バルソーラさん家の朝の風景

 

 

 

「おはよう、二人とも」

「おはよう、オランヌ」

「おはようございます」

朝、いつもどおりの、どこにでもありそうな穏やかな朝の光景。

食卓にはカーティスがすでに着席して勝手に朝食を食べている。

彼らを引き取って数年、この光景もすっかりおなじみになった。

「おかわりは?」

「お茶だけで良いです」

「あっそ」

「シエラ、俺にもお茶」

「・・・・・・入ってるじゃない」

「冷めちゃってるんだよ、熱いのが飲みたいんだ」

「はいはい」

それこそ火傷しそうなほどに熱い緑茶を出されて思わず顔が引きつる。

ここで飲まなければおそらくこの兄妹の無言の嘲笑が突き刺さることだろう。

「いったい何の恨みがあって・・・」

ちびちびと飲みながらぶつぶつというオランヌを無視してシエラは適温のお茶に口をつける。

「シエラ」

「何?」

「少し前に客が来ていました、ぶぶ漬けでも出してあげてください」

「・・・だ、そうよオランヌ」

「ええ〜。俺?」

そういって二人を見るもすでにその話は終わったとばかりにお茶を飲んで目線を合わせない。

「俺、一応家主なのに・・・」

ぶつぶついいつつも席を立つオランヌを見送ってシエラはカーティスを見る。

「なんですか」

「いや、最近楽しそうだなぁって」

「そうですか」

「ええ」

以降、会話もなく時計の音がダイニングに響く。

バルソーラ家、家主はロスト・オーバーテクノロジーの先行者しても高名なオランヌ=バルソーラ、そして、彼が後見人を務めるカーティス=ナイルとシエラ=ナイルの兄妹が住むそれなりの屋敷である。

見た目は、であるが。

地下にはそれこそ迷路のような空間が広がっているとかいないとかいう噂がある。

そして、屋敷には時折今朝のような招かざる客がくる。

主に兄妹的主観で、になるのだがそんなことを気にする兄妹ではない。

数年前に両親をなくして以来、兄妹はこうして親戚のオランヌの家に引き取られて本人たち的には平穏な日々を過ごしている。

「あ・・・」

シエラが思わずテレビのボリュームをあげる。

「・・・おやおや」

株式情報でシエラたちが買った株価が大幅にあがったるのだ。

「売りかしら」

「そうですね」

携帯端末ですぐさま全部売りに出す様子を見ながらシエラは自分も持っていた分を売る。

この兄妹、別にこうしてオランヌの世話にならなくても今後普通に遊んで暮らせるほどのお金は自力で稼いでいる。

後見人をつけているのは高名な後見人がいると便利だからなだけだ。

 

湯のみを置いて立ち上がり家を出るカーティスをシエラは黙って見送る。

「・・・ほんと、楽しそうよね」

ここ数ヶ月何が楽しいのかわからないが機嫌がいいのがわかる。

話によれば新入生のアイリーンという女の子にご執心らしい。

幼馴染のチェイカが仕える家のお嬢様。

あったことは無いが可愛い子だという。

食器を食洗機にセットしてからシエラも家を出る。

 

ダイニングには機械の音のみが響いている。

「・・・やれやれ」

やっと客を帰して戻ってみればそこにはすでに子供たちの姿は無い。

たまの休日もオランヌには客人が来るし、カーティス・シエラもほとんど家にいない。

家族団らんなどをしたいとは思わないが、少し寂しくも思う。

引き取ったときからすでにカーティスは成熟していたし、シエラもそれに習うように大人びた思考を持つ少女だった。

もっとも、共同生活においては手がかからないのでオランヌとしては助かっているのも事実であった。

 

 

 

 

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