第七話 嵐を抱く瞳

 

「「「「「いただきます」」」」」

碇シンジ家の朝食が始まる。

相変わらずシンジが作ってはいるが、ルーアが手伝ってくれるようになりかなり楽になったのかもしれない。

しかし、作る量が増えているため、さほど変わっていないのだろうか?

 

 

 

「シンジ君、学校」

レイが言い出すまでもなく、シンジは仕事着に着替え終わっており、ミサキ達の準備もばんたんである。

「リベラ!ハンカチ忘れてる!」

「サンキュ!」

「姉さま、いくら玄関が広いからってそこで立ち止まらないでくださいませ!」

「・・・・・・」

「ミサキ!足踏んでる!」

「あ、ごめんなさい兄さん」

「リベラ!邪魔ですわよ、早くでてくださいませ」

「何で俺だけ」

多少の(?)ごたごたもあるが、無事にマンションを出ると五人は中学校に向かう。

 

すでに名物と化しつつある碇家の通勤風景。

はたから見ればどう見てもルーアが保護者のように見えるが、あくまでも世帯主はシンジであり、五人分の生活費を稼いでいるのもシンジなのである。

「兄さん、抱っこ」

ミサキが甘えてシンジにまとわりつく。

「「・・・・・・・」」

レイとルーアの周りの温度が下がったのを肌で感じ取り、リベラは少し四人から距離を取る。

(こっちに火の粉がかかりませんように)

 

しかしリベラのささやかな願いはシンジがミサキを抱っこしたことにより打ち破られたのだった。

「しょうがないな、学校に着いたら降りるんだぞ」

「うん!兄さん大好き」

「「・・・・・・・・」」

レイはミサキに手を出すことは当然出来ないので、とりあえずリベラを鞄で殴って憂さ晴らしをする。

ルーアはシンジを攻撃すれば当然ミサキにも被害が及ぶため攻撃できず、後ろにいるリベラの頭を思いっきりはったおした。

「ごげ!・・・のおぉ!!!」

シンジいわく、頭の良いリベラですら、二人の高速攻撃は避けられないようだ。

「相変わらず仲良いね、あの三人」

「まったく、やけるな」

自分たちが原因とも気付かずに、シンジたちは被害にあっているリベラとリベラに攻撃を加えている二人を、のほほんと見守っている。(止めろよおまえら!)

誰がなんと言おうといつもの通勤風景である。

 

 

「「「「「「「「きゃ〜〜〜〜!」」」」」」」」

「「「「「「「「ぅお〜〜〜〜!」」」」」」」」

相変わらずシンジたちが学校に着くと生徒達の悲鳴が町内に響き渡る。

「じゃあね、レイ」

「はい」

お約束のキスをするとレイはリベラを残してとっとと校舎の中に入っていく。

「ミサキ!私がいなくても他の人についていっちゃだめですわよ!」

「分かってるわよ!早く行きなさい!」

「でも〜〜〜〜〜」

ミサキに校舎を指差されて、ルーアはちらちらとミサキを振り向きながら校舎の中に消えていく。

「ふ〜〜〜〜じゃ行きましょう兄さん」

「そだね、じゃあまたねみんな」

シンジ達はそういうと校門の横につけてあるバイクにまたがって走り去る。

・・・・・・・何か忘れているような?????

 

「どうせ俺は誰も見送ってくれないよ」

リベラが校門に「の」の字を書きながらいじけている。

「まぁ元気出せよ」

「そや!新しい漫画が手にはいったんや!それ貸したるから」

トウジとケンスケが慰める。

「何時もいつもなんで俺ばっかりこんな役なんだ?」

「「・・・・・・・・・」」

「大体兄さんも勝負してくれるとかいって、全然してくれないじゃないか!・・・・・かといって姉さんやルーアに手なんか出したら今度こそ殺される(;;)」

「「・・・・・・・・・・」」

「誰か俺にやさしくしてくれ〜〜〜〜〜!」

「「リベラ!」」

叫びながら校舎の中に走り去っていくリベラをいつものように二人は追いかける。

「レリエル〜〜〜〜〜〜!!」

まだこない使徒の名前を叫んでいる。

「「レリエルって誰だ!」」

二人は名前を聞くやいなやリベラを追いかけるスピードを上げた。

「・・・・・今日も平和ね」

教室を通り越しても走りつづける三人を見ながらヒカリはそんな感想をもらした。

 

 

「おはようございます、博士。オハヨウ、ミサキちゃん」

「「おはよう、みんな」」

「シンジ、ミサキちゃんおはよう」

「「おはよう」」

「マスターおはようございます」

『マスター今日の予定ですが・・・・』

「おはようダリア。エラまずはおはようだろ」

『・・・・・おはようございます。で、今日の予定なんですが・・・』

 

