第8話 赤い嵐と青い嵐
赤い弐号機の前でシンジとミサキは少し呆れたようにアスカを見上げている。
アスカはシンジたちが見上げているのを確認すると誇らしげに弐号機にかけられているカバーをはずす。
「どう!これが世界初の正式なエヴァンゲリオン!!弐号機よ」
「・・・・・・・ていわれても」
「だからって感じだわ」
シンジ達は気のない返事をしつつも弐号機を見つめつづける。
「何いってんのよ!所詮初号機なんてテストタイプじゃない!あんたがいきなりシンクロできたのがいい証拠よ!!」
「・・・・・・・・」
シンジが答えないでいるとミサキがめんどくさそうに口を開いた。
「正式タイプって言うのは要するに、テストタイプにあった誤差を修正して誰でも扱えるようにしたものだわ。
実際、初号機の起動確立はO9システムといわれているわ。
要するにそれだけ起動確立がゼロに近かったってこと!大体、人に説明するときは目線の高さぐらいあわせたらどうなの?」
そこまで一気に言うとミサキはアスカを睨み上げる。
そんなことをされて黙っているようなアスカではなく。
「何様のつもりよ!このガキ!!」
そう言いつつも下に降りてくる姿を見てシンジはおもわず笑いそうになるのをこらえるのに必死だ。
そんなシンジを視界に入れることなくアスカはミサキに詰め寄る。
「大体なんであんたがココにいるのよ!あたしはサードを呼んだのよ」
ミサキはそんなアスカを鼻で笑うと、シンジの足にまとわりつきながら悠然と言ってのけた。
「ネルフ技術部第二課長のシンジ兄さんに同行してきたのよ」
一瞬理解できなかったのか、アスカは眉をひそめるとシンジに視線を戻した。
しばらく様子を見ていたシンジだが、さすがに苦笑してアスカに一歩近づく。
「改めてよろしく。ちなみに弐号機は新横須賀につくまでどんなことがあろうとも国連の管轄下にあるんだ。
こんなこと、いくらパイロットでも許されない行為なんだけどな」
「そうよ!兄さんのサインがないとどんなことがあっても弐号機はネルフにわたらないわ」
シンジの言葉にミサキが補足を入れる。
「どういうこと?・・・そういえばさっきあのおっさんが「碇博士」って言ってたけど」
怪訝な顔で聞いてくるアスカにシンジはうちポケット片一枚のカードを取り出すとアスカの目の前にかざす。
「・・・・国連、作戦部、特別顧問、碇、シンジ・・・・・・・・・・」
一言一言区切って言うアスカにミサキは馬鹿にしたような視線を送る。
「そういうこと。ちなみにさっき言ったようにネルフでは技術部所属だから」
シンジは言い終わるとカードをポケットにしまう。
「さて、セカンド」
アスカはその呼び方が気に入らないようでシンジを睨みつける。
シンジはミサキとともに出口に向かうとアスカを振り返ることなく進んでいく。
「サード、あんた喧嘩売ってんの?」
「何でさ、僕は正直にいったまでだね。セカンドチルドレン」
「・・・・・・・・」
「いつまでもココにいても意味無いと思うよ。それとも弐号機のそばにいないと何も出来ないの??」
「なんですって!!今出てこうとしてんのよ!!邪魔よどきなさい」
アスカは走ってシンジ達を追い越すとミサトが待っているであろう食堂の方角へとそのまま走っていった。
だからアスカは気がつかなかったのだ、シンジの手の中にある赤い球体に。
そしてそれが何なのかも当然アスカに知るすべはなかった。
「兄さん、それどうするの?」
「とりあえず、こうしておけば弐号機が動くことはないからね」
とりあえず預かっておくといってシンジはそれを持ってきた小さいケースにしまう。
「そんなことよりミサキ」
シンジが明るい表情でミサキの瞳を見つめる。
「分かってる!このままあの女をひきつけておけばいいんでしょう?」
ミサキも幾分明るい表情で答える。
その目にはどこかいたずらっ子な感じがうかがえる。
