第十四話 月の腕

 



「え〜〜〜!修学旅行いっちゃ駄目〜〜〜〜!」
ネルフの食堂にアスカの奇声が響き渡った。
ミサトが耳をふさいでそれを流す。
「聞いてないわよ!」
「今決めたのよ」
「横暴よ!」
「ハイハイ、何とでも言いなさい。とにかくこれは命令ですからね」
ミサトは言うことはいったとばかりに食堂を出て行く。
「サイテー・・・あんたたち、なんとも思わないの?」
「なにが?」
アスカに言われてマナが首をかしげる。
「修学旅行いけないのよ!」
「だから?」
「何で文句いわないのよ!」
「シンジからこうなるって聞いてたから」
「ちっ」
アスカは舌打ちしてレイの隣で優雅に紅茶を飲んでいるシンジを睨む。
「あんたのさしがね?」
「まさか・・・・まぁ、いきたければいくといいよ。」
「何であんたがそんなこというのよ」
「パイロットは三人で十分だ」
それが暗にアスカは用無しといってることに気付かないアスカではない。
「・・・マナ!いくわよ」
「ハイハイ。じゃ、また後でね、シンジ」
マナは手を振ってアスカを追いかける。



シンジの研究室に移動した二人はいくつかの指示を与えるとユイとナオコに後を任せてダリアと兄弟を連れて浅間山に向かった。

「熱いね」
「ほんとに・・」
「サンダルフォンはこの中にいるの?」
「そうだよ」
シンジ達は上から覗き込むような形でマグマだまりを見ている。
「・・・出てこないね」
「そうだね」
「ATフィールドでもぶつけてみたらどうだい?」
「いい考えだね」
シンジは言うなりマグマにむけてATフィールドを投げつける。

しばらくして
「あ・・・・」
「マスター手加減してください」
「・・・・」
シンジのぶつけたATフィールドのせいでマグマが盛り上がってくる。
「・・・逃げたほうがいい?」
「いや、出てくる」
「怒ってるんじゃない?」
「・・・・やっぱり逃げたほうが」
瞬間

ザッパ―ン

「「「「「「ひっ」」」」」」
全員とっさにATフィールドを張ってマグマから身を守る。
《・・・・(^^メ)》
「怒ってるんじゃない?やっぱり」
「「私たちは知らないですからね」」
「シンジ君、死ぬときはいっしょ」
《・・・・(――メ)》
「れ、冷静に話し合おう」
シンジがどもりながら言う。
《・・・冷静に、ですか(人に思いっきり攻撃しておきながら)》
「あははは」
《とりあえず、報復する権利はありますよね(^^)》
「い、いやそれは・・・・」
《ありますよね》
「兄さんに報復するのは後で言いからとりあえずそこから出てきなさい」
ミサキがシンジを押しのけてサンダルフォンに向かって言う。
《・・・分かりました》
「・・・・マジ?」
シンジが冷や汗をかいているうちにサンダルフォンはずりずりとはいずってマグマの中から身体を出し切る。
《皆様におかれましてはご健勝で何よりです》
「・・・(いやみに磨きがかかってるのは気のせいでしょうか?)」
ルーアが首をかしげながらサンダルフォンを見つめる。
「兄さん、放心してないでとっと回収して」
「そうですね。早くしてください、マスター」
「早く早く」
皆に追い立てられてシンジはすばやくサンダルフォンのコアを探し出す。
《・・・アダム様。ぜっっっったいに逃げないでくださいね》
そういい残してサンダルフォンはコアをシンジに差し出した。
「・・・(逃げ切ろう)」
シンジがそう心に決めたのは言うまでもない。


サンダルフォンのコアをダリアに渡した後、シンジ達は温泉につかっていた。
「極楽極楽」
「やだ!兄さんじじくさい!」
「じ・・・・」
ミサキの鋭い突っ込みにシンジは湯船に沈んだ。
「シンジ君!」
レイがそれを慌てて支える。
「大丈夫?」
「なんとか」
そのまま二人の世界に突入する二人。
「・・・これ、美味しいですわ」
「あ〜〜ルーアずっけ〜〜!!」
ダントにお酌をされているルーアを指差してリベラが叫ぶ。
「大人の特権ですわ」
カノンがリベラにコップを渡す。
「・・・おれはジュースかよ」
カノンにオレンジジュースを注がれ一気に飲み干す。
「ピオン!泳がないで!」
「や〜〜〜〜!」
バシャバシャとミサキのまわりを水しぶきをあげながら泳いでいるピオンの足を取ってミサキが叫ぶ。
「暴れないでよ!」
「や〜〜〜〜!!」
ミサキたちが暴れるせいで周りに被害が拡大していく。
「お、お湯が・・・・・」
飲んでいた日本酒の中にお湯が入りルーアが不機嫌になる。
「ちょっと!暴れないでってば!!」
「ぐっ・・・(何でおればっかり)」
ピオンのけりが見事にコップに口をつけているリベラに入った。
かわいそうにリベラはそのまま(コップが口についたまま)湯船に「バシャン」と沈んでいった。
「「!!!」」
リベラの水しぶきを思いっきりかぶってしまったカノンとダントがゆらりと立ち上がる。
「「リ〜ベ〜ラ〜」」
二人は(当然だが)完璧なユニゾンでリベラをそのまま湯船のそこに押し付ける。
「・・ぶくぶくぶく・・・・・・」
暴れるせいで水面が揺れ、お盆にのせた日本酒が湯船の中に落ちた。
「・・・・(――メ)」
ルーアが(酔ってます)ゆっくり立ち上がるとカノンとダントがリベラから身体をどけた。
「ルーア!アタ〜〜〜〜っク!!」
要するに肘鉄なのだが起き上がろうとしたリベラにはかなり来たらしい。
そのまま起き上がらなくなってしまった。
「「「ふう」」」
三人は気がすんだのかそのまま何事もなかったようにふたたび湯船につかり始めた。
ちなみにミサキとピオンはまだ言い合っている。
シンジ達はいまだにラブラブモード全開である。
(て言うか、おまえらのぼせないのか?)

