たとえこの身が引き裂かれても

 

 

 

♪君が僕の手を引いて 進んだ道に終わりがあっても
 君がくれたそのぬくもりだけが 僕の心を潤していく
 だからどうか苦しまないで だからどうか泣かないで
 愛しい君の泣き顔は 綺麗だけど苦しいから
 だからどうか泣き止んで♪

 

 

ピアノ室にシエラの声がしみこんでいく。

エドワルドが始めて自分の為に作った曲。

朗々と歌い上げる。

今、その声を聞くのは彼女を見守る悪魔だけ。

 

 

♪終わりへ向かって進む道でも 君がいる
 それだけで僕は 前を見て進むことが出来るんだ
 だからどうか僕を見て だからどうか離さないで
 その目が僕から離れたら きっと僕は光に焼き尽くされる
 だから この手を離さないでいて♪

 

 

歌を捧げられて、シエラは歌い上げる。

エドワルドの為に、エドワルドの望むままに歌い続ける。

歌姫と呼ばれても、なんの喜びも感じない。

だって自分はエドワルドのために歌っているのだから。

エドワルドはシエラを望んだ、だからシエラはエドワルドの手を握り返したのだ。

 

 

♪もし君が望むなら 最期まで共にいこう
 僕がたった一つ望むのは
 君が僕の手を離さないでいてくれること
 もし君が望むなら 僕はすべてを忘れよう
 僕が君に出来るのは
 君を生かして殺すことだけだから♪

 

 

悪魔はシエラに望まない。

結末の約束をくれたけども、悪魔はシエラに望まない。

エドワルドの為に歌い続けて、そう遠くない未来に死ぬとシエラは確信している。

それが自分の決めた約束だから。

 

「・・・ミハエル、歌えないわ」

冷たい口付けに困ったように眉を寄せる。

どうして自分はこの悪魔にされることを拒否できないのだろう。

どんなに理不尽でも、どんなに身勝手でも、こうして少し困ったようにため息をつくしか出来ない。

そして、それはエドワルドに対しても同じ。

シエラは時々恐くなる。

もしどちらかを失えば自分はその場で狂いカーティスに死を願うだろう。

そして、もっと恐れているのは問われること。

「何で泣いてるの?」

「どうしてかしら」

「自分で泣いてるのにわからないの?君って本当に愚かだね」

「そうね・・・愚かだわ」

ミハエルも、エドワルドも愛してる。

伝えられない言葉と、請われる言葉。

一人にいえない分を補うようにもう一人に愛を囁く。

でも、シエラにとってはどちらも同じように愛していて、どちらもどうしようもないほど必要。

生きる意思をエドワルドに与えられて、悪魔に抱かれることで癒される。

自分はきっとゆがんでいるのだとシエラは自覚する。

それでも、それでも どちらの手も離すことが出来ない。

魂がミハエルをつなぎとめ、心がエドワルドをつなぎとめる。

ああ、なんて自分は浅ましい。

 

 

 

 

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