困ったものだ・・・。
そう、我が愚弟には本当に困ったものだ。
は腕の中にいるカヅキの髪を梳きながら嘆息する。
「そう思わないか?夢魔」
『そうだな』
ブラッドの一言を聞いた瞬間、カヅキは眠るように気を失った。
正確には、夢魔が夢の世界に引きずり込んだ。
『まだ早いからね』
「そうじゃな」
カヅキはまだ忘れていない。
死への渇望を忘れてはいない。
そして、ブラッドへ重ねているあの男のことも忘れてはいない。
「なのに、あの男と同じことを同じように言うとは、情けない」
『教えない君にも問題があるとは思うがね』
「ふん、教えたところであやつは変わらぬよ」
『まぁ・・・否定はしないよ』
夢魔は顔色を悪くしながらカヅキに額に手を当てる。
塔はこやつの領域。
その領域で起きたことなだけに、カヅキの心へのダメージがダイレクトに伝わっているようだ。
「暗示は、どのぐらいもつのじゃ?」
『このままだとあまりもたないな』
使えぬ男だ。
『なっ・・・君の愚弟とやらのせいだぞ!』
「そのこと、誰かに漏らせばわらわと全面戦争だということを忘れるでないよ」
『わかっているさ』
そういって夢魔独特の何かを含んだ笑みを浮かべてまっすぐに私の目を射抜く。
こういうところがこやつの底知れないところ。
ほんにイライラする。
「・・・ん」
「カヅキ、起きたの?」
夢の中で起きるというのも変な話じゃな。
「ルデねー?」
「もう少しお眠り」
『そう、今しばらくの眠りの檻にいるといい』
「ナイトメア?」
首を傾げるカヅキの瞼がゆっくり閉じられる。
カヅキの長い髪をなでながら歌を歌う。
どうかまだ目覚めないで。
お前が死を忘れるまで、どうか思い出さないで。
さらさらと、長くなったカヅキの髪にそっと口付けてただ、そう願った。
序所に形を失いつつある それ
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