第六話 御披露目会

 

〈シンジの実験室〉

シンジは電話で誰かと話をしていた。

「はい、・・・・・・・・・もちろん行きますよ!・・・・・・・・・え〜〜〜〜、でも僕は一応ネルフの人間なんですけど・・・・・・・・・・・そうですね、・・・・はい、じゃあ・・・・・・・・・・」

シンジの口調と雰囲気から、かなり親しい人物が電話の相手のようだ。

「ええ!レイもですか・・・・・・・・え?そんなことないですけど。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先生、それはいくらなんでも・・・・・・・・・・・・はい、・・・・・・・・分かりました、じゃあレイも連れて行きます。・・・・・・・・それじゃあ、はい、また・・・・・・」

シンジは、なにやら困ったような顔で受話器を置く。

「ふぅ、相変わらず強引だな」

シンジはダリアが入れてくれた紅茶を飲みながらため息をつく。

「レイも完成披露パーティーに連れて行くんですか?」

ファイルを抱えたダリアが横目で尋ねてきた。

「うん」

ファイルの量にシンジは顔をひきつらせながら頷く。

シンジの目の前にファイルを置くと、ダリアは改めてシンジの方を向く。

「このファイル、今日中に目を通してくださいね(にっこり)」

「(ゲ〜〜〜〜)・・・・・・・ダリア今日も綺麗だよ」

シンジは何とかファイルの量を減らそうと、ダリアをおだててみる。

「もちろんです」

しかし、ダリアはにっこり笑うと、あっさり水槽のほうに行ってしまった。

「(この量・・・・・・・嫌がらせか?)エラ、ダリアなんか怒ってる?」

『いいえ』

エラはそっけなく応えると、モニターに大量の情報を流し始めた。

『このデーターのチェック、今日中にお願いします』

「は?・・・・・・これ全部?」

シンジは、目の前に映し出された情報を呆然と眺める。

『はい』

「・・・・・・・・エラ、怒ってる??」

『いいえ』

またもやそっけなく応えると、エラは音声を閉じてしまった。

(僕が何したって言うんだ〜〜〜〜〜)

シンジは心の中で叫ぶと、一向に減る様子のない(むしろ増えている)ファイルに目を通し始めた。

 

 

二時間後

 

「・・・・・・・シンジ、生きてる?」

ユイがファイルの中で、突っ伏しているシンジに声をかけてみた。

「・・・・・・・・・・(死んでたまるか!)」

シンジは返事の変わりに、片手を挙げて応える。

「・・・・・・・がんばってね(ダリアちゃん、視線が痛いわ〜〜〜〜)」

ユイはダリアの視線のせいで、シンジを手伝うことを断念し、自分の作業に戻る。

「(僕が何したって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)」

もはや声をあげる元気もなく、シンジは再びファイルに目を通し始めた。

 

 

さらに、二時間後

 

「兄さん、死んじゃだめ〜〜〜〜!」

ミサキが動かなくなったシンジをゆすっている。

「マスター、起きてください!」

ダリアが電流を流してシンジを強制的に起こす。

「・・・・・・・・・がぁぁぁぁぁぁ!!!」

シンジは飛び上がると、そのままミサキともども床に沈没した。

「兄さん重〜い」

サキはシンジの腕が邪魔で起き上がれないでいた。

「・・・・・・・・・」

しかし、シンジはというと、一瞬の覚醒のあと、再び昏睡状態に陥ったようだ。

「マスター。お・き・て」

ダリアがミサキをどかし、シンジに再び電流を流した。

「ぎゃぁぁっぁぁぁぁ!!!」

今度こそ、再び昏睡状態に落ちることもなく、シンジは覚醒した。

「さ、マスター。まだまだ資料はいっぱいありますよ〜〜〜〜(にっこり)」

ダリアは手を振って水槽のほうへと消えていった。

「兄さん、何したの?」

ミサキは、シンジが椅子に座るのを手伝いながら聞いてみた。

「・・・・・・・・僕が聞きたいよ」

シンジは泣きながら(なんだか増えている)ファイルに目を通し始めた。

 

