第十二話 SINJI(2)

 

夕方になると研究室は一気ににぎやかになる。

学校組が帰ってくるせいもあるがその他に今日はいつになく訪問客が多かった。

シンジが加持を呼んだのだ。

そして後二人シンジが呼び寄せた人物がいる。

一人目は「山岸マユミ」、彼女はガブリエルと呼ばれ、シンジの北半球にある研究所の総合管理を任されている人物である。

二人目は「センジュ・F・サークリット」、彼はウリエルと呼ばれ、シンジの南半球にある研究所の総合管理を任されている人物である。

「知らない人もいるかな?二人は普段僕の研究所の管理を任せているんだ。今日はみんなを交えて話したいことがあってね」

シンジはざっと二人をみんなに紹介すると本題に入る。

「四大天使の中には知っている人もいるけど・・・・・残りの使徒、その覚醒を早めたいんだ」

シンジのセリフにシンジのセリフの意味を理解しているもの以外は呆然とする。

「そのためには・・・レイの覚醒を「だめよ!」

レイの覚醒が何を意味するか知っているミサキはすぐさま反論する。

レイの覚醒は下手をしたらサードインパクトを、そして・・・・

「ミサキが言いたいことは分かる。でもね、そろそろあの方が僕たちに気がつき始めたんだ」

「!!!!!」

「だからレイが覚醒しなくても、いつか必ずあの方は僕たちを殺そうとする。実際・・・・・」

シンジは一度目の人生を振り返る。

人間のエゴのために次々と殺されていった兄弟たち。

それはいったい誰に仕組まれたものだったのか・・・・・

シンジはアダムと融合してからというもの、人間に「エデン」と呼ばれる場所で過ごしていたころのことをよく思い出していた。

アダムと融合したことにより、アダムとしての記憶、シンジはそれを手に入れたのだ。

「前回、どうしてミサキ達はわざわざ人間の前に姿を現したんだ?」

「それは・・・そこに行かなくちゃいけない気がして・・・・そこに言ったら姉さんを感じたから・・・」

ミサキは前回記憶をたどりながら言う。

「それがあの方が僕たちに仕掛けた罠だったんだ」

シンジはゆっくりと瞳を閉じる。

 

 

 

 

 

ふとアダムは顔を上げた。

とたんにアダムの横と一陣の風が通り過ぎていく。

「・・・・・」

風はそのまま天に向かっていくように思えた。

「サキエル」

「ここに・・・」

「みんなを集めろ。何か、いやな予感がする」

「・・・リリス姉さんも?」

「兄弟全員だ」

サキエルはそこまで聞くと先ほどの風よりも早くその場から立ち去った。

(ただの思い過ごしで在ればいいんだが・・・)

アダムは指で宙に何かの文字を刻むとその場に巨大なATフィールドを張った。

 

 

 

 

 

「罠ってどういうことですの?」

ルーアは眉をひそめながら聞いてくる。

「みんなはあのときのことを覚えてるかな?」

シンジがさした「あの時」を明確に察知できたミサキが顔をしかめる。

「あの方はまだ僕たちを許してはいない」

「許されたいとは思ってないわ」

ミサキが言ったことでレイを除く兄弟が「あの時」がいつを指しているのかが分かった。

「あの方は僕たちを捨てた」

シンジはまるで自分に言い聞かせるように言う。

「・・・殺してくれたほうがよっぽど楽でしたわ」

「でも、あの方は僕たちをここに堕として生かしつづけた」

 

 

 

 

 

「兄さん、全員集まったわ」

サキエルの後ろに兄弟が控える。

アダムはATフィールドを開くとみんなを中に受け入れる。

アダムの作り出したATフィールドの中に初めて入った者はその清浄さに息をのんだ。

ただ一人、リリスだけにはその清浄さは馴染みのものであった。

「はじめまして、ダブリス」

アダムはまだ幼いダブリスにそっと微笑む。

「はじめまして、我らがアダム」

ダブリスは深深と頭を下げる。

その横でバルディエルはほっと息をついた。

「さて、みんなを集めたのは他でもない。神が再び子をなそうとしている」

アダムの言葉にダブリスを除く全員が驚愕する。

「私としてはこれ以上リリスに分化をすすめられない」

リリスはその言葉に唇を噛締める。

「そして、先日神から一つの提案を出された。

エヴァに18番目の子供を産ませてみないかということだ」

リリスは信じられないようにアダムを見る。

「まさか、承知したの?」

「・・・いや、まだ迷っている」

アダムの返答に少しほっとするリリス。

「エヴァは魂の分化ができない。子をなせばエヴァは死ぬ」

アダムの声は静かにこだました。

「だが、リリスのこれ以上の分化はリリスを消滅させる恐れがある」

アダムはいったん全員を見渡す。

「・・・・みんなの意見が聞きたい」

 

 

 

 

 

