第五話 男の漢

 

シンジの自宅

AM5:00

シンジはいつものようにまだまどろみの中にいる。

朝の平和な風景である。

しかし、

「兄さん起きて〜」

それはミサキの声によってやぶられた。

「・・・・・・」

三時にやっと眠りについたシンジは、このくらいのことでは起きない。

「兄さん、起きて〜」

ゆすってみるがやはり起きない。

「・・・・・起きて(^^)」

ミサキの表情が、あやしくなってくる。

「・・・・・・・・・おっきろ〜〜〜〜〜」

「ぐえええええええ」

ミサキは起きないシンジに、思いっきり飛び乗る。

当然シンジの無防備な腹筋は、それを支えられずに沈没した。

「起きた?兄さん」

極上の笑みでシンジを見るミサキ。

「・・・・・・・・強力な目覚ましだね」

シンジはミサキをおなかの上で支えながら、複雑な表情をする。

ミサキは外見年齢五歳である(実際の歳は不明)。

シンジとしても怒るに怒れないのである(シスコンだから(笑))。

 

さて、ミサキに強力な起こされ方をしたシンジは、ミサキの格好を見て頭をおさえた。

「・・・・その格好は何かな?」

ミサキは、白いワンピースを着ている(シンジがお出かけ用に買ったもの)。

「兄さん、お出かけしよう」

シンジはまたかと深いため息をついた。

ミサキが目覚め、このマンションに来てから一週間、ずっとこんな感じでシンジは毎日ミサキの買い物などに付き合わされているのだ。

下の階に住んでいるミサキの部屋は、シンジがミサキに買い与えたものであふれ返っている。

 

「今日はだめ」

シンジはミサキをおろしながらきっぱりという。

「なんで〜〜〜?」

当然文句を言うが、シンジの次の言葉でしぶしぶ納得する。

「シャムシェルが来る」

 

AM6:30

「おはようレイ」

お約束のキス。

「おはよう、シンジ君・・・・・・・ミサキ」

「おはよう姉さん」

レイが起きて来て碇家の朝食が始まる。

(うん、今日のオムレツは一段とおいしく出来たな)

(またミサキが来てる・・・・・変な感じ、いやじゃない)

(兄さん、またピーマン入れてる〜(;;))

そっとピーマンをよけようとするミサキをたしなめながら、シンジはシャムシェルのことを切り出した。

「シャムシェルのことなんだけど。ミサキの言うように戻ってきてるんだったら、戦う必要ないと思うんだ」

「無理だよ」

シンジの願いむなしく、ミサキはあっさり否定する。

シンジは軽くずっこけながらミサキをにらんだ。

「なんで」

「だって、シャムシェル兄さんのこと尊敬してるもん」

「は?」

ミサキの言ったことをいまいち理解できないシンジ。

「だから、シャムシェルは兄さんと喧嘩するの大好きなのよ」

要するに、兄弟の仲でも特に負けん気が強いシャムシェルは、アダムの強さを尊敬し、それに触れることを何よりも生きがいにしているというのだ。

どうやらシンジも使徒の詳しい正確までは知らないらしい

しかし、シャムシェルとはなんとも男らしいやつのようである。

(な、なんて迷惑な・・・・・)

 

結局、ミサキの

「適当に遊んでやったら、言うこと聞くんじゃない?」

という言葉を信じて、シンジはシャムシェル戦に挑むことになった。

 

 

シンジの日課である、レイを学校まで送っていくという習慣に今日は変化があった。

「・・・・・・」

「どうしたの?」

レイが玄関で固まっているシンジに声をかける。

シンジはバイクの鍵とレイ、ミサキを見比べる。

ミサキはシンジとレイが出かけるとき、自分もいくと言い出したのだ。

「・・・・・・・」

シンジは悩んでいた。自分のバイクではどう考えても三人で乗っていくことは出来ない。

もちろん車の運転もできるのだが、現在の日本では14才のシンジが車の運転をすることは、法律に違反するのである。(バイクに時点ですでに違反しているが)