 

そして、一時間35分後

 

「シンジ君!」

レイがファイルのほうを(なんとか)片付けて、モニターに向かっているシンジに飛びついてきた。

「・・・・・・・・・・・・レイ!どうしたの?」

ほとんど放心状態だったシンジが、レイの声で覚醒する。

レイはシンジの首筋に鼻先をうずめて、こすりつけてくる。

「レイ?」

レイはまだシンジの首筋に鼻先をうずめている。

「・・・・・・・・・・・・レイ?」

「・・・・・・香水」

レイはシンジの顔を自分に無理やり向けさせた。

「香水、ヒカリさんが誉めてくれたの」

レイはシンジの首筋に再び顔をうずめる。

「あ?・・・・・・ああ!よかったね」

「はい」

シンジはレイの頭をなでると、にっこり笑った。

「・・・・・・・・・・マスター」

ふと顔を上げると、ダリアがものすごい形相でシンジ達を見ていた。

「お仕事、まだまだありますからね(にっこり)(^^メ)」

そう言って、再びファイルをシンジの前に差し出す。

「あ、は、は・・・・・・・・・」

シンジはもう笑うしかなかった。

『マスター』

今度はエラがモニターに、六つのファイルを映し出した。

『こっちもたくさんありますから』

「・・・・・は、・・・・は・・・・・・・」

シンジはレイを抱きかかえるとそのまま、もうダッシュで研究室から逃げ出した。

『「マスター!!!!!」』

 

 

 

「あら、シンジく・・・・・・・・・ん?」

ミサトがシンジに声をかけるが、シンジは止まらずに走り去る。

「ちょうどよか・・・・・・え??」

リツコがシンジのほうに駆け寄ってきたが、シンジはそれでも止まらず、リツコの横を走り去った。

 

「シンジ・・・・・・・ぐぁ!」

ゲンドウがシンジの前に立ちふさがった。

しかし、止まることのないシンジに思いっきり踏みつけられた。

 

「シンジ君、逃げるならあっちがいいよ」

シンジは知らない男が指差した方向に曲がってさらに走る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・え?????」

しばらく走って、シンジは思い出したように突然止まった。

「きゃ!」

レイが反動で落ちそうになり、シン時の首にしがみつく。

「あ、ごめんレイ」

シンジはレイを抱きなおすと、曲がった角を振り返る。

「今のって・・・・・・」

(何であの人が・・・・・・)

シンジは一瞬何かを考えると、思い出したように再び走り出した。

 

 

 

〈司令室〉

「おやおや、指令。大丈夫ですか?(顔に、でかい靴跡。シンジ君か)」

男がゲンドウの前に立つ。

「問題ない(シンジ!父さんはおまえをあんなふうに育てた覚えはないぞ!)」

ゲンドウはいつものポーズで言うが、サングラスが割れ、顔面に足跡をつけながら言っても、説得力はまったく

ない。

「しかし、「君には借りが出来たな」

ゲンドウが男を無視して言う。

「・・・・・どうせ返す気はないんでしょ」

男は肩をすくめる。

「あ、さっきシンジ君と会いましたよ。といってもすれ違っただけですが」

ゲンドウの片眉が一mm上がる。

「いや〜、レイちゃんを抱いて(愛の)逃避行ですか。恐れ入りますな〜」

ゲンドウのもう一方の眉も一mm上がる。

「エヴァのほうも、ユイさんをサルベージュしたのもかかわらず、シンクロ率が99.89%。流石というしかないですね」「そのためのチルドレンだ(当然だ、なんたってわたしの息子だからな)」

ゲンドウは、お決まりのセリフを言うと立ち上がった。

「・・・・・・期待してるぞ(ふ、問題ない)」

「????はあ(何をだ?)」

男はわけのわからないまま司令室から出て行った。

 

