第四話  嵐の訪れ

 

シンジの研究室

「シンジ、ミサキちゃんのことなんだけど、リッちゃんが探りを入れてるみたいよ」

ユイがふと、思いついたようにそんなことを言った。

シンジはエラと、なにやら相談していたがユイの言葉に興味を持ったようだ。

「リツコさんが?・・・・・・・・確かに、あれだけの研究費を持っていきながら、いまだに何の発表もして無いから、探りを入れるのも当然かな」

シンジは口元に手をやるとなにか考え出した。

「ユイさん、マスターはああなると当分動きませんよ。(この忙しいときに余計なことを)」

ダリアは、ミサキの後ろにある水槽から顔を離し、あきれたようにため息をついた。

ユイは舌を出して「ごめん」と謝ると、ダリアの横で「AH−4」とかかれた水槽を見上げた。

「リベラ、調子よさそうね」

水槽の点検をしている研究員が、うなずいてユイにファイルを渡した。

「・・・・・・・・・脳の発育が進んでるのね、でもあまり進めると融合のときに、問題が起きないかしら?」

「それについては特に問題ないと思うよ」

「きゃ!」

いつの間か、ユイの後ろに立っていたシンジが突然声をかけたので、ユイは思わず手に持っていたファイルを落としてしまった。

シンジはそれを拾いながら、ユイに説明をはじめた。

「シャムシェルは頭が良いし、それに、本来ならこのくらいないと困るんだよ。ミサキみたいに目覚めが遅くなる」

シンジはファイルを渡すと、そのままミサキの水槽のチェックに移った。

ユイはあきれて、ダリアと目を合わせた。

シンジは今日、ずっとこんな感じなのだ。

エラが今日、ミサキが目覚めるという予測を打ち出したのだ。

『マスター、ミサキの意思が覚醒するまであと二時間ほどと思われます。それまでに休息をとっては、いかがですか?』

エラが一応、無駄とわかっていながら言ってみた。

実は、エラがこんなことを言うのはこれで五回目なのだ。

しかし毎回

「うーん、こっちのチェックもやっときたいんだ」

といって、まったく休憩をしようとしない。

ユイが先ほど、リツコの話を持ち出したのも、何か休憩のきっかけになれば、と思ってのことである。

(シスコンか?)

と、その場にいるものが思っても仕方がないだろう。

 

 

ぺっぺぺぺ〜〜〜〜♪

騒がしい研究室にチャイムの音が響きわたった。(なぜ毎回音が違うんだ?)

「っち、この忙しいときに!誰だ」

シンジがあからさまに舌打ちをし、近場の研究員をにらむ。

「・・・・・か、葛城一尉です」

にらまれた研究はあせって外のチェックをし、正確に報告をする。

シンジはユイを見ると、そのままベール(水槽を隠すための壁)をおろすように言った。

シンジと数人の研究員以外、ベールの外に出た。

プシュー

「シンチャンいる〜?」

入ってくると同時にミサトがシンジを探し始める。

「ミーちゃん、シンジは今休憩を取ってるから、ここにはいないわよ」

ユイが何食わぬ顔でうそをつく。

ユイはシンジから先ほど「出らん無いから、ごまかしといて」と目で合図されていたのだ。

「(ゲ、ユイさん)そうなんですか?リツコがなんか用があるって言ってたんですけど、いないんならしょうがないですね」

「リッちゃんが?」

ユイがリツコの名前に反応する。

(本格的に探りを入れ始めたのかしら?)

