「どこに行っていた」
「ナイトメアのところです」
部屋に戻って不機嫌なブラッドに苦笑して言う。
条件付で傍を離れることを許可しているとはいえ、ブラッドは根本的に私が他のところに行くのを快くおもっていない。
それでも会合中、クローバーの塔の中で護衛をつけて、必ず役持ちがその場にいるという条件でならの外出を許してくれている。
「ふん、随分ご執心のようだな」
だからといって不機嫌を隠すことが無いところがブラッドらしいのだが、今日は特別不機嫌なようだ。
「功労賞はちゃんと渡して差し上げないといけませんよ」
「功労賞ね・・・、一番の功労者は君だろ」
「そんなことはないですよ」
伸びて来た手に逆らわずに抱き上げられて膝の上に座る。
こうすると閉じ込められたような錯覚さえおきる・・・・・・、いや実際に閉じ込められているのだろう。
この男はそれができる、できる力をもっている。
「退屈してるんですか?」
「ああ、とても退屈だとも」
大げさにため息をつかれて頬をなでられる。
この人はスキンシップが随分好きなようだ、自分限定かどうかはしらないがルデねーにはしないところをみるとだれかれかまわずではなさそうだが。
「なら終わりにしますか?」
「そうだな、もうさすがに食傷気味だ」
「そうですか、ではナイトメアに言ってきます」
「まちなさい」
立ち上がろうとすればステッキで前をふさがれて立ち上がれない。
「私は今とても退屈しているんだ」
「そうですか」
「相手をしてくれないか?カヅキ」
疑問系のくせに逆らえない空気をだすブラッドは、本当にあの人に似ている。
この国に来てそんなに時間がたっていないとおもうが、すでにあの人を懐かしいとおもえるほどには時間がたったらしい。
それでも、ブラッドのこんな空気に触れるたびに思い出す。
そして自分の罪を再認識してしまう。
「いいですよ、ブラッド」
だから、名前を呼ぶ。
重ねないように、ブラッドはあの人ではないのだと自分に言い聞かせるために。
「なにをしますか?ブラッド」
面影は重ならない、それでも似ているブラッドに自分は依存しようとしているのかもしれない。
失ったものを取り戻そうとしているのかもしれない。
私のこのブラッドへの思いはあの人へのものの代用なのかもしれない。
それでも、私はまだあの人を、罪を切り捨てることが出来ない。
ナイトメアは花が咲かないと寂しそうに笑った。
ルデねーもふがいない弟と不機嫌そうに言っていた。
「お茶会をしよう、カヅキ」
死にたくないという思いはまだわかない、今もまだ死にたい、死んでしまいたいと願っている。
「はい、ブラッド」
だけども、まだ死ねない。
今私が死んだらきっとブラッドは悲しんでしまう。
だからまだ死ねない。
早く飽きてくれればいい、早く殺してくれればいいのに。
「おいで、カヅキ」
この伸ばされた手を、拒否できないけれども、私はあなたに捨てられることは悲しくないのですよ。
「はい、ブラッド」
ブラッド、あなたは気がついているのですよね。
私があなたに誰かを見てしまうことにも、死を願っていることにも。
だからあなたはこうしていつも私の手を強く握る。
どこにも行かないように、いけないように・・・。
「ブラッド」
「なんだ?カヅキ」
「お菓子は人参じゃないものがいいです」
「あたりまえだろう」
私が咎を受けるその日は いつ?
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