「・・・・・ダリアを呼ぼう」

シンジはそう言って携帯を取り出そうとしたが

「歩いていこう」

とミサキが携帯を取り上げてしまったのである。

結局、シンジたちは歩いて学校までレイを送っていった。

 

シンジ達はミサキをはさんで歩いている。

はっきり言って「親子の仲良し出勤」である。

 

学校についたシンジ達を迎えたのは、いつもの歓声ではなく、友人の絶叫だった。

「裏切り者〜〜〜〜〜」

ケンスケは、レイとシンジの間にいるミサキを見て泣いていた。

「センセ、いつの間にガキこさえたんや」

トウジにいたっては、もはや何も言うまいといった感じである。

「ちっが〜〜〜〜〜〜〜〜〜う」

シンジはそれから誤解を解くのに数分を費やした。

 

「何や、シンジの妹なんか」

同じように妹のいるトウジはあっさり納得する。

「・・・・・・・裏切り者!綾波だけではなく、こんなかわいい妹までいるなんて〜〜〜〜」

ケンスケはそういいながらミサキの写真をとっている。(ロリコンか?ケンスケ)

 

始業のチャイムが鳴り、みんな急いで校舎に入っていく。

「ケンスケ」

シンジがトウジといっしょに校舎に向かったケンスケを呼び止める。

ケンスケが動きを止め、それにつられるようにトウジとヒカリが足を止めた。

「なんだよ」

ケンスケが興味深げにシンジのそばまで戻ってくる。

今まで、シンジがこんなふうにケンスケを呼び止めたことがなかったからだ。

「今日、きっとシェルターにいかなきゃならなくなるけど・・・・・・」

ケンスケはおどろいた顔をしてシンジを見つめてしまった。

「・・・・・使徒かい?」

少し考えた後、おもむろにそんなことを聞く。

「そうだよ」

なんでもないことのようにシンジは答える(もはや使徒のことは重要機密ではないらしい)

「それで、ケンスケのことだから、ここぞとばかりにシェルターを抜け出して見物するような気がするんだ」

トウジを巻き込んでね、と付け足したシンジの言葉に、ケンスケは冷や汗をかいた。

(あはは、何でわかったんだろう)

シンジは笑顔のままケンスケを見つめる。

(シンジ、なんか恐いぞ)

ケンスケは一歩後退した。

「まさかとは思うけど、本気でそんなこと考えてないよね」

「あ、ああ。あたりまえじゃないかシンジ」

ケンスケの顔はひきつっている。

「よかったー。もし裏切ったら、僕本気で怒るからね(^^)」

シンジはそう言って笑顔のまま一歩ケンスケに近づく。

「・・・・・・・(恐いぞ、シンジ)」

「約束してくれるよね」

「もちろんだ」

ケンスケはひきつったままうなずく。

シンジはその笑顔のままトウジと光に目線を移した。

(ひ、シンジなんか恐ろしいで、その顔)

(・・・・・碇君恐い)

「二人とも」

「「はい」」

トウジ達は背筋を伸ばして返事をする。

「ケンスケ、見張っててね」

にっこりと笑って言うシンジに、トウジ達はそのままうなずくしかできなかった。

シンジは言いたいことをいってそのまま校門を向こうに姿を消す。

ケンスケ達はそのまま動けなくなり、一時間目をサボってしまった・・・・・・

「兄さん、置いていかないでよー」

シンジの後ろを追っていくミサキの声が校庭に響いていた。

ちなみにレイはとうの昔に校舎の中に消えている。

 

 

 

ネルフ発令所

「使徒ですわね、冬月先生」

「そうだね、ユイ君」

「シンジの言った通りですわね」

スクリーンに映る使途を見ながら、ユイと冬月がなにやらこそこそと話し合っている。

ちなみに、ゲンドウはなぜかこの場にはいなかった。

 