ユイはミサトに座るように言うと、研究員の一人にお茶を出すように言う。

「リッちゃん、何のようかしら?」

「さぁ、私はシンジ君を呼んでくるように頼まれただけですから」

ユイはミサトから何か、聞き出そうとしているが、ミサト自身本当に何も知らないのである。

しかし、ミサトの感はあなどれない、とユイは踏んでいるのでそのまま、たわいのない会話を始めながら、所々でリツコについてつっこんだ質問をする。

「そういえば、最近リッちゃんと会わないけど、元気にしてる?」

「そりゃあ、もう(元気というより、あれは異常って言うのよね。マヤちゃんもかわいそうに)」

「リッちゃんに、MAGIの調整だけしてると早くに老けるわよ、っていっておいてくれる?」

「はぁ・・・(そんなこといったら、実験台にされちゃうじゃない)」

「リッちゃん、今どんなことしてるのかしら?」

「エヴァの実験じゃないんですか?(あと、あやしげな個人的な実験?)」

ユイが少し核心を突く。

「なんか、うちに文句があるみたいなんだけど・・・・・ミーちゃん知らない?」

「さぁ?」

ミサトが一瞬目を泳がせたのを、ユイは見逃さなかった。

「まあ、うちもどんな研究をしてるのか公表してないし。第一課より研究費多いでしょ?それで、やっぱり、技術部長としては、何か言いたいことがあるのかしら?と思ってるんだけど・・・・・どう思う?」

ユイは逃がさないというような瞳で、ミサトを見つめる。

「・・・・・・・・・」

ミサトは何か思い当たることがあるようで、ユイの目を見つめ返すことが出来ずに、うつむいてしまった。

そのまま、沈黙が続いた。

「・・・・・・あの」

ミサトが沈黙に耐えられなくて口を開くが、それ以上続かなかった。

ユイの視線が先ほどよりも厳しくなっていたのだ。

研究室の空気が氷ついた。

 

「ふぅ」

ユイがため息をついたことで、空気が動き始めた。

「まぁいいでしょう。ミーちゃんを責めても仕方ないわね」

ミサトは明らかにほっとする。

「あ、あの。シンジ君もいないし、わたしこれで失礼します」

ミサトは言うが早いか、言い終わった時にはすでに研究室を出ていた。

 

「ユイ博士、このお土産どうします?」

研究員の一人が、入り口のところについている盗聴器を指した。

「そうねぇ」

盗聴器をはずすと、ユイはおもむろに

「リッちゃん、ゲンドウさんの事、追及されたくなかったら余計なことしちゃだめよ〜」

といって握りつぶした。

その顔は、ミサトと対峙していたときよりも恐かったと後々語られている。

 

 

『リッちゃん、ゲンドウさんの事、追求されたくなかったら余計なことしちゃだめよ〜・・・・ブチッ

ザーーーーーーーーーーーー』

一方、盗聴していたリツコとゲンドウは、ユイのその一言で、その後、三時間動けなかった。

「おろかだな」

冬月はそんな二人を頭を抱えながら見ていた。

 

 

 

ミサキの覚醒まで、後約一時間

「シンジ、ミーちゃん帰ったわよ」

「・・・・・・」

(だめだわ、意識がミサキちゃんにしかいってない)

 

 

 

ミサキの覚醒まで、約五分

「博士、ミサキがレム睡眠からの覚醒を始めました」

「体温安定してます」

「脳波、特に異常ありません」

次々におこなわれる報告の中、シンジは黙って水槽を見つめている。

「・・・・夢を見ているのかな?」

シンジは水槽の中のミサキに語りかけるようにつぶやいた。

「おまえは、僕を恨んでいる?」

シンジは目を閉じ、サキエルを回収したときのことを思い出す。

 

(サキエル、ごめん)

ATフィールドを展開して、サキエルを包み込んだ。

(こうするしかないんだ)

サキエルを包んでいるATフィールドは次第に縮んでいく。

(せめて、魂だけは無事に)

(キャ〜〜〜〜!!!!痛い、痛いよ)

シンジの心にサキエルの悲鳴が聞こえた。

それでもATフィールドはどんどん縮んでいった。

(兄さん、痛い。やめて・・・・)

(ごめん、これしか方法がないんだ。このまま魂だけを回収するしか、方法がないんだ)

シンジがさらに強くATフィールドをはる。

(兄さんの馬鹿、大っ嫌い!!)