「頼んだよ。ところで、何でミサキはそんなにセカンドが嫌いなのさ」
「・・・邪魔だから」
ミサキはその一言に全ての意味を乗せるとそのままアスカを追いかけて走っていく。
「邪魔、か・・・・確かにね」
シンジは呟いた後、自分のなすべきことのためにミサキとは反対方向へと歩いていく。
シンジの中でアスカという人物は「ネルフの犠牲者」であり「自分の計画の妨害者」なのであるが、ミサキのように嫌いになりきれてはいないのだ。
確かに彼女と対峙すれば多少の憤りを感じはする。しかし、それはささやかなもので、どちらかというと彼女に対する哀れみのほうが強いのだ。
だがミサキは違う。
アスカは邪魔な存在であり、シンジを苦しめていた元凶の一人なのだ。
憎みこそすれ、同情などという思いは一欠けらもない。
おそらく兄弟の中で一番アスカを嫌っているのがミサキなのだろうとシンジは考える。
レイを除けば一番長くシンジとともに生きてきたのだ、シンジへの信仰は他の兄弟とは比べ物にならない。
いつでもシンジの(アダムの)ためにその身を犠牲にすることをいとわない彼女は、シンジを苦しめるアスカがどうしても許せないのだろう。
「できれば、今回の作戦が終わったら仲良くとまでは行かないけど、普通に接して欲しいものだな」
シンジはお兄ちゃんの顔になるとそう呟いた。
しかしすぐさま戦士の顔へと変えると誰にも聞こえないほど小さな声でかすかに呟く。
「でも、もし本当に邪魔なら死んでもらうけどね」
その表情に慈悲のかけらもなかった。
数分後、シンジは自らをATフィールドで包み込み海の中を進んでいる。
(ガキエルのいる方向はあっているはずだけど、どこだ?)
シンジはアスカやミサトたちに邪魔されないように、戦艦のソナーに反応しないうちにガキエルとのやり取りをませるため海の中でガキエルの気配を探っていた。
(覚醒はすんでいるはずだから、もっと奥か・・・)
シンジは泳ぐでもなく海底へと進んでいく。
ATフィールドがなかったらいっかんの終わりだろう、というところまで潜ると、シンジは前方にわずかだがガキエルのATフィールドを確認する。
(見つけた)
シンジは進むスピードを上げてガキエルに近づいていく。
(ガキエル、聞こえるかい?)
(誰でしょう?)
ガキエルのほうはまだシンジのATフィールドを認識していないらしく、間抜けな返事が返ってくる。
(僕だよ)
シンジは次第に距離を縮めていくと、ガキエルの姿を肉眼で確認できるところまできた。
(兄様!)
ガキエルのほうもシンジを確認したらしく、嬉しそうに(ものすごいスピードで)近づいてくる。
(え?わっ!ちょっとま・・・・・・・)
あっという間にシンジの目の前まで来るガキエルにシンジがバランスを崩す。
(兄様!)
それをガキエルが支えると、シンジはガキエルの目の前で位置を固定した。
ガキエルはなおもうれしそうにシンジに擦り寄ってこようとする。
さすがに体格差があるのでシンジは残念がるガキエルをおとなしくさせると本題に移った。
(ガキエル、おまえの魂を別の身体に移し変えたいんだ)
(????)
(つまり、その身体を離れて欲しいんだ)
(兄様はガキエルの姿嫌い?)
とたんに悲しそうな目をむけてくるガキエルにシンジは慌てて首を横に振る。
(違うよ!好きだよ!!)
言って、なにを言ってるんだかとシンジは落ち込むが、ガキエルはシンジの言葉に喜んでシンジに擦り寄ってくる。
(兄様!ガキエルも兄様大好き!)
再びシンジはバランスを崩しそうになるが、今度は何とか持ちこたえる。
(でもね、こんなに体格差があるとこれからいっしょにいられないだろう?だから、いっしょにいても大丈夫な大きさになってもらいたいんだよ)
シンジはなだめるように言うとガキエルはこくこくと頷く。
(分かった。どうすれば良い?)