さまざまな機械が動くシンジの研究室を自由出入りできるのはごく限られた人間である。

第二課の研究員、元使徒であるミサキ達、レイ、マナそしてたまに顔を出す時田である。

その他のものは中からの許可が降りないと決してはいることが出来ないのだ。

しかし、今日はシンジのゲストとしてある人物が招待されていた。

「何度も来て貰ってすみません」

「おや、俺がここに来るのは初めてだけど?」

「この間髭に呼ばれて意味のない作業をしに、わざわざ日本にきてたじゃないですか」

「ああ、確かに」

いうまでもないと思うが、シンジのゲストとは加持のことである。

「ほんとに、あの髭は何であんなしょうもないことを考えたんでしょうね?ねぇ母さん」

シンジは椅子を回すと、ニコニコとしながら紅茶を飲んでいるユイに声をかける。

「ホントにね。たとえ私たちが止めなくても時田さんが気付かないわけないのに。まったくあの人は自分の計画以外目に入らないのかしらね」

ゲンドウを一言も弁護する気はないらしい。

「まったく、ああいうのを井戸の中の蛙っていうのかな?」

「そうね〜〜〜」

「・・・・(指令の立場なしだな)」

加持は二人の会話を表面上は笑って聞いているが、内心ゲンドウに同情する。

「ところで加持さん」

「なんだい?」

「アダム、髭のところじゃなくてココに持ってきてください」

「はえ?」

シンジがさらりと落としたN2地雷に加持は言葉を失う。

「・・・・あ、僕が直接とりにいっても良いんですけど、ガキエルのこともありますし先にこっちのもってきて欲しいんですよ」

シンジは立ち上がると自分の机の上から分厚いファイルを持って加持に差し出す。

加持はそれをめくっているうちに、その表情が硬くなっていく。

シンジとユイはその様子をしっかりと観察しながら紅茶をおかわりする。

ユイは加持があらかたファイルを読み終わるのを見計らって、加持に冷めた紅茶の代わりを差し出した。

「あ、これはどうも」

紅茶を受け取った加持の表情はいつもどうりだった。

(さすがだな)

シンジは感心しながら加持の動向を見守る。

加持は紅茶を一気に飲み干すと、ファイルの最後のページをめくる。

「・・・・・・・・・」

「どうです?」

無言でファイルを閉じる加持にシンジは声をかける。

「・・・・・いつの間に・・・・」

閉じたファイルの表紙には「加持君の交友関係報告書  製作者リツコ」と書かれている。

「協力、してくれますよね(当然)」

「せざるえないな(こんなもの葛城にわたったらあのカレーを食べさせられること間違いなしだ)」

表面上にっこりと握手を交わすシンジと加持。

ユイはそんな二人をやっぱりニコニコとしながら見守っている。

 

 

 

いつも遊んでいるように見えるシンジだが(実際遊んでいて時々ダリアたちに強制的に仕事をさせられる)、ちゃんと毎日仕事をしているのだ。

シンジは使徒を人間にする研究・実践はもちろん、国連の技術開発、各地の技術復興作業、エヴァ(JA)の装甲武器の開発なども行っている。

ゆえに、ミサキたちと遊んでいないときのシンジは食事を忘れるほど仕事に打ち込んでいる。

しかも、いくつかの作業を平行して行っているため、エラやダリア意外には何をやっているのかはほとんど分からない。

 

研究員に次々に指示を出しながらシンジはモニターに新しい情報を映し出す。

「あら、アスカちゃんの情報ね」

「ええ、はっきりいって無用なセカンドチルドレンですわ」

ユイの言葉にダリアが毒舌を吐く。

さすがにひきつった笑みを浮かべてしまうユイ。

「ダリア」

さらに毒舌を吐こうとしているダリアをシンジがいさめる。

「まぁ、彼女が役に立たないのは確かだし、どう考えても邪魔でしかないけど、一応ネルフの被害者なんだから」

どう見てもとどめを刺しているようにしか見えない。

シンジはいったん作業を切り上げると、プリントアウトした二号機の情報をざっと読む。

「・・・・・・・・」

それとモニターのアスカの情報とを見比べてみる。

「・・・・・はぁ」

軽いため息とともに情報を消すとシンジは先ほどまでしていた作業に戻る。

 

 

 