「碇指令の居ぬ間に、第四使途襲来か。意外と早かったわね」

「前は15年のブランク、今回はたった三週間ですからね」

「こっちの都合はお構いなしか。女性に嫌われるタイプね」

ミサトとマコトがそんな軽口をたたいている。

(そうか、ミサトさんの好みは・・・・・・)

マコトはなにやらメモのようなものと取り出して、何かを書き始める。

(何書いてんののかしら、怪しいわよね〜あいかわらず)

マコトの努力は無駄のようだ。(かわいそうに・・・・・)

 

「エヴァンゲリオン、出動」

ユイが高らかに言う。

「え?委員会からの要請は出ていませんが・・・・・・」

ミサトがユイを見上げて反論する。

「(・・・・・そういえば・・・ま、いいか)ミーちゃん、エヴァの発信準備始めてね」

にっこり笑ってユイはミサトの言動を止めた。

「は、はい(こ、恐〜〜〜〜)」

 

エヴァンゲリオン初号機エントリープラグ内

『シンジ、がんばってね』

「うん、母さん。フォロー頼むね」

出撃前とは思えない和やかな声である。

『国連のほうはシンジがおさえたんでしょ(どうやったのかは、わからないけど)』

「うん、そっちは問題ないよ」

『で、ミサキちゃんは?(そばにいなくてつまらないわ)』

「ダリアと一緒にフォローにいってるよ(万が一に備えてね)」

 

『エヴァ、発進準備終了』

リツコの声がプラグ内に響いた。

『発進』

「っつ」

話中のシンジは、突然かかったGのおかげで舌を噛んでしまった。

 

「リッちゃん、いきなり出しちゃだめじゃない」

ユイがリツコをめっと叱る。

「すみません」

リツコはシンジが舌をかんだことに気がついていたので、本気で謝る。

(あとが恐いわ・・・・・)

特に、ダリアとエラあたりのことだろう。

 

 

シンジが地上に射出されたシンジはパレットライフルを構えた。

「おいで、シャムシェル」

シンジはATフィールドを展開、中和してコアに向かってライフルを斉射した。

しかし、一向に効いている気配がない。

 

シンジはライフルの斉射をやめる。

『何してるの!攻撃を続けなさい』

ミサトがシンジを責める。

「これ以上したら爆煙で相手が見えなくなります」

そんなこともわからないんですか?とシンジは付け足す。

『く、』

ミサトは唇をかむ。

(なんてなまいきなの!)

「リツコさん」

『なに』

リツコはミサトを見ながらシンジの声に答える。

「これ、効きませんね。リツコさんならもっといいのを作れるでしょう?」

リツコはぴくっと眉を吊り上げる。

(そうよ!もっと予算があれば、こんなものよりも強力なものが作れたのよ)

そう思ったが、表面上は何事もないように答える。

『理論値はクリアしているわ・・・・・・・』

シンジはため息をついてシャムシェルに向き直る。

「二人とも、努力あるのみのようですね」

そういうとライフルを下に落としてプログナイフを構える。

『シンジ君、何をする気!』

ミサトが勝手な行動に出たシンジに驚いていう。

 

「初号機内から回線が切断されました」

マヤがミサトにびくつきながら報告をする。

「なんですって!なに考えてるのよ、あの馬鹿・・・・」

ミサトはいってから、しまったとユイのほうを見上げる。

「・・・・・・・・・・・・」

ユイはニコニコと子ながらミサトを見ていた。

(ひい・・・・・・)

「ミーちゃん」

「はい!」

ミサトは背筋を伸ばして返事をする。

「シンジの契約に、作戦部長の提案した作戦より、シンジが考えた作戦のほうが有効の場合、それを実行する権利を認めるというのがあるの知ってる?」

「・・・しかし」

「でも、この場合。ミーちゃんは何の作戦もないのよね?」

ユイはニコニコとしながら痛いところをついてくる。

「なら、シンジのすることに文句はないわよね?」

「・・・・・・・・はい」

(わかってる・・・・・でも私は)