(口あけてじっとしてて。少し痛いかもしれないけど我慢してね)
シンジはATフィールドをガキエルの口の中に進ませる。
ATフィールドがコアまでたどり着くとシンジはコアをATフィールドで包む。
とたんにガキエルの表情がゆがむ(表情があるのか??)。
(もう少し)
シンジはコアを完全にガキエルから切り離すと、そのまま外に持ってくる。
支えを無くしたガキエルの器はそのまま海底へと沈んでいく
(回収完了)
シンジは言うが早いかコアを小さくすると、そのまま海面に向けて浮上していく。
シンジがそんなことをしている間、海上では。
「ついてこないでよ!このガキ!!」
アスカがミサキを振り返って怒鳴るが、そんなことを気にするようなミサキではない。
ミサキはアスカを無視して歩きつづけると、アスカを追い抜いて食堂に入る。
「待ちなさい!」
アスカが慌ててミサキを追い抜くとミサトの向かいに腰掛ける。
ミサキは何も言わずにそのまま進んでいくと、コックにいくつか注文をしてアスカたちとは離れた席に座る。
(兄さん大丈夫かな?かなづちなのに)
ため息をつくとミサキはシンジが泳げないことを思い出した。
当然ATフィールドを張っているのでそんなことは関係ないのだが、それでもやはり心配してしまうのが人情というものだろう。
ミサキはもう一度ため息をつくとそのままアスカを見る。
(あの女もどうにかならないかしら?今回は良いけど次からどれだけ私たちの計画に支障をきたすか分からないわ)
ミサキがアスカを嫌う理由でいけばマナも嫌われていてもおかしくないのだが、マナはシンジと仲がいい上にそれなりに計画上役に立つので、ミサキも嫌ってはいないのだ、苦手ではあるらしいが。
(でも、兄さんに手を出すなといわれているし・・・・・)
ミサキは悩みながらも運ばれてきた「特大パフェ」と「びっくりケーキ」、そして「オリジナル紅茶セット」を次々と口に運んでいく。
どう考えてもミサキが一人で食べるとは思えない量なのだが。
(・・・もう一品頼もうかしら?)
ミサキはメニューを手にとると、優雅にパフェを食べながら楽しそうにメニューを観賞している。
(どうせお金はネルフもちなんだし〜。・・・・・・決めた!これにしよう!!)
「すみませ〜ん。この、コック特製デコレーションケーキ追加」
ミサキがさしているのは直径二十センチのデコレーションケーキだ。
さすがに注文取りのコックがひきつった顔で聞き返すと、ミサキは当然というように頷く。
「なるべく早くもって来てくださいね」
ミサキが言うや否や、コックは慌てて厨房に戻る。
なぜならば、そうこうしている間にミサキはびっくりケーキを食べ終わっていたからだ。
その様子を離れた位置から見ていたアスカたちは半ば呆然としていた。
(どこにあんなのがはいってんのよ)
(う、あれだけ食べて太らないなんて・・・・・)
ミサトは自分の前に置かれているコーヒーを悲しくすする。
「ちょっと!」
アスカは近くを通りかかったボーイを呼び止めるとミサキとおなじ物を注文する。
「早くもってきなさいよ!!」
「ア、アスカ〜〜〜??」
ミサトは驚いてボーイを止めようとするがときすでに遅く、ボーイは戦場と化すであろう厨房の中に入っていってしまった。
アスカは幸せそうにパフェを食べているミサキをにらむ。
「負けないわ!」
余談だが、アスカ、ミサトの食事代はネルフもちではなく自腹なのである。
ミサトは自分の財布の中身を確認するとアスカがこれ以上頼まないように祈るしかないのだ。
運ばれてきた量にさすがに引き気味だが、アスカはものすごい速さでそれを食べていく。
またまた余談だが、こういう食べ方ははっきりいって実際はあまり量が食べられないのだ。
ミサキのようにゆっくりと食べるか、少しずつ無理のない量をもってきてもらうのが一番食べられるのだが、そんなことをアスカが知るわけがなく、顔を真っ赤にしてミサキが新しいものを注文するたびにおなじ物を注文しては早食いをしているのである。
当然アスカのほうが身体が大きいので最初は余裕だったが六品目を超えたあたりからアスカに限界が訪れ始めた。
「うっ・・・・・」
口を覆ってまだ残っているケーキやらデザートやらを恨めしげに睨む。
(もう、だめ・・・・・)
そんなことを考えているとミサキのほうから追加の声が聞こえてきた。
「この〜、お子様ランチセットをお願いします〜」