「みんな覚えてるかな?僕達がここに堕とされてからどんな目にあったかを」

姿を変え、各地に散らばざるえなかった自分たち。

アダムが眠りについてからはお互い何があったのかすらわからない。

「あの方は、僕が、アダムが眠りについた後みんなにある暗示をかけたんだと思う」

《生まれし場所に帰れ》という甘やかな暗示をかけたのだとシンジは言う。

「だから、みんな眠りから醒めるとリリスを求めてきたんだと思うんだ」

「つまり、人間が私たちを殺す舞台をあの方は作ったということですの?」

「そうなるね」

「ヒッデー」

「ちょっと待った」

それまで口を閉ざしていた加持が問う唐突に口を開いた。

「シンジ君たちがさっきからいってる「あの方」ってのはいったい誰だい?それにそいつはどうやって都合よく「人間が使徒を倒せるまで成長」したときに君達を目覚めさせたんだい?」

「神ですよ。アダムとリリス、そしてエヴァと人間の直接の創造者であるね」

シンジの言葉に加持は絶句する。

「サキエルからダブリスまではリリスとアダムの魂を分化させて生まれた「ヒト」ですが、人間はエヴァと神によっ

て生み出された「ヒト」なんです」

「・・・エヴァってのは?」

「・・・兄さんの二番目の妻にして最大の裏切り者よ!!」

ミサキが苦虫を噛み砕いたように言う。

「・・・あの方はたぶん人間がアダム、もしくはリリスを自分たちに手で覚醒させることが出来たとき他の使徒も目覚

めるようにしたんだと思います」

「神様ってのはそんなことも出来るのかい?」

「神ですから」

シンジは少し自嘲気味に言う。

 

 

 

 

 

「私は姉さんのこれ以上の分化は賛成できないわ」

サキエルが言うと全員が頷く。

「でも、これ以上エヴァに大きい顔をさせたくもないわ」

サンダルフォンは少し眉を寄せて言う。

「でも、子を産めばエヴァは死ぬんだろ、だったら問題ないじゃないか」

シャムシェルが納得したように言う。

「あいつは神のお気に入りだぜ、そう簡単に神がエヴァを殺すかよ」

アラエルが悔しそうに言う。

「それに、胎内に宿している間は少なくても生きてますもの」

マトリエルは冷たく言い放つ。

「それに、これ以上リリス様の居場所をあの女に奪わせる気はしないわね」

レリエルはリリスを見ながら言う。

「確かに」

サハクィエルが静かに頷く。

「・・姉さまは、どうしてあの女にかってにさせてますの?」

ラミエルはずっと気になっていたことをリリスに聞いてみる。

「・・・アダムさえいれば他に何もいらない」

リリスは小さく言う。

「究極の愛ってやつだね」

ダブリスが言う。

「・・・・・(ゴン)」

バルディエルが無言でダブリスを殴りつける。

「ダブリス痛い?」

ガキエルが呑気にそんなことを聞いていくる。

「「大丈夫、彼は強いから」」

イスラフェルの双子がまた呑気に答える。

「・・・エヴァが万が一子を産むとして、種はやはりアダム様なのですか?」

アサミエルが真剣な顔をして言う。

「え!神じゃないの?だってエヴァって神のお気に入りでしょ」

ゼイエルがびっくりしたように言う。

「神が何を考えているかわからないけど、私はリリス以外と子をなそうとは思わない」

アダムの言葉にリリスは幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

 

「とにかく、その神ってのがシンジ君たちを殺そうとしてるってことかい?」

「事実はそうなります。真実は、違うかもしれませんが・・・」

シンジは少し含みのある言い方をする。

「・・・どうしていまなの?」

ミサキが声を低くしてシンジに聞いてくる。

「・・・神が愛した女が目覚めようとしてるからね」

シンジの声に感情はなかった。

「・・・やっぱりあの女」

ミサキは履き捨てるように言うとそのまま黙る。

「となると、バルティエルの覚醒は考え物ですわね」

「そうね、あの子はやさしいから」

カノンが口を開くと一瞬シンジ達は行動を止めた。

「?」

カノンが突然止まったみんなの動きにハテナマークを浮かべる。

(カノンがしゃべった!)

(信じられない!ダントといっしょにしゃべらないなんて!)

シンジ達の記憶の中でカノンが単独でしゃべったことはなく、いつもダントといっしょに言うかダントにセリフをとられるかしかなかったのである。

「・・・そ、そうだね、カ、カノンの言うとうりだ」

なんとか動き出したシンジが少しどもりながらも言う。

「でも、そうなると誰がダブリスを止めるんだ?」

リベラのセリフにダブリスを知る全員が頭を抱えた。

「・・・ダブリス、・・カヲル君に関してはもうこっちに呼んであったりするんだ」

シンジがしっまたというような顔で言ってのけた。

「何時着くんだっけ?ガブリエル」

シンジが後ろに立つガブリエルに尋ねるとガブリエルは申しわけなさそうに顔をしかめると

「・・・もう着いてるんですが」

そういって研究室のドアを指差す。

「「「「「「!!」」」」」」

顔をひきつらせてシンジたちがドアを振り向くといつのまにか開いたドアの向こうでカヲルが微笑みながらたっていた。

「ひどいねみんな、僕をそんな目で見て」

カヲルがわざとらしくため気をつきながら研究室に入ってくる。

「久しぶりというべきだね、僕の大切な兄弟たち」

そういって微笑むカヲル。

 

