薔薇の褥に眠る少女。
姉の置いていった余所者。
「さて どうしたものか」
なぜここにおいていったのか。
なぜ彼女では駄目なのか。
疑問はいくつもあるが、目の前にある心臓の音がやけに耳に響く。
その心臓の上に手をおいて少女を掬い上げる。
自分とは違う心臓の音。
軽い体重にわずかに力がこもる。
落ちていく花びらと一緒に消えてしまいそうなほどに儚い。
「おちびさん、早く目を覚ませ」
その目の色をみたい。
その声を聞きたい。
君の目に映る自分を確かめたい。
抱き上げて薔薇園を抜け出す。
彼女の部屋を用意させなくてはいけない。
「おちびさん、私を退屈させないでくれるなよ?」
目が覚めたとき、この子はどういう反応をするだろうか。
ハートの城の余所者のお嬢さんなら怒鳴りつけてくるかもしれない。
「どこいってたんだよブラッド、もう引越しが始まる…って、そのガキは?」
自分を探していたのだろう、エリオットが駆け寄ってくる。
引越しのとき、領主は持ち場を離れてはいけない。
どう回るかわからない引越しだから。
ゲームの参加者はルールにしたがわなければいけないから。
「迷子の余所者だ。私の客だ、殺すなよ」
「あ、ああ。……このガキがアリスと同じ余所者ねえ」
迷子、と口に出してどこかしっくりと来る感覚を覚える。
余所者は大抵何かに迷っている。
だからこそこの世界に来ることが出来る。
この少女は何を迷ってこの世界に来たのだろう。
女王なら知っているかもしれないが、聞くのはなんだか負けを認めるようで気に入らない。
「にっしても、ちっせーな」
「そうだな」
「ガキ共よりちっせーよな」
「ああ」
あいつらのオモチャにされそうだというエリオットにそれもそうだと頷く。
壊さないようにいっておかなければいけないだろう。
眠りから覚めない少女はいまだすべてを自分に預けて眠り続ける。
御伽噺ではお姫様が目覚めるには王子のキスが必要だが、残念ながら自分は王子ではない。
どちらかといわなくても、悪役だろう。
手に入らないものは奪う。
だから、早く目覚めてもらわなくては困る。
君の声が早く聞きたい。
「・・・・・・ここは?」
細い声に顔を上げる。
部屋の準備ができるまで、とブラッドは少女を自分のベッドに寝かせていた。
とはいえ、本音は一番最初に少女に自分を見てほしかったから。
一番最初に、その声が聞きたかったから。
ああ、想像していたよりも心地がいい。
「はじめまして、余所者のおちびさん」
誰かの目に自分の姿が映るのは、こんなにも心を躍らせるのだろうか。
「あなた、は?」
不安に揺れる瞳に手が伸びる。
なぜ、こんなにも惹きつけられるのだろう。
「私の名は、ブラッド=デュプレだ」
「ブラッド」
小さくつぶやかれる自分の何すら興奮する。
「おちびさん、君の名前は?」
「・・・・・・・・カヅキ」
「ではカヅキ、君の歓迎会をしよう」
伸ばした手に重ねられた小さな指をきつく握り締める。
それでも笑ってくれたのは 君
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