「いいのか、碇」

男が去った後、冬月がはじめて言葉を発した。

「彼はあまりにも危険すぎる」

「問題ない」

ゲンドウは椅子に座りなおした。

冬月はため息と共に、ある重大なことを思い出した。

「JAの件。シンジ君がなんていうか(それにユイ君も)」

「・・・・・も、問題「あります!!!!!!」

ゲンドウが言うのをさえぎって、ユイが司令室に飛び込んできた。

そのまま、ゲンドウの目の前まで来ると、にっこり笑って机の上に手を下ろした。

ビシビシ!

ユイが手を置いたところから亀裂が走る。

「「ひ!!」」

ゲンドウと冬月はそのまま後方に飛びずさる。

「時田さんはわたしとシンジの恩人です!その時田さんをおとしいれるなんて、どういうつもりですか!?」

ユイはそのままゲンドウに詰め寄る。

「ユ、ユイ!これにはわけが・・・・・・」

「問答無用!!」

その日、司令室からは、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてきたと言う。

 

 

〈シンジの研究室〉

「エラ、マスターはどこ?」

『現在ネルフ内を逃走中。ふふ、MAGIの目は盗めても、わたしの目は盗めませんよ、マスター』

「・・・・兄さん、何をしたの???」

ダリアとエラが無気味に笑う中、ミサキは一人水槽に張り付いていた。

「ミサキちゃん」

「はい〜〜〜!!」

ダリアが突然ミサキのほうを向いて声をかけてきた。

「そこ、どいてくれる?」

「は、はい!!」

猛スピードでどけると、ミサキはそのまま研究室を逃げ出してしまった。

「どうしたのかしら?」

ダリアがミサキの後を目で追いながら首をかしげる。

「・・・・・・・・・・」

その場にいた研究員は、みんなミサキのように逃げだしたかったのはいうまでもない。

(博士、何をしたんですか!!)

逃げ出すことの出来ない研究員の皆さんは、ダリアとエラが無気味に笑うたびに、びくついていた。

 

 

 

その後、シンジはダリアにつかまり、一晩中研究室に缶詰めにされたというわさが飛び交った。

 

 

 

「何でこんな目にあうんだ〜〜〜〜!!」

「ぶつくさいってないで早く処理してください!」

シンジの研究室からは、その日そんな叫び声が一晩中聞こえていたと言う。

 

 

 

 

JA披露パーティー当日

 