甘えたように言うミサキの表情に曇りはない。
アスカはそれを見ると自分を奮い立たせておなじ物を注文する。
「アスカ〜〜もう勘弁して〜〜〜(;;)」
ミサトの財布の中身は今日で空になってしまうであろうことは言うまでもない。
一時間後
「・・・・・・何事?」
ガキエルの回収を済ませたシンジが食堂で見たものはテーブルに倒れこんでいるアスカとその横でコック相手に必死に値切っているミサト、そしていまだに食べつづけているミサキであった。
シンジは迷わずミサキの前に座るとテーブルに置かれている伝票を見て状況を納得する。
「ミサキ、いくらネルフもちだからってこんなに食べると太るよ」
「大丈夫!!」
さらに三十分後
一通り満足したのかミサキはやっと食べ終わった。
シンジはミサキを待っている間に紅茶のセットを頼んでいた。
「う〜ん、確かに美味しいね〜」
「でしょ!!あ、でも兄さんの料理には負けるよ」
「ありがとう」
兄弟のそんなほほえましい会話を二人を除く全員がげっそりと眺めていた。
新横須賀に着くと早速弐号機の引渡しが行われた。
「アスカ、大丈夫?」
シンジのおかげで何とか食費をネルフで立て替えてもらったミサトは車の中でぐったりしているアスカに声をかける。
「アスカ、ミサキちゃんと張り合ったんですって?」
ミサトの横にいるリツコが呆れたように言う。
アスカは答えることも出来ずにいまだにぐったりとしている。
「ミサキちゃんはものすごい量を食べるって言うので有名なのよ」
リツコは実際に見ていないので簡単に言うがあの量はものすごいなんて物じゃないとミサトは考える。
「リツコ、あれは化け物よ」
「・・・ミサトに言われたらおしまいね」
リツコは呆れながら車を降りる。
「じゃ、アスカのことよろしく」
言うがはやいかそそくさと逃げるようにリツコはその場から去っていった。
「ん〜〜〜〜?乗って行けばいいのに」
その言葉にアスカの車を降りようとしたが時すでに遅し。
「じゃ、いっくわよ〜んっ!!アスカ舌噛んじゃだめよ」
ミサトの車はそのまま弐号機の引渡しで忙しい人たちの作業を止めるようなスピードと悲鳴を残して去っていった。
「今のは、何だ?」
「OH!神風!!」
「・・・・・」
「リツコさん」
「無様ね」
「・・・(違うだろ!!)」
書類を渡しながらシンジたちも当然その光景を見ていた。
シンジは少しだけアスカに同情をしながらリツコに小さ目のケースを渡す。
「これは?」
「弐号機のコア、正確にはその中の魂です」
にっこり笑って言うとシンジはバイクにまたがる。
「戻しておいてくださいね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「え!ちょっ・・・・・シンジ君!?」
走り去るシンジ達をリツコがケースを持ったまま見送る。
「・・・キョウコ、さん?」
ケースを持ったまま固まってしまったリツコが起動するのには後数十分かかった。
シンジの研究室
「おかえりなさい」
シンジは入り口の所で待っていたレイのほほに軽くキスをするとダリアにガキエルのコアを渡す。
「マスターご苦労様でした」
ダリアはそういうと奥のほうへと姿を消していく。
シンジはそれを確認しいくつかの指示を研究員に出すとレイとともに来客用の椅子に座った。
ミサキたちもそれに続いてシンジの後ろに立つ。
「おつかれさん」
加持はシンジをねぎらう言葉を言うと目の前のアダムを指でさした。
「で、これをシンジ君はどうする気だい?」
「食べます」
にっこりというとシンジはアダムをわしづかみにする。
見る見るうちにアダムの輪郭がぼやけてきて数秒後にはまったくなくなっていた。
さすがにどう反応していいのか分からずに加持はその光景をじっと見ている。
「おいしい?」
レイが的外れなことを聞いてくるがシンジはレイの頭をなでると「普通だよ」と答える。
背後のミサキたちもどこかほっとしたようにシンジを見る。
「正確には吸収ですね」
シンジは加持に向かって言うとにっこりと微笑んだ。
「吸収、ね」
加持は信じられないような目でシンジを見るが、目の前で起こったことは全て信じるタイプの加持なのでそのままシンジの話を促した。
「はい、融合といっても良いですね、もともと僕の一部なので」
「詳しく聞きたいな」
加持は身を乗り出して言うとにんまりと笑った。
