引越しがあって時計塔と遊園地が消えた。
なんでみんな不安にならないのかしら?
まためぐり合えばなんて、この不安定な世界で言われても不安になるだけじゃない。
「アリス」
出かけるといった自分をビバルディは呼び止めて袋を差し出す。
「もし帽子屋屋敷に行くのであればこれをもっておいき」
受け取ってみれば中にはなにか布地が入っていた。
「なにこれ?」
「なに、ちょっとしたプレゼントだよ」
ビバルディは赤い唇を持ち上げていう。
「プレゼントってありえないわよね」
もしかしたら嫌がらせのなにかなのかもしれない。
そんなものを持っていったら自分に被害がくるのではないだろうか?
何回目かのため息をついて帽子屋屋敷の門の前に立つ。
いつものごとくディーとダムはいない。
使用人に声をかけて中に入る。
「ボスたちは庭でお茶会をしてます〜」
「またなのね」
なんでブラッドは来るたびにお茶会をしているのかしら?
あの紅茶狂いめ。
広い庭を進んで見つけた4人、と・・・子供。
まさかどこかからかさらってきたのだろうか?
それともブラッドの隠し子?
「お姉さん!いらっしゃい」
「どうしたのお姉さん?」
ディーとダムに引っ張られてブラッドたちのテーブルの前に来る。
「やぁ、お嬢さんようこそ」
「アリス、久しぶりだな」
「ええ、お邪魔してるわ、久しぶりねエリオット」
相変わらず犬のようになついている可愛いうさぎだなぁと思いながらも視線はブラッドとエリオットの間に座る子供にいってしまう。
綺麗な子だとおもう。 将来は絶対に美人になる。
黒髪に吸い込まれそうな漆黒の瞳。 陶磁器のように白い肌、桜色の唇。 人形みたい。
視線に気がついたのかこちらを見てくる。
合さった視線に思わず顔が熱くなる。
「はじめまして」
声もかわいい。鈴のなるような声とはこういうのをいうのだろう。
「あ、はじめまして。私はアリス=リデルよ」
「カヅキです」
「このおちびさんも、お嬢さんと同じ余所者なんだよ」
「えっ」
思わず声が裏返る。
この少女も元の世界からつれてこられたのだろうか?
それにしては落ち着いているし、自分とはずいぶん違う。
「そ、そうなの」
改めて少女をみれば、言いにくいがあまりいい格好ではない。
綿で作られたガウンのような物を着ているが汚れているし、あちこち切れている。
あまり裕福な家で育ったのではなさそうだ。
その割にはかもし出す空気は上流階級の人間のようだが。
立ちっぱなしもなんだと椅子を勧められて腰をかける。
途端に差し出される人参色のお菓子をつまみながら少女を見続ける。
「お姉さんこれなに?」
「わぁ、変な服が入ってるよお姉さん」
「って勝手に開けないでよ」
そういえば、驚きのあまりビバルディから預かっていたものを忘れていた。
「それ、ビバルディが持っていけっていってたものよ」
「女王が?」
「ええ」
「変な服だし、小さいね兄弟」
「うん、なんだろうねこれ」
ディーとダムが服を引っ張っている。
そんなに引っ張ったら千切れてしまうんじゃないだろうか?
「それは、着物というものです」
止めようと立ち上がるとカヅキが口を開く。
「私の世界の服ですね」
確かに、見比べれば共通点が無いことも無い。
ということは、これは少女へのプレゼントなのだろうか?
ビバルディはなぜこの少女のことを知っていたのだろう?
疑問がわいては解決されないまま沈んでいく。
「ふむ・・・、女王からのというのが気に入らないが」
ブラッドが指を鳴らす。
時計の針が合さったような音がすればカヅキの服が変わっていた。
「か、かわいい」
黒い髪に赤が映えている。
赤と黒を貴重とした「着物」という服を着たカヅキは本当に人形のように可愛い。
「・・・・・・・え」
突然自分の服が変わって驚いているカヅキに気持ちはわかる、とうなづく。
自分も初めて体験したときはびっくりしたものだ。
「似合ってるぜ」
「そうだな、よく似合う」
「うん、似合ってるよ」
「かわいいよ、高そうな服だね」
「ありがとう、ございます」
「これはなんだろうね兄弟」
「う〜ん、こっちのナイフみたいなのはもらってもいいかな」
いまだに袋の中をあさっていたディーとダムが袋をさかさまにしている。
カヅキへのプレゼントならカヅキに渡さなければいけないだろうが、確かに何なのかわからないものがはいっている。
首をかしげているとカヅキが近づいてきてそれを手に取る。
「短刀とコレは鋼糸ですね」
危ないですよ?と二つを服に差し込む。
おそらくすべてで一つのコーディネートなのだろう。
先ほどよりもカヅキの魅力が引き立てられているように思える。
それにしても、こんな子供に武器を持たせるなんて、ビバルディは何を考えているのだろう。
「だめよ、危ないわ」
そういってはずさせるつもりだったが、この危険な世界では必要なのかもしれない。
ましてやここはマフィアの本拠地だ。
自分が武器を携帯しないのは持ちたくないという信念だ。
それを人に押し付けるのは差し出がましいだろう。
本人が持つのを拒否していないならとめる必要はないかもしれない。
たとえばそれがきみの ため
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