「・・・・・・シンジ君、なんかやつれてないかい?」

出会いがしらに時田はシンジの顔を覗き込みながら言う。

その瞳は、碇夫妻がシンジに向けるものよりも、よっぽど親らしいのかもしれない。

「そんなことは・・・・・・」

シンジはひきつりながら言うと、ごまかすように隣にいるレイを紹介した。

「先生。彼女がレイです。レイ、この人が、僕を育ててくれた僕の恩人の、時田さんだよ」

シンジの言葉に時田は少しさびしそうな顔をする。

「(やはり、お父さんとは呼んでくれないのか)よろしく、レイ君」

差し出された手に戸惑いながらも、レイは握手を返す。

「(シンジ君の恩人、ということは、私にとっても恩人?)はい」

そんな二人をシンジはニコニコとしながら眺めていた。

「・・・・・ぐぇ!」

突然シンジが悲鳴(?)をあげると、レイたちの視界から消えてしまった。

いや、正確には地面に突っ伏していた。

「「シンジ君!!」」

レイはシンジの上に乗っている少女をにらむ。

「あなた誰?」

「マナっていうの、よろしく」

マナと名乗った少女は悪びれずに言うと、シンジの上から身体をどけた。

顔面を何とか死守したシンジは、時田に手を借りて何とか起き上がる。

レイはシンジの腕を組むと、さらにマナをにらんだ。

「マ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ナ〜〜〜〜〜〜〜〜(−ーメ)!!!!」

シンジはこぶしを震えさせて地のそこから出ているような声を出す。

「あはは、ごめんね。勢いついちゃって」

マナは舌を出して頭を下げる。

「マナ君、いつもいっているだろう。少しは落ちつい「あ〜〜〜〜〜〜!そうだ!シンジ君、JAのパイロット私になったのよ!」

時田がお説教をはじめようとしたら、マナが慌てて大声でそんなことを言い出した。

「だから忙しいの!またあとでね〜〜〜〜〜〜」

「「「・・・・・・・・・」」」

そう言って去っていくマナを、シンジと時田はなれているのか、ため息と共に見送る。

レイはなんだかよくわからなかったが、シンジのそばから離れていったのでほっとした。

「ん?レイ、どうしたの?」

「・・・・あの人」

「マナのこと?」

レイが頷くと、シンジはため息をつく。よく見ると、その横で、時田も同じようにため息をついていた。

「・・・・・・今日の式典が終われば、いやというほど話すようになると思う」

レイがマナのことを聞いてきたのだろうと思ったシンジは(時田もだが)、あいまいな笑顔でレイにそう言った。

「・・・・・・・・」

しかし、レイの表情は晴れない。

「?レイ」

「・・・・・仲、いいの?」

レイは上目使いで、そうシンジにいってくる。

「え?うん、まぁいいほう、かな?(かわいい!!)」

シンジは時田に遠慮して、抱きつきたい衝動を抑える。

「そう」

言うと、レイはシンジの腕に絡めて手に力を入れてくる。

その表情は、わずかだが、むくれているようだ。

(レイ、もしかして、マナに嫉妬?)

シンジはそう考えると、頬の筋肉が緩んでいくのを止められなかった。

(・・・・・何?この気持ち。いやな感じ、・・・・・・そう、私はあの人のことが嫌いなのね・・・・・・・・・・いえ、違う?何なのかしら?この気持ち)

レイはシンジの顔を見ると、その感情がさらに大きくなっていくのを感じた。

(・・・・・・私のことを忘れてないか?)

時田は、(シンジ的には遠慮しているが)どうみてもいちゃついている二人を微笑みながら見ていた。

 

 

「シンジ君、レイ!」

「ミサトさんにリツコさん、どうしたんですか?」

式場につくと、中央の席からミサトたちに声をかけられた。

「どうしたって・・・・招待されたから来たのよ」

よく見ると、ネルフ御一行とかかれたテーブルには、コップとビール(ビン)数本が置いてあった。

「・・・・・(先生ってば)」

シンジは顔をひきつらせながら、ミサトたちを見る。

しかし、ミサト達は大して気にしていないようだ。

「で?シンチャンはどうしてここに?」

「え?だって、先生の主催のパーティーですよ?」

「ヘ?先生?」

どうやら、ミサトはシンジの引き取り先を知らないようだ。

後ろで呆れて肩をすくめるリツコがちょうど通りかかったウエイターに栓抜きを頼んでいた。

「(・・・・飲むのか?やっぱり)はい、僕を引き取ってくれた大切な恩人の先生です」

ミサトが納得したような顔をする反面、リツコの表情はひきつった。

「どうしました?」

「なななんでもないわ(ばれたら、私も指令とおなじ目に合わされるかもしれないわ)」

リツコはどもりながら、ウエイターに借りた栓抜きで、ビールの栓をどんどんと抜いていった。

 

 

(なんだったんだろう、リツコさん)

シンジ達は用意された席(ミサトたちからは比べ物にならないほど豪華)に腰をおろした。

ユイの一存によって、JA暴走計画を中止されたということは、どうやらシンジは知らないようだ。

「碇博士」

「碇君」

「碇顧問」

席についたとたんに、国連関係の人間が声をかけてきた。

「ああ、早坂博士、泉陸将補、不破少佐久しぶりですね」

シンジはにこやかに答えると、レイを紹介する。

「綾波レイです。僕の大切な恋人です。・・・・・・分かってますね」

言外に、「手を出したらただじゃおかない」と付け加える。

「「「もちろん」」」

三人はひきつった顔でユニゾンする。

レイはそんなシンジの顔を見ながら、首をかしげる。

(恋人、シンジ君の大切な人。ハッ、もやもやがなくなった・・・・なぜ?)