「良いですよ。ただし聞いたら後戻りは出来ません。僕達に協力してもらいます」
加持は了解の意味をこめて手を上げると、シンジは今までのことをかいつまんで説明し始めた。
「なるほどね」
加持はすっかり冷めてしまった紅茶を一息に飲む。
「で、俺はどうすれば良い?」
加持はシンジを吟味するような目で見る。
「別に、邪魔さえしてくれなければ当分は良いですよ」
「当分ね」
シンジはにっこりと微笑むと加持に一枚のカードを差し出す。
「ここのパスをかねたLv6のカードです」
「これはこれは」
加持は大げさにカードを掲げるとポケットの中にしまいこむ。
「それから、分かってるとは思いますけどここで見たものは他言無用です。例えミサトさんに問い詰められてもね」
シンジは釘をさすように言う。
「分かってるさ。これでも命は惜しいからね」
加持はそういうと研究室を出て行く。
「兄さん、いいの?あの人に話して?」
ミサキはシンジの向かいに座ると呆れたように聞いてくる。
「仕方ないさ、下手に探られるよりもある程度の情報を流しておいたほうが良い」
「ある程度、ですの?」
「そう、彼はうまく使えばいい戦力になる」
「うまくいけば、だろ」
「うまくやるさ」
「シンジ君なら大丈夫」
「ありがとう、レイ」
シンジはこれでおしまいとでも言うように席を立つ。
「さて、ガキエルもといピオンが目覚めるまで後三日はかかるかな」
シンジはディスプレイに向かうとなにやら操作し始める。
『マスター、第七使徒の素体ですが、どういたしますか?』
「う〜んいまのままで準備を進めていってくれ。コアが二つある以上素体も二つ必要になるだろうから」
『了解です』
シンジはあらかじめ準備しておいた書類に目を通す。
レイたちはシンジの邪魔をしないようにユイたちからきつく言われているため声をかけることも出来ない。
「暇だね」
「そうですわね」
「おれ外で遊んでくる」
リベラは言うが早いかそそくさと研究室から出て行く。
本来なら今日は研究室に来なくてもよかったのだが、シンジたちが気になってトウジ達と遊ぶ約束を断ってこっちにきていたのだ。
彼なりに兄弟のことが気になるようだ。
「ルーア、わたしたちも帰ろうか。なんだか気が抜けたらおなかが減ってきたし」
シンジはミサキにその言葉にまだ食べるのか!と突っ込みたくなったが、かわいい妹の楽しみを邪魔するような無粋な真似はせずにそのまま二人を見送る。
「・・・・・・」
レイはシンジの背中を見つめながらシンジの仕事が終わるのをひたすら待っている。
そんなレイを見かねて研究員の一人がシンジの仕事を引き受けると、シンジははじかれたようにレイといっしょに研究室を後にした。
残された研究員はというと。
「ライプラ!!またマスターを逃がしましたね!今日は責任をもってこの処理を終わらせてもらいます!!」
ダリアに怒られていた(合掌)。
シンジ達は家につくなりリビングでくつろいでいた。
(レイの膝枕です!)
「レイ、このままいつまでもいられると良いね」
「いられるわ」
「・・・そうだね」
シンジはレイの頭を倒すとそのまま唇を合わせる。
「シンジ君がどんな選択をしても私は信じてる」
「ありがとう」
レイは顔をあげるとシンジの髪を梳く。
いつもレイがしてもらっていることだ。
「気持ち良い?」
「うん、落ち着く」
シンジはその手に意識をゆだねるとそのまま眠りに落ちていく。
レイもシンジが眠ったのを確認すると自分もいつのまにか眠ってしまっていた。
数時間後シンジはのどの渇きを覚えてふいに目がさめた。
「・・・・・?」
自分がいまだにレイに膝枕をしてもらっていることに気がついて、レイを起こさないようにそっと体を起こす。
キッチンで水を飲んでいると目がさめたのかレイがいつのまにかシンジの背後に立っていた。
「おはようレイ」
シンジが言うとレイは微笑んでシンジの身体に抱きつく。
「レイ?・・・・・」
「・・・・・・・」
レイは起用にもそのままの格好で寝ているようだ。
シンジはレイを引きずるわけにはいかないので抱きかかえるとそのまま自分の寝室のドアを開ける。
「まったく、そう無防備だと僕の理性も危うくなるんだけどな」
シンジはかすめるようなキスをするとレイを抱きかかえたままでベットに横になる。
「お休みレイ、いい夢を」
今度こそ深い眠りに入るべくシンジはレイのぬくもり感じながら目を閉じた。