ミサトは唇をかんだ。

「・・・・・私怨で戦うのはいけないわね」

ユイは先ほどとはちがう笑みを浮かべている。

ミサトはユイを見上げるがユイはもうミサトを見ていなかった。

ユイの視線はリツコのほうにあった。

「リッちゃん」

「は・・・・・・い」

リツコはミサトがネルフに入った理由を知っているのでなんともいえず、ユイに返事を返すしかなかった・・・・・・・が、ユイの顔はミサトにはじめ向けられていたものと同じなのに気がつき、顔をひきつらせた。

「予算のことは考慮しておきます。次からはもっと使えるものを作ってね」

ユイは笑顔のままだったが、予算が増えるという一言でリツコははしゃいだ(表面上は変わりなし)

しかし、ユイの一言で今度こそ完全に凍りつく。

「ゲンドウさんと何かしてるひまがあったら、エヴァの武器を作ってほしいものだわ。それに、くだらない計画に使った予算の分、武器の開発に使えばもっと良いものが出来たわよね〜」

ユイはこれ以上ないほどの笑顔だったが、その笑顔は発令所にいる全員の行動をとめる威力があるようだ。

 

一方、忘れられたシンジのほうは・・・・・

「シャムシェル、行くよ!」

一気にシャムシェルに近づくと、プログナイフを振り下ろす。

シャムシェルはそれをよけると、鞭状の腕を初号機に向かって伸ばしてきた。

「おっと」

紙一重でよけるとシャムシェルとの距離をとる。

初号機の横にある兵装ビルが綺麗に切れる。

(いい切れ味だ。あたったら痛いだろうな)

ゆっくりと距離を縮めていく。

(さて、遠距離からの攻撃は・・・・・・)

鞭をよけながらシンジは戦い方を考えている。

接近戦用の武器しか持っていないシンジは、シャムシェルとの距離を縮めていくが、シャムシェルはそれを察してなかなか近づけさせない。

周りにある兵装ビルが次々に切り落とされていく。

シンジは再びライフルを持ち直すと、兵装ビルのひとつを斉射する。

すぐに爆煙で初号機の姿が見えなくなり、シャムシェルが攻撃をいったん止めた。

「くらえ!」

シャムシェルが攻撃を止めると、すぐに後ろから初号機のけりが入り、そのまま山のほうに飛んでいく。

「あ・・・・・・・・(しまった)」

シンジはすぐにシャムシェルの後を追う。

 

「ねぇ、ダリア」

ミサキとダリアが山の神社の境内でのほほん茶をしている。

「はい」

「来ないね」

「そうですね」

二人は、シンジから(脅しといたけど)万が一、ケンスケ達がシェルターから出てきたら保護するように言われ、ここで待機していたのである。

「・・・・・あ」

ミサキが、シェルターの非常出口から出てくるケンスケを見つける。

「・・・・来ましたね」

「来たね。・・・・・・え?」

ミサキが空中をひきつった顔で見上げる。

シャムシェルがふってきたのである。

「な、な・・・・・」

「こっちも来た〜〜〜!!!」

ミサキ達は一目散にその場を離れた。その速さは音速を超えていたとか、いないとか・・・・・

ズーーーーーン

ミサキたちが先ほどいた場所にシャムシェルが落下した。

「危なかったですね」

「うん」

ミサキたちはシャムシェルから離れたところで、そんな感想をもらしていた。

 

一方ケンスケは・・・・・

「あれがもう少し下に落ちてきてたら・・・・・・・(ブルッ)」

どうやら、つぶされた自分を想像したらしい。

「・・・・・帰ろう」

ケンスケは青ざめた顔でシェルターの中に戻っていった。

しかし、シェルターの中で、トウジとヒカリがケンスケを待ち構えていたのは言うまでもないだろう。

 