「ところで、今回、戦自は招待されてないようですね」

「はい。しかし、招待されても来ないでしょう。なんたって、今回の主催は時田博士ですから」

「確かに、あれだけのことした人物のところには来ないだろう」

「その前に、邪魔しに来ないかが心配です」

三者三様に答えるとそろってため息をついた。

時田が戦自に対して何をしたのかはこの際おいておいて、相当戦自から恨みを買っているようだ。

「と、ところで、碇君」

泉が恐る恐るといった感じに声を出してきた。

「JAのパイロットが、あの、マ、マナ君というのは本当かね」

そのセリフに、早坂と不破がえっとシンジの顔を見る。

その顔には、どこか恐怖に似たものがあった。

「・・・・・・・はい」

しばらくして、三人は顔をひきつらせたまま、自分たちの席に戻っていった。

(・・・・・心配も仕方ないか。あのマナじゃあなぁ)

シンジは過去にマナがしでかした事件の数々を思い出して、テーブルに突っ伏した。

(やっぱり、止めれば良かった・・・・・・)

そのとき、レイはシンジの横で、再びもやもやが沸きあがってきたことに戸惑っていた。

(また、この感じ・・・・・なぜ?マナ、さんの名前を聞いたから?)

「・・・・・レイ」

「はい」

シンジがレイの手をにぎって、声をかけてきた。

レイは知らずに頬が赤くなっていく。

「好きだよ。一番大切なのはレイだからね。・・・・・何があっても、君を守るよ」

「私も、シンジ君を守る」

触れ合う手から、シンジの体温を感じ取っているレイの心の中には、もう、もやもやはなかった。

 

 

〈ネルフ席〉

「おつまみがほしいわね〜〜〜〜。あ、ちょっと、なんかおつまみちょうだい!」

「私は、サンドイッチみたいなものが良いわ。あと、ビール足りないわよ」

「そんな〜〜〜。困ります〜〜〜〜(;;)」

すでに数本のビールを開け、ウエイターにからんでいる。

 

〈国連席〉

先ほどのシンジと同じようにテーブルに突っ伏している三人。

泉に至っては何かお経のようなものを呟いている。

(((どうか、生きて帰れますように)))

三人の願いは天に届くんだろうか?

 

 

数分後

 

「お待たせいたしました。これよりJA披露パーティーを開催いたします」

ファンファーレと共に、時田の声が会場に響いた。

 

ビービ−ビービービー

 

とたんに鳴り始める警報。

時田、シンジ、国連の各人を除いた全ての人が驚いてあたりを見渡す。

ミサトとリツコも例外ではない。

「なんかやばそうね〜〜〜〜」

「ええ(なぜ?ネルフからの妨害ではないはず。だとしたら、本当に事故!!)」

どうせ、ネルフがなんかしたのだろう、と思っているミサトの声はそんなに慌ててはいない。

リツコは、表面上はミサトと変わりないが、内心かなりあせっていた。

科学者として、万が一本当にJAが暴走した場合の被害が、容易に想像できるからであった。

 

一方

(マナのやつ、何したんだ??)

