第1話  手紙

 

「マスター、碇 ゲンドウからの手紙です」

そういって手紙を運んでくる女性はそうは見えないがアンドロイドである

つややかな黒髪を一つにまとめている、印象的な切れ長の目は深い緑色だ。

見た目は二十歳ぐらいだろう。

「ご苦労様、ダリア。ところでゲンドウからだって?」

いす越しに振り返ったシンジは手紙を受け取ると宛名を見て面白そうに笑った。

「・・・・」

「・・マスターどうなさいました?」

ダリアがそうたずねるとシンジは無言で手紙を差し出した。

手紙には『来い   ゲンドウ』とだけ書かれていた。

「・・・いい度胸だよね」

「・・・・ええ(--メ)」

二人はそういうとそれぞれの思想にふけっていった。

(シンジの場合

まったく、そろそろ呼び出してくるだろうとは予想してたけど、これはないよな。普通だったら行かないぞ。しかしここで行かなくて人類が滅亡しても困るし、仕方ない、母さんに会いに行くと思えばまあいいか)

である。なぜシンジにそんなことがわかるのかということはこの際おいておこう。

(ダリアの場合

っち、たかがネルフの指令の分際でマスターを呼び出すとはいい度胸してるわ。・・・・フフ、でもマスターのこと何も知らないのね、これからが見ものだわ)

てな、感じのことである。

「エラ、第3使徒がくるまであとどのくらいある?」

『シナリオ通りであればあと2週間後です』

エラと呼ばれたスーパーコンピューターはあっさりとした答えを出した。

「・・・・」

シンジは少しの思案の後エラに電話をつなぐように指示した。

「・・・碇です。・・・・ええ、お久しぶりですね、・・・・・もちろんですよ。」

電話の相手と突然世間話をはじめてしまったシンジに対して、忠実なアンドロイドは温かいお茶を要れて会話が終わるのを待っている。いっぽう電話をつなぎ終わったエラは、何か作業をはじめた。

「・・そうです・・・ええ、お願いします・・・はい、ではまた」

電話の受話器を置くとシンジは満足げな顔をしてダリアの入れたお茶を飲んだ。

「・・・国連事務総長と何をお話に?」

「ああ、ちょっとしたお願いをね」

『国連軍に横槍を入れる権限をもらってたんですよ』

シンジがにっこりとエラの言葉にうなずく。

「面白そうだろ。ゲンドウの度肝を向いてやろうと思ってね」

シンジのその笑顔からシンジのたくらんでいることが大体想像できたダリアは、コホンとせきをしてから話題をわざとらしく変えた。

「・・・ところで、わたしは付いていってよろしいのですか?」

「・・・ああ、もちろん(途中までだけど・・・・)」

ダリアはその言葉にうれしそうに微笑むとお茶を入れなおした。

「エラ、ネルフのデータは?」

『裏、表ともに検索済みました』

出てきたデータをシンジはつまらなそうに眺めると

「まったく、何も知らないって言うのも哀れだよ」

ため息をつくとシンジは部屋を出た。

しばらくして戻ってくるとシンジはその手に一枚の封筒を持っていた。

「ダリア、これをゲンドウ宛てに出しておいて」

「はい」

シンジの書いた内容はというと、ようするにネルフとの契約内容である。

ダリアは一礼をすると部屋を出て行った。

『マスター、ダリアに彼女のことを言わなくていいのですか?』

「う〜ん、そうだねいきながらでも話しておくよ。今言うと荒れるだろし・・・かといって言わないと後が怖いしね」

『確かに、ダリアは怒りすぎるとショートしてしまいますから』

「ショートの前にここがなくなるよ」

シンジは前にダリアが侵入者に対して激しく怒り、研究所をひとつつぶしたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

あれからちょうど二週間後

 

使徒殲滅を目的に造られた要塞都市『第三新東京市』に突如巨大な巨人が現れた。

 

巨人に対して無意味な攻撃を繰り返す様をシンジたちはヘリの中から見ていた。

「無様な」

そうつぶやくと操縦してるダリアに目的地ネルフに向かうように指示した。

 

「目標健在。なおも第三新東京市に向けて進行中」

「航空隊の戦力では足止めできません」

ネルフ内の発令所ではオペレーターたちの声が飛び交っている。

「やはりATフィールドか」

「ああ、使徒に対して通常兵器では役に立たんよ」

その様子を見ながらネルフ総司令(碇ゲンドウ)と副指令(冬月コウゾウ)がつぶやく。

 

「・・・ああ、N2地雷の使用を許可する。足止め程度にはなるだろう」

シンジがそういって受話器をおくと使徒の周りから戦闘機が離れていった。

「マスター、N2地雷の使用を許可なさったのですか?」

ダリアはおどろいた様子もなくたずねた。

「まあ、ぼく達が行くまでの足止め程度にはなるからね」

 

