闇に魅入られているのは? 3夜目(ミハエル)

 

ちっぽけで醜い人間。

でも、気に入ったんだ。

僕が見つけたから僕のもの。

なのにあの人間はどんどん僕以外の人間を特別にしていく。

あの赤い髪の人間もそう。

特別。

人間たちはわかってないみたいだけど、それは同じ血を持ってるから惹かれてるのかもしれない。

大成する前に何度も殺されそうになって。

本当に、人間って馬鹿で愚かだ。

いつのまにかシエラはご主人様なんてものをつくてった。

僕以外のものになった。

ああ、イライラする。

 

 

「ねぇ、苦しいの?」

「ミハエル」

横に立って声をかける、そうしないと愚かな人間は僕に気がつかない。

「あの人間が君をいじめてるの?」

「…いじめ…られてるのかしら?」

「なにそれ、そんなこともわからないの?
 ああ、イライラする」

困惑を浮かべるシエラにどんどんイライラが募っていく。

「殺したい」

「え?」

「イライラする」

僕の目の先には赤い髪の人間が居る。

「だっだめよ!」

つかまれた服に視線を落とす。

なんで僕が止められなくちゃいけないんだ。

「うるさいなぁ、イライラするから殺すんだよ」

「お願いっまって」

「君はあの人間にいじめられてるんだろう?
 ならなんでとめるのさ」

そう問いかければ言葉に詰まったように手が緩む。

「イライラする…。
 殺したい、殺したい」

音もなく赤い髪の男に近づく。

「まっまってミハエル!」

シエラが必死に服をつかむ。

あぁ、本当にイライラする。

「殺さないで、いじめられてないわっ
 あれは、訓練…にしては過激すぎるけど
 いじめじゃないの!」

「だから?」

「え?」

「そんなの関係ないよ、イライラするから殺したいんだ」

でも、必死に止める彼女になんだか面倒になって殺すのはやめた。

ちっぽけな人間と同じ血をもつ赤い髪の人間を殺したら少しはイライラが収まるかと思ったけど。

面倒になったから。

 

 

「ねえ、君は僕のものなんだよ?」

眠る人間に問いかける。

勝手に僕以外のものになった。

生きてる間だけだと、ほんの少しの間のことだといって。

大成する運命をもった人間。

「エドワルド=ウィンフリー」

珍しく人間の名前を覚えた。

「殺したい」

イライラしたままシエラの髪をいじる。

さわり心地がいい、とマイセンはいってた。

よくわからないけど、マイセンがいうならそなんだろう。

イライラする。

殺したいと思う。

でも、まだ殺せない。

我慢しなくちゃいけない。

ああ、イライラする。

「君って本当にすごいよね、僕に我慢させるなんて」

あの赤い髪の人間を殺したら少しはイライラが収まるかもしれない。

あの人間はシエラと同じ血を持ってるから。

少しは腹の足しになるかもしれない。

そう思うとなんだか楽しくなってきた。

実際に殺してしまおうかと羽を広げる。

「っっ!……はっ、はっ…」

飛び立とうとした瞬間シエラが飛び起きる。

移動するのをやめてその様子を観察する。

「夢、なのよっ」

そういってシエラは愚かな人間らしく泣く。

「何で泣いてるの?」

そういったところで、聞こえはしないけど。

あの人間を殺しにいくのはやめにしよう。

今は泣いているシエラを見てるほうが楽しいから。

 

 

ねぇシエラ。

君は僕のものなんだから

もっと醜く汚れてよ。

どうしようもないぐらいに醜くなって。

醜くて醜くてきれいになってくれないと連れて行けないから。

 

 

 

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