混ぜるな危険

 

 

 

「ミハエル」

音楽室に突然現れたミハエルにシエラは抱きしめられる。

額に、頬に、瞼に、唇に、首に、胸元に・・・、落とされる唇の冷たさは相変わらずで、触れるたびにかすかに震える。

「ひさしぶりね」

冷たい頬に触れてシエラがいえばミハエルは「そうだっけ?」とたずね返す。

いつものことなのでシエラも「そうよ」とだけいってされるがままに抱きしめられる。

髪を解かれて、何度も梳かれる。

その感覚の心地よさにうっとりと目を閉じていると急に音楽室のドアが開いた。

「・・・へえ」

この第5音楽室がシエラ専用の音楽室も同然となっている今、こうして突然ノックもなしに入ってくるのはこのミハエルかエドワルドだけ。

シエラは聞こえた声に身をすくめる。

別に何かやましいことをしていたわけではない。

それでも、どこか後ろめたい気持ちはあるのだ。

「エドワルド=ウィンフリー、なんか用なわけ?」

「君に用があるわけじゃないよ、僕が用があるのはシエラにだ」

「ふーん」

だからといって、ミハエルがシエラを離すことは無い。

「シエラ」

「は、はいっ」

びくりと身を硬くして返事をするも、やはりミハエルはシエラを離さない。

「新しい歌ができたから見せようと思ったんだけど・・・お邪魔だったかな?」

「そっそんなことは・・・」

おろおろとミハエルの腕から抜け出そうともがくがまったく腕の力が緩むことは無い。

「歌?そういえばマイセンが君の歌声がいいっていってたよ。マイセンがそういうんだからいいんだよね。歌ってみてよ」

「え、えーっと・・・」

ねえねぇとミハエルは駄々をこねるようにシエラの顔のすぐ傍でいう。

室温がどんどん下がっていく気がするのは絶対気のせいではないはずだ・・・と、シエラは冷や汗をかきながらエドワルドの気配をうかがう。

「えーっと・・・その、これは」

「君が浮気してるなんて、ショックだよ」

「ええ?!」

「耳元で叫ばないでよ、うるさいなあ」

いつの間に来たのか後ろから胸の下に腕を回されて拘束を緩めたミハエルからエドワルドの胸元に引き寄せられる。

今度はミハエルの機嫌が急降下する番だ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ミハエルとエドワルドの間に火花が散ったような気がした。

悪魔のミハエルがその気になればエドワルドなど一瞬で殺されてしまう。

「ミハエル!今度マイセンがうちに来たときに時間があれば歌うって伝えて」

「なんで僕がそんなこと伝えないといけないのさ」

「私の歌を気に入ってくれてるみたいだし、きっとマイセンは喜ぶわよ」

「マイセンが喜ぶの?ふーん、なら伝えてきてあげる」

「すぐ伝えたほうが効果があるわ」

「そうなんだ、じゃぁすぐいくよ」

「ちゃんと、ドアから出て行ってね」

姿を消していこうとしたミハエルにシエラはあわてていってミハエルを追い出すのに成功する。

一息ついたところで今度は先ほどからきつく胸元に腕を回しているエドワルドのご機嫌取りだ。

ミハエルを誘導することは簡単だが、エドワルドはそうもいかない。

シエラがどうしたものか考えていると手があごに当てられて無理やり向きを変えられる。

「い゛っ・・・」

ぐぎっと音がした。

「シエラ、なにかいうことはあるかい?」

にっこりと微笑まれてキスできそうなほど唇を寄せられて問われる。

恐い、非常に恐い。

シエラは真っ青になってエドワルドを見つめ返す。

「今のはっ・・・ん」

「僕の腕の中にいるのに他の男の名前を言うなんてひどいよね、しかも二人も・・・ん、・・・シエラ」

そういいながら角度を変えてエドワルドはシエラの口内を貪るように口付ける。

ミハエルとは違う熱い口付けにシエラの手足から次第に力が抜けていく。

「ん・・・エドワルド」

「そうだよ、君にキスしてるのは僕だ」

「ぁっ・・・っん」

いつの間にか備え付けのソファに押し倒されている。

「え?」

「浮気はよくないよね」

「ちがっあっ」

胸のリボンを解かれて目隠しをされる。

「何、エドワルド?」

「おしおきだよ」

耳に寄せられた息の熱さにカッと熱が走る。

見えないせいでいつもより触れられていく箇所が敏感に熱を帯びていく。

リボンをはずそうと手を動かせば今度はエドワルドのネクタイで手をソファの肘掛に固定されてしまう。

かといって、足でエドワルドをけることも出来ずにシエラはあきらめて力を抜く。

こうなればエドワルドの気が済むまでつきあうしかない。

「ねえ、僕の名前以外呼んだら・・・わかってるよね?シエラ」

「エドワルド・・・」

「いい子だね、シエラ」

「んっ・・あっ・・・っゃ、あ」

心の中でシエラはミハエルに悪態をつく。

会いに来てくれるのはうれしいが、なんてタイミングの悪い・・・。

今まで何度こういうことがあっただろう、と数えてみる。

そしてその数の多さに軽くめまいがした。

今度ミハエルにあったら学校に会いに来ないようにきつくいわなければと思う反面、そうしたら会いに来てはくれないような気がして複雑な心境に陥る。

ともあれ、もうこの二人が会わないように努力しようと心に誓うシエラであった。

 

 

 

 

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