜。これは困ったわね〜」
ちっとも困ってなさそうな口調である
ちなみに二人の視線の先には
『AH―11解凍』の文字
シンジから使徒の能力を大体聞いている二人はその天才的な頭脳ですぐにシャルのいたずらだと気がつく
「ま、シンジがどうにかするでしょう」
「そうね、のんびりまちましょうか」
そういうなり井戸端会議をはじめる二人
「ま、まってよ!説明してよ!」
リツコがあせって二人に言うが
「「聞きたい?」」
二人がにっこり言うので何も言えなくなってしまった
ネルフの事実上トップの二人に敵う人などここにはいないのだ
勝てる可能性のある人物は現在研究室で必死の復旧作業をしている

「NO〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

いきなりあがった声に全員が司令塔を見上げるがそこにいたはずのゲンドウの姿がなくなっており
冬月が驚いた顔で床を見ている
冬月の視線の先にはなぜかぽかりと穴があいておりゲンドウはそこに落ちてしまったのだ
「・・・・(なぜあなが・・・っは!もしやこの下にも・・・)」
冬月は恐る恐る足元を見る
「っぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
見たとたんにタイミングよく穴が開き冬月もまた姿を消した

「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」
沈黙が流れた
懸命なことに誰も自分の足元を確認しようとはしなかった
それを見てユイとナオコが心の中で「ちっ!」と舌打ちした
ユイの手の中にはあやしげなコントローラーが・・・・

「ぶぎゃ!」
「ぬお!!」
なにやら下のほうで無様な声がしたので全員が声の下方向を見る
「きゃあ!」
マヤが声を上げて下に駆け下りていった
それに続いて日向と青葉も駆けつける
「副指令!大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
返事のない冬月を日向と青葉が急いで医療室に運ぶ
心配そうにマヤがそれについていく

「・・・ゲンドウさんは置いてきぼりね〜」
「日ごろの行いでしょう?」
結構酷いことを言う
リツコもゲンドウは見なかったことにしてどうやら冬月のほうにいったようだ
「助けないの?」
「ナオコさんは助けるつもり?」
「まさか!」
「そうよね〜。なんかおなかすいちゃった」
「そうね、じゃ食べにいきますか」
二人はそういってゲンドウを残したまま食堂へ向かった










何とか復旧活動を終えたシンジが家に帰ったのが深夜の一時
もはや何も言う気力も残っていなかった
いつもならレイと思う存分いちゃついてお風呂に入って寝るのだが
「・・・おやすみ」
とだけいって布団に入り込んでしまった
それを見たレイがシャルを睨んでいたがシャルはまったく気にした様子もなく
カヲルの後について自分の部屋に帰っていった
「シャル?どうして僕と一緒にくるんだい?」
「もちろん、カヲルが一番面白いからよ」
にっこり言われて喜ぶべきか思わず真剣に悩んでしまったカヲルであった


 

 

 

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