シンジはあらかたの作業を終えると、ミサキを連れてターミナルドグマにきていた。

何の音もしないそこは密談をするには最適であったが、シンジたちにとってはそんなことは関係なかった。

「なんですって!ガキエルの回収が難しい?」

ミサキが思いっきり叫ぶ。

「どういうことよ!」

小さい身体を宙に浮かしながらミサキはシンジに詰め寄る。

「セカンドチルドレンが邪魔なんだよ」

シンジもまけずと叫ぶ。

「じゃあこっちに来させなきゃ良いじゃない!アダムの本体はあの加持って人が持ってくるんでしょ」

「そう簡単に行かないから、目くらましとしてセカンドを使うんだろ!」

ある意味兄弟の中で一番怒らせたくないミサキと、長男であり最高の実力を持っているシンジの言い合いは、LCLの水面を揺らすほどのエネルギーを発している。

「兄さんが行くのに何で回収が出来ないのよ!」

「出来ないとはいってない!難しいっていってるんだ」

「何でよ!ガキエルはいい子よあんなに兄さんになついてたのに!話せば言うこと聞くわよ、あのこは」

「だーかーら!それを絶対セカンドが邪魔するんだって!」

「・・・・・・・」

ミサキの表情には明らかにセカンドチルドレンであるアスカへの憎悪がみなぎっていた。

自分ではどうしようもないことへの苛立ちと、シンジがどれほどアスカに苦しめられていたかを知っているがゆえに。

そして、自分達が望むことをこれから邪魔してくるであろうアスカへの底知れない憎悪だった。

 

 

 

「兄さん」

二人の言い合いから数時間後、ミサキはシンジのそばにいるレイを(珍しく)無視してシンジに話し掛けた。

「私も行くから」

シンジとしては予想していたのだろう、取り立て驚いた様子もなく頷くと、ミサキを安心させるように微笑んだ。

「きっと、成功するわよね」

「もちろん」

 

ミサキは満足したのか、そのまま先に家に帰っていった。

シンジとミサキの間に流れる空気を感じていたルーアはいつものようにはしゃいではおらず、心配そうにシンジを見つめその表情が曇ってないことを確認するとミサキを追って研究室を出て行った。

残されたリベラもなにかを感じ取っているようだが、何も言わずに二人の後を追って研究室を出て行く。

 

 

レイはシンジに抱きつくと何もいわずにシンジに自分のぬくもりを移す。

「レイ、ありがとう」

他の兄弟には決して悟られてはいけない感情ですら、レイにはきづかれてしまう。

 

神なんて信じていない。

信じられるのはここにあるぬくもりと自分の望みだけ。

 

全てを包み込んでいくような黒い感情は、レイから与えられるぬくもりだけが消し去ってくれる。

全てを守ることは出来ない。

全てのものの望みなんてかなえることなんて出来ない。

だからこそ、人は自分のために生きるのだ。

自分の望みをかなえるために戦い、望みのために死んでいく。

 

シンジはいつしかレイにしがみついていた。

おなじ血肉を分け合ったものだけが感じ取る思いなのか、心が通じ合っているからこそ感じ取る思いなのかなんて関係なかった。

シンジはレイを何よりも愛し、何よりも大切にしているのだ。

半身。

双樹。

比翼のツガイ。

なんといっていいのか分からないが、どちらかがいなくなってしまったらきっと狂い始めていくのだろう。

静かに、けれども確実に。

 

 

何もしゃべらないまま動かない二人に研究員達は困り果てていた。

二人にちゃちを入れることはできないが、無視して作業を続けることもできなかった(シンジのサインが必要なため)。

しかもいつになくシリアスなのである、研究員達はダリアかユイが戻って来るのをひたすら待つしかなかった。

 

しかし、唯一止められるであろうエラは何をしているのだろう?

『・・・・・・・・・・・・』

寝ているようだ。

(冗談です、ほんとはメンテ中です!)

 

 

 

 