(マナ君、まさか、間違って警報を鳴らしたなんて事はないだろうね)

(やっぱり、無事じゃあすまないか・・・)

(南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏)

(・・・・・戦自のちょっかいでありますように)

五人は五人とも、顔をひきつらせて外に現れたJAを見る。

しかし、その延長上に現れた巨大な物体を見て、シンジは真剣な顔つきに、時田は心配そうな顔に、国連の各人は軍人の顔へと変わっていった。

 

第五使徒ラミエルの登場である。

 

行動が早かったのは時田だった。

「マナ君!ポットに戻るんだ!」

スピーカーに向けて叫ぶ。

 

次に動き出したのはシンジだった。

「ミサトさん、リツコさん!ネルフに連絡を!第五使徒が第二東京市に現れたって!!」

ミサト達は何かにはじかれたようにネルフに連絡をとり始める。

 

国連の各人は、それぞれ連絡を済ませると、シンジにこの場の全権をゆだねる。

「碇顧問、第二東京市の封鎖はあと30分で完了します」

「・・・・博士、国連事務総長に連絡つきました」

「戦自の介入は認められん。碇君、国連はこれよりの全指揮を国連作戦部特別顧問に任せることにした。がんば

りたまえ」

「了解」

シンジは短く答えると、レイと共に時田のもとに翔けて行く。

 

 

「先生!JAの操縦者は?」

「今ポットに収納した。しかし、あれが使徒か・・・・・・」

「はい」

時田は目の前に現れた使途を、食い入るような目で見つめる。

「・・・・・・食べないでくださいよ」

シンジが呆れたように言う。

「美味しいのかい?」

時田は間抜けなことを聞き返してくる。

脱力したシンジがその場にしゃがみこみそうになったとき

「何なのよ!このマナちゃんの一世一代の晴れ舞台に!!」

マナが叫びながら飛び込んできた。

「「「・・・・・・」」」

「大体!何?あのでかさは!反則じゃないの!」

「まあまあ、マナ君落ち着いて」

時田が何とかマナをなだめる。

マナはまだ言い足りないというように、テーブルの上においてある食べ物を口にほおばり始めた。

「はんはほひょ、はんはほひょ!!」

「・・・・・レイ、あんなふうに食べちゃだめだよ」

シンジがマナを指差して言うと、レイは素直に頷く。

「シンジ君、エヴァが届いたわ!」

リツコが下から叫んでくる。

外を見ると、確かにエヴァが運ばれてきているのだが、シンジは何か違和感を覚えた。

(早いにこしたことはないけど、使途が現れてからまだ十分、早すぎる。しかも、あれは零号機!!)

「・・・・・・・ぐぇ」

まだ食べつづけていると思っていたマナが、エヴァ見たさに、再びシンジを押し倒したのだ。

「シンジ君!!」

レイはシンジを抱え起こすと、マナをにらみつける。

「何でこんなことするの?」

「へ?ああ、ごめんね」

マナはシンジを見て謝ると、再び零号機に視線をもどす。

「あれがエヴァ?JAとあんまり変わらないじゃない!!」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

レイは驚くが、時田とシンジは当然だ、とため息をつく。

JAとは、ぶっちゃけた話、シンジによって横流しされてエヴァのデータをもとに、時田が独自の開発をしたものなのだ。

当然、似ていてもおかしくはない。

(講習、寝てたな)

シンジはそう考えると、レイを見る。

「レイ、どうする?」

到着したのが零号機である以上、レイが出撃となる(もちろん、シンジは零号機を動かせるが)。

しかし、レイの起動実験は成功しておらず、シンクロ率もいまだ不安定なのだ。

シンジがそんなレイを一人で出撃させるわけがなく、シンジのどうする?という内容は、出撃しない、もしくはシンジといっしょに出撃する、というものである。

レイとしても、シンジばかりを危険(?)な目にあわせ続けることはしたくはない。

しかし、かといって自分ひとりで使徒を殲滅する自信もなかった。

当然、撤退などという選択は初めから考えていない。

つまり、レイの答えはひとつしかなかった。

「いっしょに・・・・・・・」

シンジの服のすそをつかんで、まっすぐにシンジの瞳を見つめる。

シンジは頷くと、零号機の到着した場所へと、レイの手を引いてかけていった。

 