シンジに視点を戻してみると

「ダリア、ミサキ!無事?」

『はい』

『うん』

かけつけたシンジはミサキ達を見つけて、ほっとしていた。

まさかつぶされてはいないだろうが、怪我でもしていないかと心配だったのだ。

シンジは二人をかばいながらシャムシェルと対峙する。

「・・・・・そろそろけりをつけようか」

初号機は腰を落とすと、そのまま高くジャンプした。

シャムエルの鞭がそれを追うが、ATフィールドによって初号機には届かない。

「これで終わりだ!」

そのまま慣性の法則に従い、初号機はシャムシェルのコアにプログナイフを突き立てる。

(うが〜〜〜〜〜〜〜)

シャムシェルの断末魔である。

「って、魂回収しなくちゃ!」

シンジはコアの光が消える寸前に、危ないながら魂の回収に成功する。

(危なかった。また殺しちゃうところだった(^^))

ほっと一息をつくシンジであった。

 

 

発令所

まだ凍りついていた。

(・・・ち、沈黙が痛い)

ミサトはだらだらと冷汗を流していた。

(・・・・・なんでこんなときにかぎって碇が居らんのだ)

冬月はユイの隣にいるので生きた心地がいない。

(((恐いよ〜)))

オペレーター三人衆はモニターを見ながらも、背後の空気に動きが取れないでいた。

(ユイさん、まだ怒ってるんですか〜〜)

リツコはユイの視線から目をそらすことが出来ずに、倒れる寸前である。

 

『任務終了、これより帰還します』

シンジのそんな声が、発令所に響いた。

全員が驚いて、モニターを振り向いた。(オペレーターはもともと向いている)

「いつのま・・・・に・・・・」

リツコはそう言って、過度の疲労のために倒れた。

「も、目標沈黙」

オペレーターたちがあわただしく、状況を説明していく。

「あらあら、シンジったらやるわね」

ユイはにっこりと、微笑んでモニターの中のシンジを見ていた。

 

 

男子用更衣室

(・・・・・・なんか、疲れたな)

シンジはシャワーを浴びながら、頭を振った。

シャワーを止めて、タオルを取ろうとろうと手を伸ばす。

コンッ

何かが手に当たって、床に落ちた。

(シャムシェル・・・・・・・・・・トウジと似たタイプだったな)

シンジは、先はどの戦いを思い出す。

 

《兄さん!会いたかったよ》

シャムシェルは鞭を振るう

避けるエヴァの代わりに、兵装ビルが次々と倒れていく。

《逃げるなんて男らしくないよ》

(近寄らせないのは、男らしいのか?)

思わずつっこみたくなるのをこらえて、シンジはどうやって近づくかを考える。

《兄さん!もっとだよ!》

(なにがだ〜!)

シンジは思わず、近くに落ちていたライフルを、シャムシェルめがけて投げそうになる。

しかし、思い直して兵装ビルのひとつを、斉射した。

《眼くらましか!》

シャムシェルは、一瞬攻撃を止める。

(もらった!)

すでに背後にまわっていた初号機が、シャムシェルの背後から、思いっきりけりを入れる。

「くらえ!」

《ぐわ〜〜〜〜》

シャムシェルは綺麗に、山のほうに飛んでいく。

(しまった)

慌てて追うが、シャムシェルはそのまま墜落する。

(ミサキ、ダリア無事でいてくれ!)

