カヅキ、最近外に出ないんだってね。

帽子屋さんが閉じ込めてるって噂だよ。

あんたに骨抜きにされて血迷ってるとか、趣旨変えしてロリコンになったとか、国中の噂なんだぜ。

ねえカヅキ、俺あんたが好きだよ。

だからさ、会いに行くよ。

俺は猫だからどこにでもいけるんだ。

 

 

 

 

 

「久しぶり、カヅキ」

「ボリス」

帽子屋屋敷の庭でカヅキを見つける。

今日は一人だ。

いつもディーやダムとか三月うさぎさんとか帽子屋さんが傍にいるのにな。

「元気してた?」

「はい」

するりと木の上にカヅキを引き上げる。

抵抗もしないで俺の腕の中に納まるカヅキの暖かさににんまりして髪に顔をうずめる。

「カヅキが元気なら俺はそれでいいよ」

「ボリス?」

「ねえカヅキ」

「はい」

「カヅキ」

「はい」

「カヅキ」

「はい」

「ねえカヅキ」

「どうかしたんですか? ボリス」

どうもしないよ。

どうかしたのはあんたのほうだよカヅキ。

なんでそんなに戸惑ってるんだよ。

不安がってるのがバレバレだよ。

「カヅキ、あんたは元気?」

「元気ですよ」

「ならいいんだ」

「変なボリス」

「カヅキ・・・・・・幸せ?」

「ええ、幸せですよ」

「楽しい?」

「はい」

「・・・・・・・・本当に?」

「はい」

うそつきだね。

違うか、嘘じゃないけど全部じゃないよね。

「カヅキ」

「はい」

「カヅキ」

「はい」

「どこにも行かないよね?」

「行きませんよ」

「でも、あんたはどっかにいっちゃいそうだ」

不安だよカヅキ。

こうしてあんたの名前を呼んでも不安なんだ。

こうして腕に閉じ込めても不安なんだ。

「行きません・・・どこにも、いけません」

「カヅキ、カヅキっカヅキ」

「ここにいます」

「うん」

「どこにもいきません」

「うん」

「信じてください」

「うん」

 

 

 

 

 

俺、あんたのことをもっと知りたい。

俺と同じ思いを返してくれなくていい。

俺がその分あんたを想うから。

だからこうしてたまに傍にいさせてくれるよね。

俺は猫だから、あんたがどこにいたって傍にいけるんだ。

 

 

 

 

 

「ねえカヅキ」

「はい」

「カヅキ」

「はい」

「ねえ」

「はい」

「いつか、教えてくれるよね」

今でなくていいよ、それまで俺はカヅキを呼び続けるから。

 

 

 

ねぇねぇねぇねぇねぇと何度あんたの名を呼んでも足りない ねぇ?

 

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