カヅキはいまだに死を忘れない。
この世界には死があまりにも身近だからだろうか?
いや、カヅキ自身が自分を罰しているせいだろう。
ブラッド・・・わらわはお前にかけているのだよ。
お前なら、カヅキをあやつの呪縛から解き放ってくれると、そして新たなる鎖になってくれると・・・がらにもなく願っているのだよ。
わらわの時間を愛してくれたあの子をどうか守ってあげて。
『だ〜れ?』
『おまえ、わらわがみえるの?』
『あなたは天女?物の怪?』
『わらわは女王』
『女王』
『そう、この時間帯を司る女王』
『ふ〜ん』
『おまえ、名は?』
『私の名前は・・・・・・』
あの悲しく笑う小さな子を、わらわは救うことが出来なかった。
強くあろうとして弱くなってしまったあの子。
まるで人魚の涙のように少しの亀裂で壊れてしまう。
ブラッド、お前にあの子を託すよ。
お前はもう気づいているのだろう?
あの子の心を縛り付ける赤い記憶に、お前に似たあやつの存在に。
『ルデねーには姉弟がいるの?』
『ああ、やくざな愚弟じゃ』
『そうなんだ』
『あやつもきっとお前を好きになるよ』
『私を?』
わらわは、あのときのあの子の顔が忘れられないよ。
少しの希望にすがるような絶望の色を帯びた目。
薄く開かれた唇が拒絶も肯定もできずに再び閉ざされていったあの顔を。
ブラッド、お前はならきっとあの子を救い上げると私は願っているのだよ。
『大好きです、ルデねー』
『わらわもお前が大好きだよ、愛しい子』
あの子がいればイライラも収まるのを感じていた。
あの子がわらわの壊れた時計を癒してくれている気がした。
アリスがこの世界に来たとき、わらわはあの子もこの世界に引き込めないかと思った。
そして、それがぎりぎりの選択だったことにも気がついた。
ああ、壊れ逝くあの子を見ていたくはなかった。
夢魔を引き込んであの子をこの世界に連れてきた。
だけども、夢魔ですらあの子の記憶をなくすことはできなくて、あの子はいまでも檻の中の鎖にとらわれている。
『名前を呼んで・・・』
わらわにすがるお前をわらわは傷つけないように抱きしめるしか出来ないけれども、わらわはお前を愛しているよ。
だから、ブラッド。
どうかあの子を、お前の茨でつなぎとめて頂戴。
檻の中の死臭
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