その場にたどり着いたとき、そこは血の海だった。

カヅキを狙ったという組織を襲撃するために生かしておいた捕虜への拷問の末判明した本拠地。

そこにはすでにカヅキが居た。

なぜとか、どうしてとか、そんな言葉すら出ないほどに、カヅキは赤く染まっていた。

「カヅキ」

声をかければカヅキは振り返る。

全身を赤く染め上げて俺を見る。

「なんで、なんでカヅキがここにいんだよ!」

「お手伝いですよ」

カヅキはそういって笑う。

敵対組織の始末の手伝いだとなんでもないようにいう。

「ねえ、エリオットどうしたんですか?」

動けない俺にいつもどおりに声をかけてくる。

血溜りの中をカヅキは近づいてくる。

「怪我はないか?」

「はい」

ブラッドが言えばカヅキは頷く。

「帰るぞ」

「はい」

真っ赤に染まったカヅキをブラッドは抱える。

汚れるとかかまわないとか言い合っている二人の後を俺も追いかける。

後始末は部下に任せればいい。

 

 

 

そして、その日からブラッドはカヅキを絶対に外に出さなくなった。

カヅキは屋敷の外に出られない、そういうルールを作った。

 

 

 

「カヅキ、この服はどうだ?」

「動きにくそうですね」

「お嬢様〜どうですか?」

「こんなにひらひらしてたらどこかにひっかけてしまいそうですね」

今日は会合の衣装合わせだ。

とはいっても俺やブラッドはスーツを着ればいいだけだからいいけど、カヅキはさすがにスーツってわけには行かない。

普段服に興味のないカヅキにここぞとばかりに服を買い込んできたブラッド。

もちろん全部オーダーメイドだ。

そしてその大半が動きにくい、そんな理由で却下されてる。

山積みの衣装のに目もくれずにブラッドは次々に服を当てていく。

メイドも楽しそうに着替えさせているし、俺は今のところ手持ち無沙汰だ。

とはいえ、一応居るように言われてるし、・・・・・・暇だなぁ。

そして、ブラッドが手にしたのは真っ白な生地にトランプの模様をあしらったもの。

靴も帽子も、飾りの薔薇まで白だ。

赤い薔薇を好むブラッドにしては珍しい。

「ブラッド、ですから」

「いや、これで決定だ。よく似合う」

「ほんとに〜よくお似合いです〜」

「汚れが目立ちますよ、それに動きにくいですし」

カヅキは納得していないようだがブラッドが決定といった以上強くは拒否しないだろう。

「・・・いいんじゃねえの?」

確かに似合う、カヅキの黒髪をよく引き立ててる。

「エリオットまで・・・」

「汚れがきになるというなら、汚さなければいい」

ブラッドは珍しく強めの口調でカヅキに言う。

「・・・・・・」

「君には赤もよく似合うが、この間のように君が戦う必要はない」

そこで俺はブラッドがあえてこの服を選んだ理由がわかった。

「会合中は他の組織の人間もうろつく、抗争が増えるが、君が戦う必要はない」

「・・・向こうから、襲ってきた場合は?」

「エリオットが居る、それに護衛もつけよう」

ブラッドに俺も頷く。

カヅキが戦う必要はない、カヅキは家族だけどファミリーの一員じゃない。

「だから、汚すな」

「・・・・・・善処します」

カヅキは渋々といった感じでいう。

「ああ、君は約束を破らないと信じているぞ」

「・・・・・はい」

カヅキはそういってテーブルの上にあるハンカチをみた。

穴が開いて、メイドの一人が繕ったハンカチ。

この間カヅキをかばって死んだ顔なしからのプレゼントらしい。

「会合中は、抗争が多いんですか?」

「え?あっああ・・・・・・まぁ、揉め事は起さないっていうルールだけど、その分裏で動くのが増えるよな」

「そうだな」

「じゃぁ、忙しくなるんですね」

「カヅキが気にすることじゃねーって」

「そう、ですか」

カヅキはそういってブラッドを見る。

「おちびさん、後で私の部屋に来なさい。書類の整理を手伝ってほしい」

「はい」

そういえば、カヅキが来てから書類の整理とかそういう仕事が減ったような気がする。

なんでも「手伝い」といって報酬も為しにカヅキがやっているらしい。

働かざるもの食うべからず、とかいって世話になってるお礼で「仕事」ではなく「手伝い」をしているから報酬はいらないんだそうだ。

もちろん、ブラッドがこっそり報酬つけてそれをためてることも知ってる。

使用人たちは手伝いのお礼だとか言って色々カヅキにプレゼントしてるらしい。

まぁ、俺も人参クッキーとかよくやるしな。

「ともあれ、会合中その服は出来る限り汚すな」

「わかりました」

念を押すブラッドにカヅキは今度こそ頷いた。

 

 

 

 

 

「なぁカヅキ」

「はい」

俺はカヅキを腕に抱き上げてブラッドの部屋に向かう。

「マフィアって仕事がいやとかってないのか?」

俺はなんとなくカヅキに聞いた。

「ないですよ」

こともなげに言うカヅキにこんなところもアリスと違うんだなって思う。

アリスはマフィアっていうのにはそれなりに拒否感を持ってるようだしな。

まぁ、見えてないから気にしてないってのが今の状況だろうけど、俺の本業の姿とかみたら嫌われそうだよな。

でも、カヅキは・・・違う、どっちかってーとこっち側の人間だ。

「私も、元の世界では似たようなものに所属してましたし」

「マフィアにか?」

「いえ・・・暗殺組織ですよ」

「え・・・・・・」

「ほら、行きましょう? ブラッドがまってますよ」

止まりかけた俺の肩を叩いて歩みを促すカヅキにしたがって歩く。

どうしてかカヅキには血の赤がよく似合う。

それは、おそらく身体に染み付いた血の匂いのせいかもしれない。

でもなカヅキ、俺はあんたに血で汚れてほしくないんだ。

だから、ブラッドに言われなくても俺はあんたを守るぜ。

 

 

 

この手がどんなに血に染め上げられようとも

 

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