余所者の少女が二人。
ナイトメア様は快く受け入れている、ならば自分もそうしようと二人を見る。
アリスと名乗った少女はナイトメア様に食って掛かっているようだ。
この世界の引越しについて色々聞いている。
時計屋や遊園地のオーナーがはじかれたことがよっぽどいやなようだ。
そのうちめぐり合うだろうに。
そして、もう一人の余所者を見る。
カヅキ、と名乗っていた。
ナイトメア様が引越しの直前に引き込んだという少女。
彼女が自分に向けてくる瞳の色がナイトメア様に向けるのと違うことに気がつくのに時間は要らなかった。
武人の瞳。
たとえるならばそれだ。
この少女は血の匂いと色を知っている。
余所者にも色々居るらしい、と結論付けて少女を見返す。
彼女の腰にあるものはナイフ、のようなものだろうか。
あまり見ない形状のものだ。
「グレイ、カヅキは強いぞ」
「はあ」
ナイトメア様に比べたら大抵の人間が強いでしょうね。
読まれないように思って改めて少女をみる。
この世界では外見なんて当てにならない。
「私なんて、全然です」
そういってはいるが、確かにそれなりの腕があるのだろう。
気配や空気がそれを物語っている。
いつか手合わせをしてみたいともおもうが、こんな子供を相手にするのはためらわれる。
「カヅキ、グレイは強いんだ、今度手合わせしてもらうといい」
ナイトメア様が言い出したことにぎょっとする。
アリスも何を言い出してるのだと怒鳴っている。
当然だろう、こんな子供と自分が手合わせなど成立するわけが無い。
そんな俺の考えがわかったのか少女は苦笑して首をかしげている。
「あの、手合わせ・・・ではなく鍛錬に付き合ってくれると、うれしいです」
「あ、ああ・・・そのぐらいなら」
鍛錬に付き合う程度ならいいだろう、自分もいい気分転換になる。
さっそく、といってアリスにナイトメア様を任せて訓練場に移動する。
武器を構えて少女を見る。
自然体だ、いつ動くかわからない、いつ動いてもいいような体制。
この少女の武器は腰にあるものだろうが手をかける様子もない。
「いつでも、どうぞ」
いわれて武器を抜く。
高まった緊張に少女は微笑んだ。
「参ります」
一言、つぶやいて少女の空気は一変する。
暖かみの消えた目で仮面のように無表情に微笑む。
ナイトメア様のいったようにかなりの腕なのだろう。
スピードも悪くない。 そして急所を確実に狙ってくる攻撃は自分と同じなのだろう。
「君は、暗殺技術をしこまれているんだな」
「ええ、よく気がつきましたね」
やはり、と思う。
気配の消し方、空気の消し方、動いたときに音の消し方、すべて暗殺者として極上の技術。
もっと強くなれる、と思う。
同時に、これ以上強くならないでほしいと思う。
強くなれば強くなるほど、この少女は死に急ぐように思えて仕方がないから。
死を待つ芳香
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