サキエルがそういうとATフィールドは直径二センチ程になり、管制室から歓喜の声が聞こえた。

「これより帰還します」

シンジはそういうと、ATフィールドをエヴァの目を透して回収した。

(サキエル、必ず復活させるよ)

 

『・・・・・・ス・・ター、マスター』

「・・・ん?」

シンジは目を開けると、エラに呼ばれていたことにやっと気がついた。

「ああ、エラか・・・どうしたの?」

「・・・・ミサキが目覚めそうですと、さっきから言っているでしょう」

シンジにダリアが、あきれた顔で返した。

シンジはやっと状況を把握すると、改めてミサキを見た。

確かに、ミサキの表情に変化が見られた。

少しだるそうな、人が目覚めるときの表情に、似ている。

その場にいる全員が、それを静かに見つめている。

「・・・・・・(ぴく)」

ミサキのまぶたが少しずつ開かれていく。

息を呑んで見守る中、シンジだけは複雑な表情だった。

(どうか、僕が覚醒したときのように、苦しまないでくれ)

シンジは、自分がもう一度、この世に生を受けたときに、なんともいえない苦しみを味わったのを、思い出していた。

それは、悲しみのような、憎しみのような・・・・・そして、大きな孤独感。

しかし、それでいて、この上ない喜びも同時に感じていた。

『目覚めます』

ダイアが言うと同時に、ミサキの瞳がパッチリと開いた。

研究室の安堵という歓声が響いた。

 

水槽の中のミサキはきょろきょろとあたりを見回すと、泣きそうな顔をした。

「・・・・・サキエル」

シンジがそう呼ぶと、ミサキは再びあたりを見回す。

「兄さん?どこ?」

「・・・・・・!!不可視シールドを解除」

ダリアがその一言に、内側の不可視シールドを解除していないことに気がつき、慌てて解除命令を出した。

「・・・兄さん」

やっと姿の見えたシンジに、どこかほっとした表情を見せるミサキ。

「サキエル、そこから出てこられそう?」

ミサキは手や足を動かして力強くうなずいた。

「AH−3のLCL排出」

「水槽、開きます」

LCLが排除されると、すばやく水槽が二つに割れた。

研究員の一人がミサキに用意しておいた服(浴衣のようなもの)を着せる。

しかし、ミサキは早くシンジのもとにいきたくて、着せてもらいながらもシンジのほうに歩いていく。

「兄さん」

ミサキは着せてもらっている途中にもかかわらず、シンジに抱きついた。

着せていた研究員はあきれたように両手を上げてシンジを見た。

シンジはうなずくと、ミサキの体を離して服をちゃんと着せてやる。

「ちゃんと着ないと風邪を引くよ」

「・・・・・・・・・」

ミサキも今度はおとなしく着せてもらっている。

着せ終わると、シンジは改めてミサキを抱きしめた。

「サキエル、ごめん」

シンジはそう謝るとミサキの瞳を見つめた。

「?何で謝るの」

ミサキは首をかしげて聞き返した。

「・・・・・怒ってないの?」

「だからなにを?」

「僕が、サキエルを回収するときにひどくしただろ」

シンジがすまなさそうに言うとミサキは「あぁ」と納得した。

「怒ってないよ。確かに痛かったけど、兄さんは約束を守ってくれたもの」

ミサキはにっこりと笑ってシンジの頭をなでた。

「助けてくれるんでしょ?私たちを」

シンジは驚いた表情でミサキを見た。

「知ってるよ。兄さんが私たちを愛してくれてること」

姉さんほどではないけどね、と付け加えてウインクをする。

「何で・・・・・・」

シンジは信じられないといった顔でミサキを見つめた。

「・・・・・私たちも、戻ってきたのよ。姉さんはすべてを忘れているけど、私は覚えてる。

ほかのみんなはどうかわかんないけどね・・・・・・・・って、なに泣いてるの?兄さん」

シンジは慌てて涙をぬぐった。ぬぐって、あらためて自分が泣いていることに気がついた。

「あ、はは。変だな、とまんないや」

「ふふ、姉さんのおかぶとっちゃったかな?」

微笑み合う二人、はたから見ればほほえましい光景であった。

が、しかし

「シンジずるい!私だってミサキちゃんと話したいのに」

『マスター、シスコン』

「マスターだけが復活させたわけじゃないのに」

「博士・・・・・・あやしいですよ」

などなど、ここの研究室にいるほかのメンバーは、面白くなさそうにその光景を見ていた。

しかし、出来あがっている二人の世界を邪魔することが出来ずに、やはり遠くから愚痴りながら眺めていた。

 

