手を伸ばしてくれた人は、あの人にどこか似た雰囲気を持つ人でした。
気だるげな雰囲気ではなく、その奥に潜む絶対的なもの。
きつく握られた指先が熱をもつ。
「歓迎会?」
「そうだとも、君は私の客人だ」
そういって私の身体を引く。
流れるようなその動きにすらあの人を重ねてしまうのはやはり罪なのだろうか?
知らない男に他の男を重ねる。
罪深い自分に吐き気がする。
「顔色が悪いようだが」
「大丈夫です」
目覚めたばかりだから血の巡りが悪いだけ。
そう思って、ふと笑いがこみ上げる。
夢の世界に逃げて、目がさめることの愚かしさ。
ああ、なんて自分は愚かしいのだろう。
この手は私を掬い上げてくれるだろうか?
この愚かしい心を、つぶしてくれるだろうか?
軽い頭痛に動きを止める。
どこかで誰かが、私を呼んでいる。
懐かしい声。
私が、捨てた声。
「大丈夫です」
もう一度口に出して微笑む。
「俺はブラッドの部下でエリオット=マーチってんだ」
うさぎ耳の大きな男。
「僕はトゥイードル=ディだよ」
「僕はトゥイードル=ダムだよ」
そっくりな双子。
ああ、本当にここは違う世界なのだ。
自分の世界にこんなうさぎ耳をつけた人間は居ない。
居たとしたらそれは物の怪だ。
「カヅキです」
ぺこりと頭を下げる。
歓迎会、とつれられてきた庭園に広げられた豪華な食器。
見たことのない茶や菓子。
興味深げにみていればうさぎ耳の男、エリオットが菓子を薦めてくる。
それをみないようにしているブラッドを目の端にとらえて薦められるがままに口をつける。
甘い味が口に広がる。
この世界はなんて贅沢なんだろう。
それともこの人たちが裕福なのだろうか?
「おいしい、です」
思わず頬が緩む。
「わっ!カヅキ、大丈夫?」
「ひよこうさぎ!何変なものたべさせてるのさ」
「ええ!なんだよ、うまくなかったのか?!」
自分の顔をみてあわてる3人に首をかしげる。
毒も何も入っていない甘い菓子の味は悪くない。
ふと、自分のほほに触れる指に顔を向ける。
「なぜ泣いている」
いわれて初めて自分が泣いていることに気がつく。
「やはり、人参ケーキはよくない」
「え?」
「そうだよひよこうさぎ、カヅキに変なもの食べさせるなよ」
「え?」
「なんだよっ人参ケーキは最高なんだぜ」
「あの」
「そう思ってるのはばかうさだけだよ」
「あ、あの・・・、別にいやじゃなくて」
おろおろして4人を見る。
どうしよう、自分は心配されているのだろうか?
そう思うとさらに涙があふれてくる。
「カヅキ」
「うれしい・・・んです」
そう、これはきっと嬉し涙。
あまりの世界の違いに悲しんでいるのではない。
優しい世界がうれしいから、泣いているのだ。
嬉しいよ嘘じゃないの 本当 に
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