もう数時間帯後には会合も終わるらしい。
「あっれ〜?カヅキ何してるのこんなところで」
「エース」
目の前の人物を視界に捕えた瞬間、一緒にいたメイドや使用人が警戒をし始めるのを感じる。
そんな彼らを手で制しながら少し距離をとってエースと連れ立って歩く。
一応彼も役持ちだからブラッドの条件に当てはまるだろう。
「部屋に戻るところですよ」
「ふ〜ん、部屋ってさぁ帽子屋さんの?」
「そうですよ」
「あはは、君ってば噂どおり帽子屋さんの情婦なわけ?」
爽やかに、とてつもなく爽やかに言われた。
「手は出されたことは無いので違いますよ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「ええ」
もうすぐブラッドの部屋だがエースはついて歩いてくる。
この男はまた迷っているんだろうか?
「違うのかぁ、でもお気に入りだよね」
「珍しいんじゃないですか?」
「いいように弄ばれてるんだ」
「そんなことないですよ」
そういえば後ろについてきているメイドが同意する。
「・・・・・・・エース、うちの人に意味なく手を出さないでください」
同意したメイド達におもむろに剣を向けたエースを制止する。
この人はなんだってこんなに簡単に人を殺そうとするのだろう。
まぁ、この人だけに限らずだけれども・・・アリスほどではないが私だって命の大切さはしっている。
目の前で知人が死ぬなんてできるなら避けたい。
「せっかくの君との会話を邪魔されたしさ」
なんとなく?といって剣を向けたまま笑うエースに思わずため息をつく。
ブラッドに服を汚さないようにといわれていたし、不可抗力以外極力さけてきてはいるがどうやら今回は無理なようだ。
「なんでそんなにイラついてるんですか?」
「なんのこと?」
「イラついてる、そんな目ですよ」
「ははは、おかしなことをいうな君は」
「そうですか?」
「うん・・・だけどそうだね、君が帽子屋さんのものになるのは気に入らないかな」
頬に一線が走る。
意外と深く切られたようで、血が真っ白な生地に赤を落としていく。
よけなかったら頚動脈を切られていただろうと冷静に頭でおもいながらも銃を手にするメイドたちを止める。
彼らではエースに勝てるわけが無い。
もっとも、自分であっても勝てるとは思えないけれども。
「服、汚さないように言われてるんです」
「そうなんだ、ごめんね」
悪びれないエースにため息をもう一度ついて構える。
この服は本当に動きにくい、戦闘向きな服ではないとしみじみ思う。
ぎりぎりでエースの攻撃をよけるが手加減されているのだとわかるところが無性に癇に障る。
こちらはメイドたちを止めるのも一苦労だというのに、この男は・・・。
「・・・・・・あー」
「ん?どうしたの?」
「面倒になりました」
手袋をはめて鋼糸を周囲に張り巡らせる。
「わっなにこれ」
「四の舞 女郎蜘蛛」
「え・・・」
張り巡らせた鋼糸を一気に手繰り寄せてエースを襲いにかかる。
せめて私が怪我をした分ぐらい怪我をしてもらわなければ気がすまない。
何本も鋼糸がエースの剣によって切り裂かれていくのも気にせずに手持ちの短刀も投げてやる。
さすがに避け切れなかったのかわざとなのかエースも同じようなところに傷を作っていく。
まぁ、十中八九でわざとだろう。
「すごいね、君って本当に強いよね」
「いやみにしか聞こえません」
張り巡らせたすべての鋼糸が切り落とされたのを認めて攻撃を止める。
本当にこの男に会うと毎回めんどうだ。
自分に似ている気質をしているこの男はどうしても自分をいらだたせる。
ついでにいえば、対面している自分達をものすごく不機嫌そうに見ているブラッドの対処も考えたら軽くめまいを覚えてしまう。
「カヅキ」
「すみません」
「あっれ〜、帽子屋さんってばお迎え?」
「ハートの騎士、カヅキと遊んでくれたようで・・・礼を言おう」
「あはは、気にしないで良いよ」
「そうか、ではそうしよう」
つかつかと傍に来てすぐ抱き上げられる。
またブラッドの服に血がついてしまう。
「そうしてるとカヅキが否定しても噂どおりだって思っちゃうよね」
「いいたいやつには言わせておくさ。それに」
ブラッドは意味ありげにエースと私を見てにやりと笑う。
「カヅキは私のものだ。手を出すな」
「ふーん」
「・・・・・・」
冷たく視線を交えた二人をよそに、私は肩が震えるのを隠せなかった。
わたしのしかいがとじる とき
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