「えーと、サキエル。これからのことなんだけど」

シンジが思い出したように言うと、ここぞとばかりにユイたちが会話の中に入ってきた。

「そうよ、復活させたのは良いけど、これからどうするの?」

「ミサキの戸籍など、いろいろ用意しなくては」

『住居はどうします?』

「体は大丈夫?痛いところはない?」

はっきり言ってもみくちゃ状態である。

「え、貴方達誰?ミサキって誰?」

ミサキは戸惑ってシンジを探すが、シンジはユイに追いやられて遠くで苦笑している。

 

十分後

いったん収拾がついたところで、エラがミサキに説明および、今後のことを話し始めた。

『まず、貴方の名前ですが、「サキエル」ではさすがに各方面に問題が起きますので、ミサキという名前で私たちは呼んでいます。ここはマスター、シンジ様の研究室です。貴方はマスターに魂を回収され、今までここで眠っていました。

今後のことですが、ユイ博士の養女というかたちでよろしいでしょうか。貴方が特に希望する名前がないのなら、このまま、ミサキの名前で登録します。

住居ですが、マスターのマンションに幾分かの(実際はシンジの家以外全部)空きがありますので、そこの一室に住んでいただきます。

何か質問は?』

一気に言われ、目をぱちくりさせているミサキの姿を、肯定ととって、エラは勝手にMAGIにアクセスして、手続きを進めていく。

「・・・・・・・・」

あ然としているユイたちの横で、ユイは自分のうちにミサキを連れて行けないので、すねていた。

「家に来ても良いのに」

 

こうして、ミサキの今後のことが決定した。

 

 

 

 

「シンジ君」

「レイ、ミサキが目覚めたんだ」

ミサキが目覚めてから二時間後、学校帰りのレイが研究室に顔を出した。

レイはシンジの横に座るとユイがつれてきたミサキを見た。

「目、紅い」

レイはミサキの目が自分と紅いことに気付き、シンジのほうを見る。

シンジは笑っている。

その笑顔はどこか今までと違っていた。

レイはそのことを敏感に感じ取る。

しかし、レイはいやなことじゃないと感じそのままシンジを見つめつづけた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・ゴホン」

ダリアがそのままシンジとレイの間に手を置く。

「毎回毎回いいい〜〜〜〜〜〜〜!!!いいかげんにしなさい」

「・・・・・邪魔」

レイとダリアがまたもやにらみ合う。

睨み合いは周囲を巻き込んでいく

研究員は調子の悪くなり始めた計器に引きつりながらも二人を止めることが出来ない

しかし、ここのままでいくと大変なことになるのは全員が経験している

だが・・・・・・・・・・女神は微笑んではくれなかった

むしろ、最悪の事態を招いてくれた

つまり・・・・・・・・・・・・・・

『レイ、ダリアいいかげんにしなさい!』

エラがきれたのだ

キ〜〜〜〜ン・・・・バキバキ、ビシビシ・・・・・・・

「は、博士、スピーカーが壊れました」

「キャー、画面に亀裂が!」

「計器が壊れた〜〜〜」

火事こそ起こっていないが、機械類がほぼ全滅している。

「・・・・・エラ」

『・・め・・・んな・さい』

壊れたスピーカーから細々とエラの声が聞こえてきた。

(エラの電源も落とせるようにしとかないと・・・・・)