(間)

 

「そう、僕とシンジ君の出会いは・・・・・」

先ほどの登場から十分、カヲルはわけのわからないことをしゃべりどうしだった。

「・・・やはりバルティエルの覚醒は必要ですわね」

一同がうなづく。

何かを考え込んでいるミサキとカノンをカヲルの話し相手(聞き役もしくは犠牲者とも言う)にするとシンジ達は話を進めることにした。

 

「覚醒をするって言ってもかんじんの使徒が来ないとお話にならないのではなくて?」

ルーアが困ったように言う。

「それは大丈夫、ウリエル」

「はい」

シンジに名前を呼ばれたウリエルが立ち上がっていくつかのファイルを配る。

「見てのとおり、使徒が潜伏してる場所はかなり高い確立で特定されてる。

まだ判明してない使徒についても今月中にはその所在を確認できるはずだ」

世界地図にマーキングされたところを指差してシンジは言う。

「ただし、覚醒するだけのエネルギーが著しく足りないんだ」

「だから姉様の覚醒ですか・・・」

ダントがいやそうに言う。

「みんなが渋るのも分かるけど、今の状態であの方に何か仕掛けられでもしたらそれこそ冗談じゃなくなる」

「それは・・・」

「仕方がないんだ。もうあんなことは繰り返しちゃいけないから。それに今のレイだったら覚醒しても大丈夫だって僕は信じてるしね」

シンジが微笑んで言うとレイはぽっと紅くなってシンジの胸に顔をうずめる。

「「「「「・・・・・」」」」」

もはやそれを見て何か言うものはいない。

 

 

 

 

「とにかく、神の考えが分からない以上、みんな気をつけていてくれ、特にリリス」

「・・・はい」

「神がなんていったかは聞かないでおくけど、気にすることはない。無理をして自分を傷つけるようなことはしないで欲しい」

アダムは心配そうに言う。

「・・・はい」

「じゃあ、これで解散にしようか」

アダムはATフール度を解除する。

周りに一気に広がる紙の気に全員が身体をこわばらせた。

「・・・神・・・・・・それに、エヴァ?」

サキエルが信じられないという顔で自分たちの目の前に立つ二人を凝視する。

「・・・何時から、とは聞きません。珍しいことも在るのですね、貴方がアラボドを離れるなんて。何か急ぎのようでも?」

アダムは気がついていたのか平然としている。

「エヴァに仕掛けを施した。アダム、これで心置きなくエヴァをはらませることが出来るようになったぞ」

「・・・それはそれは。彼女も分化ができるようになったのですね」

「いや、新しい魂を生み出せるようになった」

神の言葉に全員が驚愕する。

新しい魂を作り出す、それは神と同等、もしくはそれに順ずるものになったということだ。

「・・我々は用無し、ですか?」

アダムこの言葉に神は不吉な笑みを浮かべる。

「それはおまえの決断次第だよ、アダム」

アダムはそれに無表情で答えた。

「吾が答えなど一つに決まっておりましょう。エヴァを選ぶとお思いですか?神よ」

アダムの言葉に後ろに控える兄弟が構えを取る。

「今の言葉覚えておこう、アダム」

神は口の端を上げて笑うとそのまま姿を消した。

 

「アダム様、今からでも遅くありませんわ。私を選びなさいませ」

エヴァはリリスを見ながらアダムに言った。

「リリス様からもそういってくださいません?貴方だってアダム様の死体を見たくはありませんでしょう?」

 

リリスの身体がこわばった。

すっとサキエルがリリスの前に出る。

「アラ、恐い」

エヴァはふざけたように言うと今度こそアダムに向き直る。

「ね、アダム様、考え直してくださいませな」

甘えたように言うエヴァにアダムは冷たい視線を投げかける。

「私はリリス以外を選ぶつもりはない」

「っ!」

エヴァは眉を寄せると苦々しげにアダムを睨む。

「そう!なら勝手にしなさい!かってに・・・・・滅びるがいいわ!!」

エヴァは叫びながらその姿を消した。

 

エヴァが去ると全員が体の力を抜いた。

「・・・すまない、みんな」

アダムが頭を下げる。

「兄さん!」

サキエルが信じられないという顔でアダムを見る、他の兄弟も同じような表情だ。

「兄さんのせいじゃないわ!」

「そうです!それに私たちは貴方に命を貰った身、貴方のために命が消えるのならば本望ですわ!」

「我々は貴方を慕っております」

「大丈夫!誰も死んだりしないって!」

「そうよ!」

みんながアダムを励ますように口々に言う。

「・・そうね、きっと大丈夫よ。貴方と私がいるんだもの、アダム」

リリスの言葉にアダムが頭を上げてみんなを安心させるように微笑んだ。

「そうだな、きっと大丈夫だ」

 

 

 

All that you touch

All that you see

All that you feel

All that you love

All that you hate

All that you save

All that you give

All that you create

All that you destroy

All that you do

All that you say

All that is now

All that is gone

All that's to come

And everything under the sun is in tune

But the sun is eclipsed by the moon and moon

 

 

 

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