「・・・予定通りN2地雷を使用する」

モニターから戦闘機が見えなくなっていく。

「投下!」

爆破の衝撃でモニターの映像が途切れる。

「これで足止めは出来たな」

「ああ、ATフィールドとやらのせいでこの程度のことしかできんとは・・・」

「まあ、後のことはネルフ・・・いや、博士に任そう」

国連の人間の会話にゲンドウと冬月が驚く、まさかATフィールドの存在を知っているとは思わなかった。

「爆心地にエネルギー反応」

「映像回復します」

モニターに使徒の姿が映し出された。

 

そのころ

「サードチルドレンはどこよー」

シンジたちがヘリで向かっているとは知らないネルフ作戦部長が絶叫していた。

 

ため息をついていたところに電話がかかってきた。

「・・・・了解です。それでは・・・・・」

「・・・お着きになったか」

「ああ」

「今から本作戦の指揮権は君に移った。お手並み拝見といこう」

「了解です」

ゲンドウがまってましたと答えた。(表は無感動に)

しかしせきを立たない軍人に対して言葉をかけようかと思ったが隣の副指令に先を越された。

「いつまでいるのかね?」

「・・・我々がいてはたおせませんか?」

「いや」

今度こそゲンドウが答えた。

「では拝見しててもよろしいでしょう」

「ふっ、問題な「サードチルドレン到着しました」」

ゲンドウがきめ台詞を言い終わる前にオペレーターの声がかぶる。

「・・・冬月、後は頼む(しくしく)」

ゲンドウはそういうと、管制室から降りていった。

「さ、三年ぶりの対面か(哀れな)」

 

「・・・・(--メ)」

「ダリア、機嫌直してよ」

ケージへ向かう途中のシンジたちの会話である。

「・・・・」

「だから、言わなかったのは悪かったってば。でも言ったらダリアここまで来てくれないだろ?」

シンジは後ろ歩きの状態でご機嫌斜めのダリアの説得に必死なのである。

なぜダリアの機嫌が悪くなったのかというと、ぶっちゃけたはなし今回の戦闘が終わったら帰るように言われたのである。

まあ、それにいたるまでいろいろあるのだがここではまだ伏せておこう。

「それにしても、ここで言うなんてひどいじゃないですか!」

「だから・・・」

そんな会話が繰り返されているうちにケージについてしまった。

「サ、サードチルドレン??」

金髪の女性が驚いたように声をあげる。

「あ、ダリアこの続きは後でね。はじめましてお姉さん」

シンジはこれ幸いと話を切ると金髪の女性と向かい合った。

「わたしは赤木リツコよ。リツコでいいわ」

リツコは「お姉さん」の一言で機嫌をよくしたのかやさしい口調で話しはじめる。

「ところで迎えのものはどうしたの?」

「迎え?僕ヘリできたんですけど・・・」

「(このこシンジ君よね、何でヘリでこれるのかしら?)まあいいわ、こっちに来て、見せたいものがあるの」

「はい」

そういってついていくと目の前に巨大な紫の鬼が姿をあらわした。

「人造人間、エヴァンゲリオン初号機よ」

「母さん久しぶり」

ゴガン!

リツコがギョッとしてシンジを振り返るのと同時に上のほうで派手な音がした。

音に驚き今度は上を見上げる。

「し、指令・・・」

そこには今か今かと出番を待っていたゲンドウの哀れな姿があった。

「あ、父さんも久しぶり。それから、おまえ達ご苦労だった、下がっていいぞ」

シンジは一応ゲンドウに挨拶をするとその後ろにいる先ほどの軍人達に言った。

「碇博士ご苦労様です。では我々はこれで失礼します」

敬礼すると軍人達はそそくさと帰っていった。その様子にリツコは呆然と立ち尽くしている、いやリツコだけではない、そこにいた全員が作業を止めて放心している。

(なんなのこのこ、本当にサードチルドレンなの?)

その場にいたネルフ職員を代表してリツコがいまだに引きつっている顔のままシンジに事情の説明を要求した。

「ああ、ぼくは国連作戦部の特別顧問をバイトでやってるんですよ」

さらっとたいしたことではないようにシンジが答えた。

「「「「「「「「「「・・・は?」」」」」」」」」」

「階級は一応中将ですから。・・・・ほかに質問は?」

リツコがさらに突っ込もうとしたがちょうどそのときケージが大きくゆれた。

「くっ、まだ聞きたいことがあるけど仕方ないわ。シンジ君エヴァに乗って」

「出撃(やった、わたしはやったぞユイ)」

衝撃で復活したのかゲンドウがお決まりの文句を言う。

「はーい。ところで父さん、例の条件飲んでくれるよね」

「問題ない。乗るなら早くしろ、出なければ帰れ(しまった忘れてた)」

ゲンドウは先日シンジから送られてきた手紙の内容を思い出し冷や汗を流した。

「じゃあ、リツコさんあんまり必要ないけど一応説明をお願いします」

 

 

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