「カヅキ、いったい何の恨みがあるんだ?」

「恨みなんてありませんよ?」

「うそだ!!!」

「嘘じゃないですよ」

カヅキはナイトメア様の執務室で緑茶を飲んでいる。

とある条件下でのみ、帽子屋はカヅキを傍から離すことを許した。

もっとも、護衛という使用人はついているが。

「私はナイトメアにちゃんと薬を飲んでもらいたいだけですよ。 だって、今にも死にそうじゃないですか。」

「今死にそうなのは君のせいだ」

夜は帽子屋に、夕方は女王にナイトメア様は追われている。

原因はもちろんカヅキ。

どうやら二人にあるゲームをもちかけたらしい。

それは

「ナイトメアに薬を飲ませること」

「うぅぅ・・・」

「ナイトメアのためですよ」

カヅキはにっこりと笑って言う。

昼のこの時間帯のみ、ナイトメア様にとっては安息の時間帯のようだ。

夢に逃げ込めることはルールでできない。

ならば逃げきるしかない。

そのせいで執務が滞っているのだが・・・。

まぁ、ナイトメア様が薬を飲んでくれるならばそれで我慢しよう。

カヅキも手伝ってくれているおかげでそんなにたまっていないし、女王と帽子屋がナイトメア様を追いかけるのに夢中なおかげで余計な仕事が増えないのもいいことだ。

「まぁ、もうすぐ時間帯が変わりそうですし・・・」

「ひぃっ」

「これでも飲んでがんばってくださいw」

そういってカヅキはナイトメア様に珈琲の入ったカップを手渡す。

珈琲といってもカフェラテ。

書籍でカフェインのとりすぎはよくないと読んだらしいカヅキがナイトメア様に飲ませている。

最初は拒否していたナイトメア様もカヅキの押しの強さで渋々飲んでいる。

と、言い張っているが表情を見るに好んで飲んでいるようだ。

飲んでいるうちに時間帯が変わる。

夜、帽子屋の時間だ。

「迎えに来たぜ」

チェシャ猫がドアを開けてやってくる。

彼は今回の審判だ。

そしてナイトメア様の助っ人でもある。

逃げ込む場所へ連れて行くのが彼の仕事。

報酬は当然ナイトメア様の懐から出ている。

「今日はどこに逃げ込むつもりですか?」

「それは・・あー、あれだ」

ナイトメア様は必死に考えているようだ。

もうすぐ帽子屋ファミリーがやってくるだろう。

「あそこだ!あそこにはまだ逃げ込んでいないからなっ!」

「了解〜」

そういってナイトメア様はドアの向こうに消えていく。

 

 

 

しばらくして残された私たちの耳元に爆発音が響く。

「最近、爆発事件が多いな」

「物騒ですね」

「ほんとに〜」

「たいへんです〜」

だるだる〜っとした空気が流れる。

今回で何回目の爆発事件なのか数えるのも面倒になってくる。

ナイトメア様が逃げ込んだ場所は漏れなく爆発させられている。

帽子屋たちいわく、ついちょっと手が滑って。だそうだが、まったく持って信用できない。

いや、ある意味ただしいのだろう。

少しばかり早くなっているだけだ、いずれつぶされていた場所なのだろう。

なんせ、帽子屋ファミリーからナイトメア様が逃げるための場所を教えているのはカヅキだ。

ゲームが始まるときにいくつかの「ファミリーの敵」を教えたのだ。

もちろんその後、その組織の隠れ家や本拠地を調べてナイトメア様に伝えたのは自分だが、ナイトメア様・・・利用されてるって気がついてくださいよ。

「お茶がおいしい」

「お嬢様ボスににてきましたね〜」

「今の言い方そっくりです〜」

「末期だな」

「うぅ・・・」

だるだる〜っとした空気は崩れない。

崩れるとしたらナイトメア様が戻ってくるか、乱入者が来たときだろう。

「う〜ん、そろそろ材料を追加しないといけないですね」

「ああ、なら用意させよう」

「お願いします」

カヅキそういってリストを渡してくる。

ナイトメア様に「飲ませている」薬の材料だ。

無味無臭、疲れた身体に甘く味付けされたカフェラテの中に落とされた薬。

気がつかずに摂取しているナイトメア様はいまだにわかっていない。

最近吐血が減ったことも、顔色が少しだけよくなったことも・・・まったく。

「はあ」

「グレイ?」

「いや、ナイトメア様はどうしてああも鈍いのかとおもって」

「思考が読めなければナイトメアは素直な人ですからね」

本当にその通りだ。

カヅキに優しく手渡されたこの珈琲にも、滋養強壮にいいという薬が入っているらしい。

ミルクも砂糖も入っていないはずの珈琲が、いつもより甘く感じられるのは、きっと薬のせいだろう。

「君がずっとここにいてナイトメア様の面倒を見てもらえたら助かるな」

ふと漏らした独り言にカヅキは困ったように眉を寄せる。

「・・・ごめんなさい」

 

 

 

 

 

何故 そんな今にも泣きそうな顔をするんですか

 

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