闇に魅入られているのは? 2夜目(カーティス)

 

彼女を見た瞬間一瞬にしてとらわれる。

自分と似ている赤い髪だからじゃない…それだけじゃない。

彼女には惹かれるものが、あったのかもしれない。

まぁ、認めたくないですけどね。

すぐに死ぬと思ってた。

女は育たないと思っていた。

毎回死んでもいいと思って訓練していた。

だが、彼女は弱いながらも生き残ってもうすぐ自分の手から離れようとしている。

寂しいとか悲しいとか、そんな感情はない。

だが、自分の部屋にずかずかはいってくるのも

こうして自分の休憩所に勝手にやってくるのももうなくなるとおもうと

なんだか少し物足りない気分になるのかもしれない。

 

 

ある日、子供を殺した。

彼女たちの後釜になる予定の、弱い子供。

殺した理由は簡単、もう使えなかったから。

たいしたことじゃないはずなのに、なぜかイライラし。

「あなたは悪魔じゃないわ」

イライラしているときに唐突に話しかけられて、さらにわけのわからないことをいわれて

ますますイライラがつのる。

「私の知っている悪魔と違う」

「あなたに、悪魔の知り合いが居たとは初耳だ」

自分以外の悪魔が彼女と知り合いですか。

なんだかイライラが増えた気がする。

「悪魔はもっと優しいもの。
 慈悲深い生き物よ」

「では、僕は悪魔より無慈悲な生き物ということですか」

そんなものは悪魔じゃない。

慈悲深い悪魔など悪魔などではない。

「悪魔というのは、僕のようなもののことをいうんです」

そう、悪魔のような男と言われる。

自分でもそうなのだろうとおもう。

「だけど、あなたは悪魔じゃない」

きっぱりと彼女はいう。

気づいていないのかもしれないが、悪魔と口にする彼女の目には期待と羨望が潜んでいる。

彼女は、本当に悪魔を知っているのでしょうか?

自分以外の悪魔、彼女にとって特別な存在の……悪魔…。

「では、どんな生き物ですか?」

そう聞けば彼女は困ったように口を曲げる。

「悪魔も人間も、捉え方は受け取り手次第です。
 みるものによって姿を変える」

彼女には自分はどう見えているのだろう?

無慈悲で残酷で、だが悪魔ではない。

「どうみえます?シエラ
 あなたにとっての、僕は…」

言いよどむ彼女をみるのに飽きて外を眺める。

埃っぽい、砂っぽい窓からみえる沈む夕日をみつめる。

「……あなたはっ悪魔、じゃない。
 でも私とは違う生き物だわ」

「そうですか」

だが、そういった彼女のは揺れていた。

 

 

明日、彼女たちはギルドを去る。

お気に入りの場所で横になってると彼女はやってくる。

当然のようにやってきて、でも僕はなぜかそれを許してしまっている。

「あなたは化け物なんでしょう?
 カーティス=ナイル」

すがるような、そうであってほしいと願っている瞳。

「そうですよ。僕は化け物です。
 ひどい言い様ですが事実でしょう」

そう、違う生き物なのだと肯定する。

「なんで泣くんです?」

「知らないわよ」

泣き出した彼女に一瞬呆ける。

何をしても泣かなかったくせに、こうして今涙を流している。

「僕と離れ離れになるのが寂しいんですか?」

「馬鹿いってんじゃないわよ」

弱い彼女は優しいのだろう、自分とは違ってとても脆い。

「泣いたほうがいい」

泣けるうちに。

「人間くさい顔、というのでしょう」

人間であるうちに。

感情があるうちに。

「僕は、あなたのように誰かを好きになったり出来ません」

そういえば彼女は涙を止めて驚いたようにみてくる。

彼女は僕やギルドのほかのメンバーも好きになっていた。

だから、別れることが悲しくて泣いている。

「シエラ、あなたは人間だ。
 僕とは違う生き物です」

だから、そのまま弱いままで居てほしいとどこかで思う。

「適当に長生きして、適当なところで苦しまないで死になさい」

暗殺者として、最高の餞別をおくる。

「いいえ、そんな死に方は嫌よ。
 私は、苦しんで死ぬ生き方をするわ
 そうなってみせるから」

そういう彼女にさすがは僕の弟子といおうと思ってやめる。

向かい合う。

いつか苦しめばいいと彼女はいう。

彼女に苦しめばいいと。

ありえないことを願う彼女に瞳にはなにか確信めいたものがあったのかもしれない。

この僕が苦しむことが来ると…。

 

 

シエラ、あなたの言うとおりです。

僕は好意という感情しった。

仕掛けられても居ない罠にはまって苦しんでいる。

あなたは今の僕を見たらがっかりするのかもしれませんね。

それとも笑うのでしょうか。

僕と似ているのに僕とまったく違う生き物の彼女。

噂では尻尾を振る犬なりにうまくやっているらしい。

会わないことを願いますよ。

今の僕はきっと、あなたを殺したら苦しむだろうから。

 

 

 

 

 

 

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