「シンジ君ってば、すかっりあのこと仲良くなったんですね」

「そうだね」

マナと時田はにっこりと笑って二人を見送る。

「でもよかった〜〜〜〜〜〜〜!今日、絶対ダリアさんが来ると思ってたもん」

マナは心底ほっとしたように胸をなでおろす。

はっきり言って、ダリア(エラともなのだが)とは犬猿の仲だ。

理由は数年前の事件がきっかけなのだが、それ以降も、何かといざこざが絶えない。

「確かに、ここで喧嘩をされては、使徒どころではないな」

時田はほっとした表情で呟く。

ダリアとマナの喧嘩では、ある意味、使徒との対戦より厄介だったりするのだ。

 

 

一方、シンジ達は、零号機に乗り込むと、ラミエルとの戦闘準備をはじめていた。

「レイ、ラミエルの加粒子砲は強力だから、長距離からじゃこっちの分が悪い。

接近戦で、一気に説得しよう。きっと、話せば分かってくれるから」

「はい」

レイは頷くと、シンジに抱きつくような形でエントリープラグに乗り込む。

「・・・・・レイ?」

プラグに入り終ったところで、シンジが困ったようにレイを抱きしめた。

「どうしようか?」

「私がシンジ君の上に座るわ」

一人用の席に二人で座るにはさすがに無理があったようだ。

(しかし、わざわざ上に座らなくてもよかったのでは・・・・・・・・)

シンジ達は、そうすることが当然のように座ると、通信を開いた。

「エラ、聞こえる?」

『はい、マスター』

「じゃあ、零号機発進!」

『・・・・・・・無理です』

のっていたところをあっさりと止められて、シンジはおもわずレイの首筋に顔をうずめた。

「なんで!」

『エネルギーが足りません』

「・・・・・・は?」

『まず、JAからエネルギーの供給をしてください』

エラが言い終わると同時に、零号機の背後にJAが現れた。

「「・・・・・・・・・」」

呆然とする二人を無視して、JAから零号機へのエネルギー供給が進んでいく。

 

「マスター!」

ダリアが通信機のモニターに向かって大声で叫んでいる。

「聞いてるんですか?ラミエル用の素体「ルーア」の準備はまだ出来てないんですからね!くれぐれも、魂を傷つけないでください!」

シンジが思いのほか、研究に参加しないので(レイたちと遊んでいるため)作業は大きく遅れていた。

ここ数日は、エラとダリアがシンジのフォローをしていたのだが、ついこの間ぶち切れたのだ。

そのため、研究が進むはずなく、ラミエル以後の素体は完成してはいなかった。

((((((((・・・・・鬼?)))))))))

後ろでせわしなく動いている研究員達は思ったが、あえて言わないでおいた。

まぁ言ったが最後、当分研究室から外に出られなくなるのは目に見えていたせいだろう。

 

 

『マスター供給は終了しました。がんばってください』

そう言ってあっさり通信をきってしまうエラ。

「・・・・・・が、んばって、といわれて、も!」

すでに、ラミエルより攻撃を受けている零号機に、シンジは強力なATフィールドを張りながら顔をしかめた。

(すでに、近づいて説得なんてできる状況じゃないじゃないか!)

 

「だるまさんが転んだ」

ビシュ―――――――――――

「!バリア」

 

「だるまさんが転んだ」

ビシュ――――――――――――

「バリアー!」

 

そんなこんなで十時間後

零号機は何とかラミエルに近づくことが出来た。といっても、その距離はゆうに五キロはある。

 

(サキエルをよくも殺しましたね。にいさま!)

「いや、生きてるって」

「シャムシェルもいるわ」

シンジ達は発せられる加粒子砲をATフィールドでふさぎながら、なんとか説得してみる。

(うそですわ!だってサキエルの気が感じられませんもの!)