シンジは深〜いため息をついてそんなことを考え始めた。

「・・・・シンジ君、ダリア、壊れた」

レイがボソッという。

「げ!」

シンジが後ろを振り向くとダリアがレイとにらみ合った格好のまま止まっていた。

「・・・・・兄さん、耳痛い」

ミサキが耳を抑えてシンジに抗議する。

「僕は頭が痛い」

シンジはそのまま、研究員に、機械類の修復をすることを最優先に、との命令を出すと自分もダリアの修復に入る。

 

取り残されたレイ、ユイ、ミサキは手持ち無沙汰になった。

「え〜と、リリス姉さんこんにちは。サキエルことミサキです」

「!!!!!」

レイはリリスと呼ばれたことに驚きを隠せないでいた。

「あ、・・・・」

ミサキは思わず口に手を当てる。

「ミサキちゃん」

ユイが慌ててミサキを後ろに隠す。

「・・・・・・・なぜ?」

「「・・・・・・」」

「シンジ君も知ってるの?」

レイは泣きそうになる。

(いや・・・・・拒絶されるのは・・・・い・・・や・・・・・・なぜ、私の事を知っているの?

碇指令?ユイさんが言ったの?・・・・・・・ほかの私はもう居ない・・・・・・ユイさんがLCLに還してくれた。

シンジ・・・・・く・・・・ん・・・・・・拒絶・・・・し・・・ないで・・・・・)

レイはそのまま倒れる。

「姉さん」

「レイちゃん」

ユイとミサキがレイを支えようとして失敗する。

(倒れる!)

「「「・・・・・・あ」」」

二人がそう思って目を閉じたとき、シンジがレイの体をATフィールドで包んだ。

シンジはレイにいったん目をやると再びダリアの修理を続ける。

「レイちゃん、大丈夫?」

「姉さん」

「今の・・・・・」

レイはシンジのほうを呆然と見つめる。

ユイとミサキは顔を合わせて、困ったようにシンジを見つめる。

「・・・・・・・・シンジ」

ユイがシンジに声をかける。

「・・・・・・・」

シンジはダリアの修理を続けている。

「・・・・・よし」

シンジがダリアの耳の後ろを閉じる。

少しのタイムラグの後、ダリアの目の焦点が合う。

「・・・・・・・マスター?・・・・・あ、エラが」

ダリアはいまいち状況を把握していない。

「ダリア、エラの音波にやられたんだよ。修理は終わったけど、大丈夫ならあっちの修理手伝ってくれる」

「あ、はい」

ダリアはまだボーとして機械類の修理を手伝いにいく。

「・・・・・さて」

シンジはレイの所にやってくる。

「レイ、大丈夫だった?」

シンジはまだ座っているレイに手を貸して立たせる。(ちなみに片手は腰)

まだふらつくレイの手を、そのまま引き寄せて抱きしめた。

「僕が信じられない?」

レイの耳元にささやく。

「リリス・・・・それを知らないと思った?言ったよね、僕はレイが好きなんだって。

そして、どんなことがあってもレイを愛してるって」

レイは泣きながらシンジにしがみついた。

「シンジ君・・・・シンジ君・・・・」

「ごめんね、黙ってて。レイ、僕はレイを知ってるんだ。この世界に生まれる前から。

僕は一度世界の終わりを見てるんだ。でもそれの想い出がないんだ。

だから不安だった。自分を知らないのに、レイに説明出るのかって・・・・・・」

シンジは何かを思い出したのか、遠いところをみるような目をする。

「でも、ミサキが教えてくれたよ。

・・・・・・・レイ、君も戻ってきてるんだ」

レイは顔をあげてシンジを見る。

シンジはレイを見ると微笑んで

「だから、僕達は一緒なんだよ」

「・・・・・・はい」

レイはうなずいてシンジと見つめあった。

「シンジ君」

「レイ・・・・・・・・」

そのまま唇を合わせて、いつもより(少しだけ)深いキスをする。

 

「・・・・ユイさん、兄さんたちっていつもこうなんですか?」

「・・・・・・・・まあ、いつもよりいちゃついてる気がするけど。こんな感じよね」

ユイとミサキはあきれたようにため息をついた。

 

