『星の瞬きが消えて 夕暮れの鐘が鳴り終わっても
 木陰の下で目を閉じておやすみなさい
 夢からさめないでこの腕の中でおやすみなさい
 時が過ぎていく中で、やさしい夢に包まれて
 おやすみなさい、愛しい子』

薔薇園で歌う。

腕の中の子供はまだ目覚める気配が無い。

「おまえは、やはりその姿を望むのだね」

束縛の証のその姿。

とらえるものが居なくても、囚われ続ける哀れな娘。

だが、何かがとらえ続けなければ存在できない娘。

だから預けよう。

憎々しいが、おそらく無意識にこの娘はすがるから。

この世界にいてくれるなら、目の届く範囲で笑ってくれるなら。

「おまえは、おまえだけのものだよ」

哀れなこの子には届かない言葉だけれども。

風に薔薇の花びらが舞う。

もうすぐ引越しが始まる。

城に戻らなくてはいけない。

「あやつは何をもたもたしておるのじゃ」

引越しの前に預けなくてはいけない。

愛しい、哀れな娘。

おまえが名乗るのはどちらの名前なのだろう。

「目が覚めてもわらわを呼ぶのだよ」

タイムリミットだ。

立ち上がり薔薇の褥に娘を横たえる。

「ブラッド、この子を守ってあげて」

「どういうことだ?」

夜の訪れと共にこの薔薇園の主が訪れる。

きっと自分は今泣きそうな顔をしているのかもしれない。

目の前の愚弟は戸惑ったように自分と娘を交互に見ている。

「本当はわらわの手で守りたいけど、無理だから」

だからせめて、繋ぎとめることが出来る男に預けよう。

「姉貴」

「もう、行かなければならぬな」

風が花弁を高く舞い上げる。

 

 

 

私は鋏になりたかった(あなたのうんめいをたちきるすくいで ありたかった)

 

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