少し遅れて到着し、二人の無事を確認する。

(・・・・飽きてきたな)

「そろそろけりをつけようか」

思いっきり飛ぶと、ATフィールドでガードをしつつ、シャムシェルに向かって一気に、プログナイフを突き立てる。

《うが〜〜〜〜〜〜》

(ふ、勝ったな・・・・・・・・って)

「って、魂回収しなくちゃ!」

シンジはあわてて、コアをATフィールドで包み、シャムシェルの魂を回収する。

《さすがだね兄さん、でも次こそは!!!》

《絶対ま(危なかった。また殺しちゃうとこだった。)》

シンジはシャムシェルの思考をさえぎって戦闘を終了した。

 

(・・・・・・復活させるの、やめようかな)

本気で考えている。

シンジは服を着ると、更衣室を出た。

「シンジ君、お疲れ様」

更衣室を出たところで、レイが抱きついてきた。

レイとしては、すぐにでもシンジのそばに行きたかったのだが、ダリアから「着替えを覗くような行為は、慎みな

さい!」と注意されているので、精一杯の妥協でドアの前で待っていたのである。

「レイ、待っててくれたの?うれしいよ」

シンジはレイに感謝のキスを送ると、そのまま研究室に向かった。(手はつないでます!もちろん)

 

「・・・・・あれ?レイ、なんかいい匂いがする」

シンジがレイの手首を、鼻のところに持っていく。

「・・・・・」

レイは頬を紅くして、なすがままになっている。

「香水?つけたの?」

こくんとうなずいて、レイはヒカリの名前を出す。

どうやら、ヒカリはレイに自分の持っている香水を、少しつけてあげたようだ。

「ベビードールかな?いい匂いだけど・・・・・・」

レイのイメージじゃない、といってシンジは今度、香水を買いに行こうと提案する。

「シンジ君が選んでくれるの?」

「もちろん」

「なら、行くわ」

シンジは極上の笑みを浮かべると、レイの手の甲にキスをする。

「・・・・・・・・あ」

レイは白い肌を見る見るうちに紅くしていく。

「クスクス、じゃあいこうか」

シンジは満足そうに、レイの手を引いて研究室へと、再び足を進めた。

 

 

二日後

「兄さん、勝負だ!」

シャムシェルこと、リベラは目覚めた早々、そんなことを言い出した。

シンジは適当には誤魔化しつつも、ミサキの協力により、リベラにこれからのことをレクチャーする。

(内容はミサキとほぼ同じです)

ちなみに、ミサキと違って、見た目が14歳のリベラは、レイと同じように中学校に通うことになった。

 

 

日曜日

「う〜〜〜ん」

香水の専門店で、悩みまくっているシンジと、それを見てうれしそうにしている、レイの姿があった。

「これは甘すぎる・・・・・・・・」

「ちょっと重いかな?」

「・・・・イメージじゃない」

レイを見て、香水を薦めてくる店員の努力も空しく、いまだにレイにぴったりと思われる香水は見つかっていない。

 

「レイは、どんなのが良い?」

シンジは隣で、差し出された香水をかいでいるレイにたずねてみる。

「シンジ君が選んでくれるんなら、何でも良い」

レイはポット顔を紅くして答える。

「まあ、仲のよろしいこと」

店員は半分ひきつりながらそんなことを言っている。

 

 

数分後

「これもなんか違う」

まだ決まっていないらしい。

店員は先ほどからやけのように商品を出してきている。

「・・・・・なかなかいいのってないんだな」

シンジがそう言ってため息をつくと、後ろから声をかけられた。

「お困りのようですね」

振り返ると、穏やかそうな女性が立っていた。

「店長」

店員が慌てて頭を下げる。

「お客様、ずいぶんお試しになったようですね」

店長と呼ばれた人物は、店員を下がらせると微笑みながら言ってきた。

「ええ、まあ」

シンジはばつが悪そうに肩をすくめた。

「あまり嗅ぎつづけると、匂いもわからなくなってしまいますから。少しこちらで休憩してはいかがですか?」

そう言って、シンジ達を店の奥に案内する。

 

勧められた席に座って、シンジはその女性を観察した。

(いやな人じゃないな・・・・・・・母さんに雰囲気が似てるかも)