「ねぇ、ミサキちゃん」

「はい?」

ユイが何か思い出してミサキのほうを見る。

「確か・・・時空をさかのぼるには何かリスクがいるって言ってたわよね」

「はい、力が足りないほど大きいリスクが必要ですね。兄さんがさかのぼるには思い出を、姉さんの時にははっきり言って全部です。まっさらな魂になって戻りました。それがなにか?」

「・・・・・・・ミサキちゃんは何を代償にしたの?」

「・・・・・・・・あ」

ミサキは何も言えなくなる。

あまり思い出したくないらしい。

「・・・・・・・・何を代償にしたの?」

「し、自然の力ですよ・・・・は・・・・・はは」

力なく笑うミサキ

(い、いえない・・・・・兄弟げんかで出来たエネルギーで、代償が必要なかっただなんて・・・・・)

・・・・・・・とんでもない兄弟げんかだったようだ。

 

 

 

「・・・・・あの二人、いつまであの調子なのかしら」

ユイがため息をついて視線をシンジたちに戻して再びため息をつく。

(まったく、親の前で・・・・・)

しかし、ユイの顔は穏やかだった。

(でも、これでいいのかもしれないわね。

幸せになりなさい、幸せだと思うことの出来なかった分。

一度、すべての不幸を味わった分。

幸せになりなさい・・・・・・私のかわいい子供達)

 

 

「レイ、愛してるよ」

「シンジ君、うれしい」

まだいちゃついている二人・・・・・・(いいかげんにしてほしい(;;))

 

 

「マスター一応終わりました・・・って何し・・・・・」

修理の終わったダリアが、シンジたちの甘い雰囲気に気がつき引き離そうと近づくが、シンジの顔を見てうごきを止めてしまった。

(・・・・・・・・・・・・・・・まったく、あんな顔して・・・・・・・・今日は見逃しましょうか・・・・・・マスター本当に幸せそうな顔してる・・・・・・・・やっぱりその人しか貴方は見ていないんですね・・・・・・ふふ、なんだか複雑な感情ね。うれしくもあり、悲しくもあり・・・か。ねぇ、エラ)

『はい』

(私たちの居場所、なくなっちゃうかな?)

『・・・・・・それはありません、マスターは私たちに命をくれました。それに、私たちにしか出来ないことは、たくさんありますから』

(そうね。とりあえず、レイに料理を教えないと)

『はい』

シンジを今まで見つめてきた二人は、なにやら複雑な心境のようだ。

しかし、シンジのそばにいた時間が何よりも長い二人、シンジのことをよく理解しているのだ。

ダリアはユイと同じように穏やかに笑った。

 

 

「シンジ君、好き」

「ぼくもだよ」

・・・・・・・・・・はぁ、もう勝手にしてくれ。

 

(((((((帰りたい)))))))

誰しもが思っていた。

「私のうちに案内してくれるんじゃなの〜〜〜〜〜?」

ミサキがさすがに叫ぶが、まったく聞こえていない二人。

「あきらめましょう」

ダリアがミサキの肩に手を置いてため息をついた。

 

 

 

 

ピロピロピロ〜〜〜〜〜〜〜♪

午後十時をまわったあたりで研究室のチャイムがなった。

(((((ナイス!)))))

「シンジ、お客様よ!」

ユイがここぞとばかりにシンジ達の間に入る。

「そうですよ、ほらほら」

続いてダリアがシンジを入り口のところまで押していく。

「姉さん、帰りましょう」

ミサキはレイのスカートのすそを引っ張って訴えた。

「あ・・・・うん」

シンジはいまいち現実の世界に戻ってきていないようだ。

「・・・・・・・・」

レイにいたってはまだトリップしている。

研究員の一人がドアを開けた。

そこに立っていたのは・・・・・・

「ユイ、帰ろう(二人の愛の巣へ!)」

ゲンドウだった。

その後、シンジがゲンドウをこてんぱんに叩きのめしたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

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