「協力しておくれ」
唐突に夢の世界に乱入してきて女王は言い放つ。
それは誰がみてもあせっている様子で、らしくないと思う。
「協力とは?」
「娘を一人、この世界に引き込む」
「ふーん」
部下も部下なら上司も上司だ。
そろいもそろって同じようなことをいう。
「このわらわが頼んでおるのだ、断りはしないだろう?」
「・・・・・・らしくないな、女王」
苛立ちを隠さない女王にわざとらしくいえば杖を向けられる。
この夢の領域で自分が傷つくことは無いが身体には悪い。
「早くしろ」
「いいだろう」
そして女王が連れてきたのは幼い少女。
けれども自分も女王も知っている、この姿が正しい姿ではないことを。
「かわいいだろう」
「そうだな」
この少女もまた、アリスと同じように時間を大切にしている。
だから愛しく思わないわけが無い。
詳しい事情は女王がポツリポツリと口に出す。
それだけでは足りなくて少女の記憶を見ればたしかに、女王がこちらに引き込むのもわかる。
あのままではこの少女は壊れてしまっただろう。
目覚めて自分を捕えた瞳に思わず息を呑んだ。
世界ではあたりまえの血の匂いと色が彼女を引き立てる。
「・・・・・・ここはどこ?」
その声にすらひきつけられた。
「よく来たね」
アリスに連れられてきた少女を笑って招く。
彼女は自分を覚えているだろうか?
夢の領域はあいまいで、覚えていないかもしれない。
「ナイト、メア?」
名前を呼ばれておもわず顔がにやける。
ああ、やはりこの少女が愛しくてたまらない。
「覚えていてくれてうれしいよ、カヅキ」
そう、カヅキと少女は名乗っている。
それもまた束縛の一つ。
彼女がそう名乗るのなら、そう呼ぶのがルールだ。
「この男はグレイ=リングマーク」
部下を紹介する。
アリスが驚きの表情を向けてくる。
まるで私に部下が居ることが信じられないようだ。
失礼な話だ、私は偉いというのに。
グレイに頭を下げるカヅキをみてグレイをみる。めずらしく思考が読める。
気に入ったようだ、と安堵する。
気に入らないわけが無いのだが、それでも心配ではあった。
グレイもまた、彼女をつなぎとめるものになればいい。
そして、この哀れな少女が少しでも笑ってくれればいい、この世界で 幸せになってくれればいい。
この世界は君を否定しないから。
カヅキ、君はいつ死を願わなくなってくれるんだい?
思いを飲み込んで笑う。
笑うことで全てを信じたかった
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