店長は紅茶を運んでくると

「そちらのお嬢さんの香水をお選びなんですか?」

とシンジに聞いてきた。

「はい」

シンジはレイを見ながら、少し困ったように言う。

店長はにっこり笑うと、紅茶を一口飲んだ。

シンジたちもつられるように一口飲んでみる。

「あ、おいしい」

シンジは素直な感想をもらす。

レイも気に入ったらしく、その味と匂いを楽しんでいるようだ。

「ありがとうございます。わたしのオリジナルブレンドなんですよ」

 

「お客様、そちらのお嬢さんのイメージを、思い描いてみてください」

少しの会話で打ち解けたシンジたちに、店長はふとそんなことを言い出した。

シンジは言う通りに、レイのイメージを思い描いた。

 

(月・・・・・・・そんな感じだな

そばにいると暖かい、いつもそばにいる感じ・・・・・

癒されるってこんなのを言うんだろうな

・・・・・・・・・・純情ともちがう・・・・・・・無邪気・・・・・かな?)

 

そう考えていると、店長がひとつの香水を出してきた。

シンジは何気なく嗅いでびっくりした。

「あ、これ・・・・」

「わたしはこれなんかが似合うと思いますよ」

店長はゆっくりとした動作で、その香水をレイにも差し出した。

「・・・いい匂い」

レイは素直に感じたまま、声に出す。

「うん、これがいいな」

シンジはうれしそうに笑っていった。

「では、こちらをお買い上げでよろしいですね」

「はい」

シンジがうなずくと、店長はまだ開けていない香水を、店員に持ってこさせた。

 

「・・・・・お客様は、おつけにならないんですか?」

店長がおもむろに言ってくる。

「え?ぼくですか?」

シンジは予期していなかったセリフに驚いた。

「ええ」

店長はやはり微笑んでいた。

しかし、視線の先にいるのは、シンジではなくレイだった。

「この香水のお礼に、お嬢さんが選んであげるとか」

「わたしが、シンジ君に・・・・」

レイは少し考える。

(シンジ君にはいろいろ買ってもらってる・・・・・・・・

でも、わたしが何かあげたりしたことはない・・・・・・・)

「・・・・・・・・はい」

レイはうなずくとシンジを見つめた。

 

(シンジ君のイメージ・・・・・・

暖かい・・・・・・・大切な人

わたしを守ってくれる人・・・・・・わたしが守りたい人

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛する人)

 

ふわり、とレイの鼻をやわらかい香りがかすめた。

「それ・・・・」

レイは店長の手の中にある香水を見た。

「こちらですか?」

ゆっくりとそれをレイに渡す。

「・・・・・・・・(コクリ)」

「・・・・・これがレイの中の、僕のイメージ?」

どうやらシンジも気に入ったようだった。

「では、こちらも包んでおいてちょうだい」

店長はそう、店員にいって自分はどこかに姿を消した。

 

「お会計は、〇〇〇〇〇になります」

シンジ達は会計を済ませると、店長の姿を探した。

「お客様」

店長は置くから白い紙袋をもって出てきた。

「今日はお買い上げありがとうございました」

丁寧に頭を下げてくる。

「こちらこそ、いろいろよくしてもらって」

シンジが慌てて頭を下げる。レイもシンジを真似して頭を下げた。

「お客様、よろしかったらこちらをお持ちになってください」

そう言って、白い紙袋を差し出してきた。

「これは?」

シンジが不思議そうにたずねる。

「先ほどの紅茶です。お気に召していただいたようなので」

「いいんですか!」

「はい、その代わり。これからもちょくちょくいらして下さいね」

そう言って、店長は微笑んだ。

「はい。ありがとうございました。また来ます」

シンジは改めて頭を下げて店を出た。

 

「いいお店だったね」

「(こくり)」

また来ようね、とシンジは言ってゆっくりとした足取りで、家路を歩いていった。

 

 

 

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