「鼠・・・」

出会い頭にピアスに顔をゆがませるアリスじゃない余所者。

可愛い顔して、いい性格をしてそうだ。

俺は猫だから鼻がきくんだよね。

ねぇ、君から血の匂いがするよ、それからとびっきりにいいにおい。

「えー!君ねずみきらい?」

「誰も鼠なんかすきじゃねーよ」

「ガーーン」

落ち込むピアスをアリスが慰める。

アリスはなんだってあんなに博愛主義なんだろうなぁ。

鼠なんか嫌われて当然なのに。

俺はまだ名前を知らない余所者の横に移動する。

「俺はボリス=エレイ、よろしくな」

「カヅキです・・・・・・猫、ですよね」

「そう、だから鼻がきくよ」

いいにおいだよな、あんたって。

いえばカヅキは意外そうな目で俺を見る。

あれ?俺なんか変なこと言ったかな?

ちょっとだけ心配になる。

余所者とこの世界の人間は常識が違うからアリスにもよく同じような表情をされる。

まぁ、アリスの場合その後大抵怒られるけどね。

「何の匂いですか?」

「ん〜、血となんか・・・花? そんなかんじの匂い。 おいしそうだよ」

「花ですか」

どうやら「おいしそう」には反応してくれなさそうだ。

納得がいったというように頷く少女。

まぁ、花の匂いだけじゃないけどね。

俺は勘がいいんだよ、カヅキ。

あんたのその姿って擬態だよね?

誰にも言わないけどさ。

「ひどいよひどいよ」

「あ〜、うぜぇ」

せっかく仲良くしようとおもって話しかけてたのに鼠に邪魔される。

こいつは何でこんなに空気を読まないんだろう。

ああ、鼠だから読めるわけ無いか。

「ねえねえ、俺のこと嫌い? 俺は君の事嫌いじゃないよ」

思わず舌打ちする。

鼠は変なところで敏い。

「・・・・・・鼠は役に立たないから好きでも嫌いでもないです」

「ガーーーンっ 俺、役に立たないわけじゃないよ! ボスだってよくやってるっていってくれてるよ」

「ボス?」

「そう、ボス。 帽子屋ファミリーのボス!」

「ブラッドの部下、なんですか?」

「そう!そうだよ 今家出中だけど!」

「・・・・・・・」

「カヅキ、鼠なんかかまわなくっていいよ。 馬鹿がうつる」

「ひどい!ひどいよ」

「ボリス、いじめちゃだめじゃない!」

ぎゃーぎゃー騒ぐピアスに俺を怒るアリス。

適当にアリスに言い訳をしてカヅキに視線を送る。

何を考えてるんだろう? 知りたいな。

「ねぇ、何考えてんの?」

「・・・鼠を使う仕事ってなんだろうとおもって」

「ああ・・・鼠は掃除が仕事だよ」

「掃除・・・・・・後始末、ですか」

「そう、鼠でも出来る仕事」

やっぱりカヅキは血の匂いが染み付いてるだけあってアリスよりも敏い。

余所者でもこんなに違いがあるんだな。

触りたいな。

その髪に、肌に・・・心臓に。

「ねえ、触ってもいい?」

ストレートにいえば、どうぞ、と微笑んでくれた。

お言葉に甘えて髪に、肌に触れていく。

さらさらと流れていくような手触りが心地いいな。

心臓の上に手を置く。 自分とは違う脈打つ鼓動。

気持ちがいいな。 気持ちがよすぎてうっとりする。

「ボリスなにしてんのよ」

アリスの声に正気に戻る。

いつの間にかカヅキ服の上からではなく、直接肌の上から心臓を触っていたみたいだ。

無自覚での行動だから赦してくれるだろう?

そうやって笑えばアリスは怒ったけど、カヅキは笑った。

いいなぁ、その笑顔。

俺、あんたが気に入ったよ。

 

 

 

聖母のような尊い気高さを浮かべながらあの人は 笑った

 

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