その兄妹、○○○につき
―リンゴ〜ン
その日の朝、バルソーラ家のチャイムが鳴らされた。
だからといって、カーティスとシエラは立ち上がることなく優雅に朝食をとり続ける。
―リンゴ〜ンリンゴ〜ン
再びチャイムが鳴らされた、だからといって(以下略)。
―リンゴ〜ンリンゴンリンゴンリンゴン
再びチャイムが鳴らされた、だからといって(以下略)。
―りんgゴグシャァツ
チャイムと、何かがつぶされるような音がしたが、カーティスとシエラは優雅に(以下略)
「あのさ・・・ちょっとは出るとかしない?」
「あら、オランヌずいぶんいい格好ね」
ぼろぼろの格好のオランヌにシエラは鼻で笑う。
「まったく、朝っぱらからだらしないですね」
「いや、玄関のチャイム鳴らしてたら突然岩が落ちてきたんだよね」
「あら、危ないわね」
しらっとした顔で優雅にお茶を飲むシエラとカーティスにオランヌは脱力したように壁に手をつく。
「別にさ〜、いいんだけどね。朝帰りしたのも、家にかぎ忘れたのも俺だし・・・。
でもさ〜もうちょっと家主に対する労りとかないわけ?」「「ないわ(ですね)」」
「ひどい・・・」
即答する兄妹にこれまた即答するオランヌ。
うなだれるオランヌを無視してシエラは席を立つとかばんを持って裏口にまわる。
「あ、玄関片付けておいてよね」
「え〜」
もはや使用不可能となった玄関を修繕するのはもちろんオランヌしかいない。
この兄妹なら修繕業者の一つや二つ簡単に雇えるが絶対にしないだろう。
あきらめて珈琲を自分で入れて飲んで、なにか食べようと冷蔵庫を開けるとそこには手作りらしきケーキとそれなりにご馳走と呼べる食事がごちゃまぜに一つの皿に盛られていた。
「えーっと、なに?これ」
行ったであろうシエラがこの場にすでにいない以上、もしかしたら知っているかもしれないカーティスにオランヌはだめもとで尋ねる。
そんなオランヌをちらっと見てからカーティスは読みかけの新聞を視界をさえぎるように立てて読みすすめていく。
あきらかに何か知っているがいう気がなさそうだと肩を落として、オランヌはパンと卵を取り出してキッチンに立つ。
しばらくしてそれなりにいい匂いがダイニングに広がり、それなりにおいしそうな朝食をセッティングしてオランヌが食べ始める。
カチャカチャと、オランヌの食事の音だけが響くダイニング。
珈琲を2杯飲んで朝食を食べ終えて満足したのか、オランヌはテレビのスイッチを入れた。
そこに映ったのは夕べの自分の姿。
とある研究が結構な賞を取った映像だ。
受賞自体は前からわかっていたことだし、昨日はそれのせいで遅くなるともいった・・・はずだ。
オランヌはこの可愛げの無い子供たちに盛大にため息をつきたくなった。
「あ〜あ、マイセンは祝ってくれたのになぁ」
わざとらしくいってもカーティスは表情筋の一つも動かさない。
「うちの子供たちはどうしてこうさ〜」
ぐちぐちといい始めるオランヌに嫌気がさしたのかカーティスは立ち上がってダイニングを出て行く。
と、ドアのところで少し立ち止まってオランヌを振り返る。
「アレはシエラがそれなりに張り切って作ってたみたいですよ。
まぁ、ラップやら一緒くたに盛ったりでだいぶ形は損なわれてますけど」「え?・・・・・・ええ?!」
「ずっと敬えだの、がんばっただの、労われだのいってた誰かさんにそれなりにお祝いしたかったみたいですね」
「ええ〜〜〜!」
「ああそれと、全部片付けて置いてくださいね。
これで帰っていたときにそのままだったらまたへこんでうっとおしいんですから」「えええええええ?!」
言うだけ言ってドアを閉めるとカーティスも裏口から出て行く。
残されたオランヌは喜んでいいのか、今現在おなかがいっぱいなのでどうすべきか真剣に悩んでいる。
ちなみに、さっき見たケーキはどう見ても生クリームが使われていて早目に食べないと味は落ちるだろう。
「うわっなに? もしかしてあの岩って八つ当たり?」
推測するに、せっかく準備したにもかかわらず戻らないオランヌにひそかにショックを受けたシエラを見て朝帰りだろうと踏んだカーティスが仕掛けたものだろうか?
まぁ、カーティスに聞けば「うっとおしいのを見せ付けられて面倒なんです」とでも答えそうだが。
「いや、ないって」
シエラが祝ってくれたのも、カーティスが落ち込んだシエラの変わりに報復したのもありえないことだ。
普段の彼らからかけ離れすぎている。
「ないない・・・ないよなぁ」
もしかしたら、今日は竜巻でも発生するかもしれない、そんなことを考えながらオランヌは冷蔵庫から大皿をとりだしラップをはがし始めるのであった。
「・・・・・・オランヌ」
「な、なにかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・別になんでもないわ」
「あはははは、そう」
明らかに落ち込んでいるシエラにオランヌは背中に大量の冷や汗を流す。
シエラが先ほど見つけてしまったのは、食べられなかった食事。
厳重に、厳重にビニールを何重にもしてゴミ箱にいれたはずだが、それが余計にまずかった。
不審に思ったシエラがそのゴミ袋を持ち上げて中を確認してしまったのだ。
明らかにシエラは落ち込んでいるが、オランヌは今背後から漂う冷気のせいで動けない。
(えー、まじ?まじでシエラの心配?ないって、ないない!)
まさかカーティスがシスコンなんてありえない!とオランヌは必死に否定するが、今現在落ち込むシエラの様子を見てカーティスの周囲が絶対零度に達しようとしているのは事実だった。
「じゃ、じゃぁ俺まだ研究があるからっ!」
オランヌはそういってダイニングを逃げ出した。
「そういえば、風邪の具合はどう?」
「そうですね、まだ少し頭が痛いですね」
「カーティスが風邪なんて明日は雪ね」
「はぁ、熱もあるみたいですし今日はもう寝ます」
「おやすみ」
一人ダイニングに取り残されたシエラはあっためたミルクを飲みながら一息つく。
(それにしても、カーティスが風邪引くのなんて何年振りかしら?兄さんって熱出すと性格かわるのよね)
そんなことを考えるシエラであったが、自分の額に手を当ててみると自分も熱を出していることを自覚する。
(あら、私もうつったかしら? やだっ喉がやられたら大変っすぐに薬飲んで寝なくちゃっ)
シエラは気づいていない。
熱を出すと性格がかわるのは、自分も同じだということに。
そして、実は昨日からずっと発熱していたことに。
その兄妹、発熱中につき。。。
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