「いや、だからね」

(サキエルを返してくださいませ!!にいさまのことを信じていたのに)

「だから、僕の話を」

(聞く耳持ちません!こうなったら、にいさまを道ずれにして私も)

とたんに強くなる加粒子砲と共に、ラミエルの後方から小型の水晶のようなものが飛び出してくる。

水晶は、零号機を囲むように移動すると、そのまま拡大をはじめた。

(サキエル、待ってて)

「待てるか〜〜〜〜〜〜!!」

シンジは外部スピーカーの音量を最大にする。

「ミサキ!!あれをどうにかしてくれ!」

『は〜〜い。ラミエル』

オープンにされたミサキの声に加粒子砲が弱まる。

(え?サキエル?・・・・・・・幻聴ですわね)

『ちがうよ。本人だってば。兄さんに新しい身体を貰ったの』

(本当に?)

『そう!!だから、ラミエルも早くこっちにおいでよ』

(・・・・・にいさま)

加粒子砲が収まりほっとするシンジにラミエルが不服そうな声をかけてくる。

(どうしてもっと早くに言ってくれなかったんですか!)

「言ったよ・・・・」

シンジは切れそうになるのを抑えながら、ラミエルに近づく。

(え?そうでした?いやですわ。私ってば、つい)

先ほどまで零号機を囲んでいた水晶が、ラミエルの周りをくるくると回っている。

(サキエル、待っててね。すぐにそっちに行きますわ〜〜〜〜)

「・・・・・・・・・・・・・・・・魂、回収終了」

シンジは深いため気をつくと、レイの首筋に顔をうずめる。

「これからでてくる使徒って、みんなこんななのかな?」

「わからない」

レイはくすぐったそうに肩をすくめるが、その顔はほんの少し赤らんでいた。

 

 

 

 

後日談

 

「は?先生、今なんて?・・・・・・・・・・・・・・・・いや、それは・・・・・・・・・・・だからって、・・・・ええ!母さんがそう言ったんですか?・・・・・・・・・・・・・・でも、やっぱり無理ですよ、こっちには、ダリアたちがいるんですよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな〜〜〜〜〜〜!・・・・・・・・あ、先生もきてくださいよ!そうすれば・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・・・・・・なんでそうなるんですか!・・・・・・・もしもし?先生?もしも〜し!!・・・・・・・・・・・・・・切られた」
シンジは受話器を置くと、ダリアと牽制しあっているマナをみる。

 

(何でこうなるんだ)

時田から押し付けられた二つのものにシンジは頭を抱える。

ひとつは、零号機エネルギーを取られてしまったせいで、ほとんど使い物にならなくなってしまったJA。

もうひとつは、そのパイロットとしてくっついてきたマナ。

JAはともかくとして、ダリアやエラと仲の悪いマナがどうしてここにきてしまったかというと、

「母さん、恨むよ」

ただ単に、ユイのわがままであった。

その日、シンジの研究室は、ユイが現れるまで誰一人として動くことが出来なかった。

 

 

 

 

「ミサキ!これ着てみてくださいな〜〜〜〜」

ミサキの部屋では、ルーアによる、ミサキの着せ替えショーが開かれていた。

「かわいいですわ!じゃあ、こちらは?」

「まだ着るの?」

さすがのミサキも疲れてきたようだ。

「だって、かわいいんですもの・・・・・・だめですの?」

どう見ても、ルーアの方が年上に見えるのだが、実際ミサキのほうが姉なので、妹であるルーアの上目づかいでのお願いに弱い。

「・・・・・・・これ着ればいいのね」

「はい!」

そんな二人の様子を部屋の隅で見ている少年が一人。

「・・・・・相変わらずだよな、こいつら」

ルーアに強制的につれてこられたリベラである。

散らかった部屋を片付けている自分の姿を思って、深いため息をついた。

(俺、今回出番なかったな)

そのさびしげな背中に、声をかけてくれるものは、一人も部屋にいなかった。

 

 

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