数日後シンジとミサキはオーバーザレインボウの甲板に立っていた。

シンジはニコニコとしているがどこか不自然な微笑み。

ミサキに至っては無表情なのか感情を押し殺しているのかわからない。

引率者であるミサトは二人の違和感に気付かずにきょろきょろと甲板を見回す。

しばらくして目的の人物を見つけたのか大きく手を振る。

「ヘロウ!ミサト!」

その声にミサキの表情が険しくなる。

シンジは相変わらずのニコニコ顔だが、目の奥で何かが揺らめいていた。

近寄ってくるアスカに対してミサキは無表情で、シンジは微笑みで迎える。

「あんたがサードチルドレン?はん!シンクロ率がちょっといいからってずにのてんじゃないわよ」

いきなりけんか腰につっかかってくるアスカにシンジはまだ微笑みつづけている。

「何よ!余裕ってわけ?いい気なもんね」

アスカの言葉にシンジではなくミサキが反応する。

しかしシンジに無言で止められ仕方なくシンジの後ろに一歩下がる。

ミサキにしてみれば、自分にとって大切な兄弟であり、すべての創造主でもあるシンジを馬鹿にされたのだから、本当ならば今すぐにでも叩きのめしたいところである。

「・・・・で?さっきからあたしを睨んでるそのガキはいったいなんなわけ?」

シンジの後ろに下がりながらも自分をにらみつづけるミサキをアスカは負けずとにらみ返す。

それに答えることなくシンジはアスカの前に一歩踏み出すと、そのままアスカの瞳を覗き込む。

「・・・・・・・・・・・」

「な、なによ!!」

なぜかシンジの瞳から逃れることができず、かといって目をそらすのが癪なアスカはシンジを睨みつける。

「・・・・人形の目だ」

「!!!!!!!」

とっさにアスカはシンジをはたくはずだった。

しかし、シンジをたたくはずの手はミサキによって阻まれてしまった。

「兄さんになにをする気?お人形さん」

びくともしない腕に驚きを隠せないアスかにミサキは冷たい声で言い放つ。

「な!・・・・・・・・」

アスかは顔を真赤にしてミサキの手を振りほどくと、そのまま泣きそうな顔をして船橋のほうに走っていく。

 

「な、なんなの?」

一人取り残されたミサトがわけのわからないままアスカを追っていった。

「アスカ!ちょっと待ってよ!!」

 

シンジとミサキは二人を追わなかった。

二人の瞳の先にはすでに目的のひとつである「アダムの抜け殻」を持つ加持の姿が映し出されていた。

 

 

 

「ずいぶん派手にやってくれたもんだな」

加持は半ば感心したように軽口をたたく。

「そうですか?でも、止めない加持さんもなかなかだと思いますよ」

シンジも調子を合わせて軽口をたたく。

シンジの雰囲気に先ほどまでのような緊張した感じはない、それどころかどこか安心しきっている様子が感じ取られる。

それはミサキも同じで、先ほどとおなじ人物なのかと疑ってしまうほど穏やかな瞳をしている。

「ご注文の品だ。本当に先にもっていっていいのかい?」

「はい。ダリアに預けてください。でも・・・・」

その前に、といってシンジはケースの蓋を簡単に開けてしまうと中に入っているアダムの抜け殻に手をかざす。

シンジの手が「ボウ」っと光ると、その光が抜け殻を包み込む。

 

「・・・・・・・よし」

シンジは何事もなかったようにケースを閉じると加持に渡す。

「・・・・何をしたんだい?」

加持がにっと笑いながら興味深げに尋ねてくる。

「秘密です」

シンジは指を口に当ててふざけたように言う。

「・・・仕方ない、男だって秘密があるほうが良いってときもある」

「あなたみたいに?」

ミサキが加持の瞳を覗き込んでくる。

(これは・・・・・・)

無意識のうちに一歩下がったあとで加持は、ミサキの瞳の激しさに気付いた。

穏やかな水面のその下で激しい炎が揺らめいているような、そんな瞳だった。

その容姿と態度のせいで気がつかなかったが、ミサキはおそらく何よりも激しい気性をしているのかもしれない。

 

「じゃあ、加持さん武運を祈っててください」

シンジは加持の背中を軽く押すと、そのまま用意しておいたヘリへと歩いていく。

 

加持はシンジとミサキの後姿を見送ると、自分も用意された別のヘリに乗り込んだ。

「がんばれよ。今はそれしかいえない」

舞い上がるヘリの中から届かないと分かっている言葉を加持は呟く。

「・・・・情けないな」

横におかれたケースを見ながら加持は自嘲めいて言う。

「そんなことないですよ」

操縦しているパイロットがそんな加持を励ますでもなくただ言葉を紡いだ。

「博士に対して何も出来ないのは我々もおなじなんです。それでも、我々を必要としてくれるから、こうしてココに・・・・・・博士の願いの手伝いができるんです」

「・・・・・・・」

「自分はあの人に会わなかったら、きっと深い闇の中で死んでいました。

情けないとは思いません、でも、やっぱり光の中にありたいと願いました。それをあの人はかなえてくれた。

だから、あの人の願いをかなえて欲しいと思う自分のわがままのために、自分はこうしてあの人の傍で働いているんですよ」

何かを思い出したように遠い目をしながら呟いたパイロットに加持は興味を引かれた。

「シンジ君の研究室の人間か」

「はい。アクエリアスといいます」

シンジに貰った名前だと誇らしげに言う。

 