何だかんだで二時間以上湯船につかっていたシンジ達があがったころにはすっかり日が落ちていた。
(て言うか、どうしてのぼせてないんだ!おまえら!!)



シンジとレイは当然いっしょの部屋である。
ルーアとミサキ、リベラがいっしょの部屋。
カノンとダント、ピオンがいっしょの部屋という組み合わせになった。

各部屋をのぞいてみよう。

<シンジとレイの部屋>
「星が綺麗だね」
「そうね」
レイの膝枕でくつろぎながら窓の外を見上げるシンジ。
「幸せだね」
「はい」
「愛してるよ」
「私も」
シンジは起き上がりレイを抱きしめる。
「ずっと一緒にいようね」
「ずっと傍にいるわ。でも、貴方が遠くに言ってしまっても・・・・・ずっと待ってる」
「うん。ぼくの帰る場所はレイの腕の中だけだよ」
「帰ってきて、シンジ君」
「必ず、還ってくるよ」
そのまま二つの影が重なっていった。

(お邪魔なようなので次に行きましょう・・・・・)

<ミサキ・ルーア・リベラの部屋>
「リベラお酒ですわ!」
「リベラお菓子とって!」
二人にこき使われまくりのリベラ一人が忙しく歩き回っている。
「お酒ですってば!!」
「お菓子!!」
「はいはいはいはい!!・・・・あ」
「「あ?」」
リベラが壁にへばりつく。
それに習って二人も同じように壁にへばりつく。
「・・・聞いた?」
「聞いた」
「聞きましたわ」
「甘い・・・」
「砂吐きそうだな」
「本当に」
そのまま聞き耳を立てつづける三人。
「お!」
「まぁ!」
「・・・」
さらに聞き耳を立てようとしたその瞬間。
ごん!!!
壁が強く打ち付けられた。
「「「・・・・」」」
三人は無言で壁から離れる。
「・・・リベラ、お酒おかわりですわ」
「私もお菓子追加ね」
「わかった」
三人とも耳を押さえながらだが何もなかったかのように振舞った。

<カノン・ダント・ピオンの部屋>
「お茶美味しいね」
「そうですね」
「このお菓子もうまいな」
のほほん茶していた。
「ピオンはそろそろ眠い?」
「・・・うん」
「布団敷こうか?」
「いい」
ピオンはカノンの膝に頭を乗せた。
「ここで寝る〜〜」
「まぁ!」
「ほほえましいな」
いたって平和なようである。
「カノン暖かい」
「そうだろうな〜」
「お褒めいただき光栄です」
どん!!
「「・・・」」
「すーすー」
「よく眠ってますね」
「ほんとになー」
のほほん茶は、まだ続くようである。



翌日シンジ達は第三新東京市に戻ってきた。
「お帰りなさい、シンジ」
「ただいま、母さん」
「お帰りレイ」
「・・ただいま、お母さん」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ナオコは幸せをかみしめるようにレイを抱きしめる。
「・・・シンジ!」
「え?ぅわ!」
ユイも負けじとシンジに抱きついた。
「「かわいい」」
馬鹿親二人の暴走は続く・・・・


「サンダルフォンはどう?」
ミサキがシンジ達を無視してダリアと話を進める。
「調子いいですね」
「そっか・・・・で?それはなに?」
ミサキはダリアが手にしている切符の束を指差す。
「次の出張先です」
ダリアがミサキに切符を手渡す。
「アフリカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「はい」
「何でアフリカなのよ!」
「ウリエルから使徒の反応が出ているとの報告が出ていましたでしょ?」
「だ・・・・」
ミサキは言葉が詰まってそのまま口をパクパクさせている。
「出発は明後日ですからね」
ダリアは言い終わるとそのまま計測を続ける。

ミサキが手にしている切符は三枚。
「誰が行くのよ」
真剣に悩んでしまう。
「兄さんと・・・・誰が行くのよ」
誰がいっても喧嘩になりそうだとミサキはとっさに考える。
「エラ」
『はい』
「任せるわ」
『了解です』
全責任をエラに押し付けるとミサキはとっと研究室を出て行った。



二日後
「「「いってきま〜す」」」
シンジ、ミサキ、カノンがアフリカに旅立っていった。

「兄さん」
飛行機の中でミサキが素朴な疑問を投げかける。
「ん?」
「このチケット何の意味があるの?」
ダリアから貰ったチケットを取り出しながら言う。
「ないよね」
シンジ達はシンジが所有する飛行機でアフリカまで行くのでミサキの言うとおりチケットに何の意味もない。
「記念、かな?」
シンジが苦笑しながら言う。
「ふ〜〜ん」
「私たちはどこに宿泊するのですか?」
「研究所だよ」
最近よくしゃべるようになったカノンにシンジは優しく答える。
「兄さんの?」
「そ、正確には今はセンジュが責任者なんだけど」
シンジがそこで不自然に言葉を切る。
「けど、何?」
「・・・センジュの実験動物が徘徊してるんだよな、あそこ」
「「・・・・」」
シンジの言葉になにやら恐ろしい想像をした二人だった。

 

 

 

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