加持がシンジについていろいろと質問をしたがそれには答えてはくれなかった。

しかし、ネルフにつく直前に加持がアクエリアスの昔のことを聞くとアクエリアスは少し困ったように笑って、昔の自分は捨てられないが、今では全てがシンジのもとにたどり着くための布石だったと思っていることを聞かせてくれた。

加持にとって、その一言はシンジがどれだけの人物であるのかを分からせる、十分な言葉だった。

 

 

 

オーバーザレインボウ

船橋ではミサト艦隊の司令官との意味のないやり取りが繰り広げられていた。

「おやおや……ボーイスカウトのお姉さんかと思っていたら、どうやらこちらの勘違いだったようだな」

「……ご理解いただけて幸いですわ。提督」

「いやいや、私としても久しぶりに子供のお守りが出来て幸せだよ」

ニコニコとしながら続けられているやり取りをつっこむものは誰もいない。 

「あら、お孫さんに相手にされないのかしら?」

「・・・自分に子供がいないからって他の子供に手を出すようなもんに言われたくないものだ」

「・・・その顔じゃ誰だって近寄りたくないですものね」

「三十路の女を引き取ってくれる愁傷なもんを早く探すんだね」

相変わらずニコニコして入るが二人に額には青筋がいくつも浮かんでいる。

 

「・・・・・・・・(ばっかみたい!)」

二人にくだらないやり取りを見ているうちに冷静さを取り戻したアスかがミサトたちを呆れたように眺める。

 

「・・・・・・ところで、エヴァの引渡しをしていただけます?」

ミサトが書類を突きつけて言う。

「冗談じゃない!新横須賀につくまでは我々の管轄のものだ!!」

司令官はミサトの書類を突っぱねると自慢するように自分も書類を突き出した。

「見ろ!国連軍特別顧問の碇博士よりこのように要望を受けている!!」

「!!!!」

ミサトはその書類をひったくるとまじまじと見つめる。

(シンチャン、何考えてるのよ)

目の前が暗くなるのを感じながらミサトは書類を司令官に返す。

司令官は誇らしげにその書類をディスクにしまうとミサトたちを出て行けといわんばかりにあしらう。

 

こぶしを握り締めながら悔しそうに出て行くミサトと、司令官の言った「碇博士」の単語がなぜか引っかかっているアスカがついで出て行ってから数秒後。

 

 

「こんにちは」

シンジとミサキが戦橋に顔を出した。

まるでミサトたちが出て行くタイミングを計ったような登場である。

「ようこそ。碇博士、そして・・・・お嬢さん」

ミサトたちとは180度ちがう態度で二人を司令官は迎え入れる。

「派手にやってましたね」

「そうかね?」

シンジたちがいつの間に盗み見ていたのかわからないが、どうやら本当にタイミングを計って出てきたらしい。

 

「しかし、あれがあの作戦部長かね」

「ええ、あの作戦部長です」

何が「あの」なんだ?

「しかし、うわさよりあれだったな」

「はは、あんなの序の口ですよ」

だから何がだ!

「なんと!」

「ほんとにすごいんですよ」

「うむ。あれがネルフの「天才毒物師」か」

「はい。「殺人カレー」の製作者です」

ああ、なんだそのことか(ものすごい言われよう・・・・・)

 

「しかし、君の提案であるあのことなんだが・・・・」

「不服ですか?」

「いや、そうではない。その、本当にエヴァンゲリオンを引き渡さなくて良いのかと思って」

少し心配そうにシンジを見る。

シンジから使途がここに来ることを聞かされているので、エヴァを引き渡してもかまわなかったのだが、シンジにエヴァは新横須賀につくまで何があろうともネルフに引き渡さないように言われているのだ。

「はい、中途半端に弐号機にでしゃばれると邪魔なんですよ」

にっこりというシンジの表情に多少ひきつりながら司令官は了解の代わりに片手を上げ敬礼をする。

シンジはにっこり笑うとそのままミサキをつれて船橋を後にする。

 

 

「サード!!」

シンジたちが甲板に出ると、アスカが待ち構えていたように仁王立ちになってシンジ達の前に立ちふさがった。

「ちょっと来なさいよ!」

そういうとアスカはシンジ達の返事も聞かずにずんずんと歩いていく。

「・・・・兄さん」

ミサキが機嫌の悪い声でシンジに次の行動を確認するように言う。

シンジは目だけでわかってるというとアスカの後を追ってゆっくりと歩き出す。

ミサキも仕方ないような足取りでシンジの後に続く。

 

 

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